転生したらゆっくりだった時の俺の気持ちを分かるやついる?
気がついたらゆっくりに転生してしまった。いや、実は人間の俺の肉体は生きていて、ゆっくりの体に憑依……なんて可能性もあるかもしれない。
ここで一度ゆっくりという存在についておさらいしておこう。
ゆっくりとは約10年ほど前、突如として日本に出現し大量増殖した饅頭型の生物……いや、生物だ。その身体は謎に包まれており、食べたものを自分の体内と同じ物質に変換できたり、体内の《中枢餡》と呼ばれる部位が無事な限り再生することが可能だったり、特殊な光線や念動力が使える個体がいたりと、現代科学では説明ができないことが山程ある。
しかし、ゆっくりというナマモノのほとんどは自己中心的、かつ幼稚園児並みの知能しか持たない。そのため、《この世界はゆっくりによるゆっくりのゆっくりするための世界》なのだと信じるゆっくりは少なくなく、人のゴミを漁り、畑を荒し、家へ侵入するなど、今では大半の国民が野良ゆっくり=害獣という認識になっている。
さて、そんなゆっくりなのだが、害獣というのは人に害をなすためそう呼ばれている。そして、害をなす存在は人々の日常を守るため《駆除》しなければならない。それが街のなかなら尚更だろう。
俺は生まれたらしき家……段ボールのなかから外を除き見る。そこからはコンクリートの壁とエアコンらしき配線などが見えた。間違いない、ここは街だろう。街は人間の楽園だ。しかし、ゆっくりにとっては違う。ゆっくりにとっての街は……
「ゆ?いもーちょ、どうかしたのぜ?ゆっくりへんじするのぜ?」
ハッ!姉?らしき声にようやく我にかえった俺は、親姉妹ともども俺を心配そうに見つめていることに気がついた。
不味い、確かゆっくりというのは、ゆっくりしていない個体(返事を返さないや言葉を話さない等)がいると、選別と称して殺してしまうことがあるらしい。
そんなのは嫌だ。ゆっくりに転生してしまったといえ、なにも好きに死にたいとは思わない。人に戻る方法もわからないし、それを抜きにしても自ら命をなげうつのは俺の性に合わない。
だから考える。どうすればこの危機を乗り越えられるのか、どうすればこいつらに殺されずに済むのか、考える。そして、それを言葉にする。
「ゆ、ゆっくりしていっちぇね……。」
俺は、生まれて間もない声帯を使い、蚊の泣くような声でそう答えた。
「「「ゆっくりしていってね!」」」
それに対する反応は大きなものだった。俺の言葉にゆっくりたちは歓喜し、小さい家族が返事を返した幸せを噛み締めているようだった。
正解だったか……。俺は内心でふぅと胸を撫で下ろした。ゆっくりは基本的にさみしがりやなため、家族や兄弟同士で挨拶をしあうので、挨拶をしてくる=仲間という認識がアンコのなかに刷り込まれているのだ。今回は上手くその習性に漬け込むことができた。すこし恥ずかしかったが。
しかし、俺は自分の体を見下ろす。そこには生まれたばかりで全く発達していない赤ゆっくりの姿があった。この体では運動は愚か、まともに行動することすら出来ないだろう。
しょうがないので、しばらくはこのままゆっくりのヒモになるしかないようだ。俺はそんな自分の人生……いや、ゆん生を憂い、ため息を吐いた。
しかし、俺はあまり重要視していなかった。街はゆっくりにとって……
地獄だということを……。