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プロローグ 

はじめまして、五条義晴と申します。

ゆっくり書いて、ゆっくり投稿します。

よろしくお願いいたします。

「オイ、手取り少なすぎだろ! また手数料上げやがったのか!?」

「はい。これもギルド長の決定なので」


 今日も今日とて不穏なやりとりがカウンター越しに行われている。

 ここは〈獣滅士ギルド〉。その名の通り、獣を狩ることを生業とした人間達が所属する場所。

 昨今、世界に満ち溢れる〈魔力〉に汚染された凶暴な獣ーー通称〈魔獣〉と呼ばれた敵が増え続けていて、奴等から身を守るべく誕生せざるを得なかった職業ーーそれが〈獣滅士〉。

 見上げるほどの凶悪な魔獣達を屠る姿から一般市民からは英雄と謳われ、今やギルドという名前が国の看板と言っても過言ではないーーんだけど。


「バカ言うんじゃねぇ! ここ数年でどんだけ上げてやがる! クエスト受注に報告、換金に能力値更新、しまいにゃギルドに所属するだけで金を搾り取り始めるなんてよ!」

「数年前は一文も取らなかった癖に、今じゃ報酬の半分が代行手数料で飛んでいくんだ!」

「俺たちを奴隷か何かだと思ってんだろ!」


 この通り、カオス極まりない。

 大柄で厳つい装備を纏った男達が騒ぎ立てる理由は勿論、ここ数年で変貌しきったギルドの契約内容ーーほとんど手数料のこと。


「ギルド長の決定ですのでーーこれ以上のご意見は規定通り30秒ごとに大銅貨五枚の迷惑料を頂きます」

「これだよ! 何にでも金に物言わせて逃げやがる!」

「もうこんな詐欺ルドに居られるか! お前ら、もう行こうぜ!」


 こんな風に冷めきった受付嬢の対応に、日々獣滅士は辞めていく一方。

 だけどーー。


「契約解除料は小金貨10枚頂かなければーー」

「んなもん払ってられるか! 家賃何年分だと思ってんだよ!」

「今月更新された契約書に記載があったはずです……払えなければ奴隷商に送還しなければーー」

「ーーっ!! くそっ! やめねえよ!」


 顔を真っ赤にしてギルドを後にする男たち。

 そうーーこのループが続くことで、新たな獣滅士が増える事は無いものの既所属勢が減ることも無い。

 数年前の入会費や契約解除料は全て無料だったし、受注から報酬、換金まで、全て自分に入ってくるのが普通だった。

 しかしギルド側はずる賢く、項目ごとにかかる手数料の割合を気付かれない程度に増やし続けた。

 気づいた時には全費用の5、6割がギルドへーーそれに耐えられなければ富裕層にしか払えない金額を払うか、奴隷に成り下がるか。そんなところまで追い詰められている。

 いわば、今のギルドは監獄同然だ。


(なにか、抜け出せる方法はー)


 そんな風に、ギルドの端っこで壁にもたれかかる私もその一人。

 癖で長くなった黒髪をクルクルいじり、腰に装備した愛刀の小太刀ーーそこに結ばれた紐を指で巻き取り、解く。動きやすいようタイトな黒スーツの上に鋼鉄の胸当て。そんな小柄で貧相な身体を隠すべく深紅の外套に身を包む。特に意味はないけど。

 服装はいつも通りーーだけど、私の真っ赤な瞳は疲労と寝不足でクマに覆われてるんだろう。


(うぅ……頭が働かない)


 目頭をつまむ。

 私が最近頭を悩ますのは、どうやってこのギルドから逃げ出すか。それまでにどうやって日銭を稼ぎ、生き延びるか。そんな余裕のない思考がジワジワと不安を駆り立ててくる。

 と言っても、私達みたいな獣滅士が出来ることは依頼を受けて魔獣を倒すだけ。


(……なにか、きっかけさえあれば)


 そう、ギルドという名を被った監獄ーーその強固な檻を開ける鍵さえあれば、勢いに任せて動き出せるかもしれない。

 ……まぁそれも儚い希望に変わりないから諦めるんだけど。


「……ふぅ。仕事行かなきゃ」


 既に法外な受注料を支払ったクエストをこなすべく、ギルドからとぼとぼ出て行く。

 時刻はもう夕方。2、3年前なら帰路に着く雰囲気だけど、そうも言ってられないのが獣滅士の現状。


「ーーおい、聞いたか?」

「あぁ、聞いた聞いた。大富豪のマグナンド家がーー」


 立ち去ろうとするや否や、すれ違った二人の男獣滅士が小声で会話し合っているのが聞こえた。

 距離が遠ざかり、その後の内容は聞き取れなくなったけど、なんか少し引っかかるような。


「……ま、いっか」


 それよりも、お金だ。

 とにかく稼いで生き延びて、今後の計画を立てないと。


「……私は、絶対に英雄になる」


 毎度の如く夢を言霊に乗せ、いつもの通り道をとぼとぼ歩いて行く。

 この時、既に運命の秒針が動き始めたとも知らずに。

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