エピローグ
「おい、新堂と白田が大ヤケド負ったって聞いたか?」
「聞いたぜ。新堂のヤツ、白田いじめ過ぎて反撃されたんだろ?」
「バカだよなあ。高校生にもなって、いじめなんてするから」
「全くだよなあ」
クラスメイトたちが憶測で新堂を嘲笑うのを聞き、俺は密かに怒りを抑えていた。
こいつらは新堂がどんな思いでいじめに手を染めていたかも知らなかったし、そもそもいじめを止めようともしなかった。それにも関わらず、新堂に単なるいじめっ子のレッテルを貼って、いい気になっている。俺はそれが許せなかった。
俺と中町……後の新堂が仲良くなったのは、同じ中学に入ってからだった。当時の新堂は両親の離婚で心身ともに疲弊していた。俺は白田の行為を止められなかった贖罪をするかのように、新堂と仲良くなった。そうしていくうちに、新堂も明るさを取り戻し、スポーツや筋トレを始めて、体つきも大きくなっていった。
だが、俺と新堂が進学した高校には、ヤツがいた。
「白田和善です。よろしくお願いします」
白田を見た新堂は体を硬直させ、しばらく呼吸が荒くなっていた。小学校の頃のいじめを思い出してしまったのは明らかだった。
「新堂、大丈夫か?」
「……大丈夫だ。大丈夫、俺は大丈夫だ」
まるで自分に言い聞かせるかのように呟いていたので、俺は心配になった。一方で、白田の方は新堂を見ても特に目立った反応を見せなかった。新堂の外見も苗字も変わっていたので、気づかないのも無理はないかもしれない。
「七瀬、俺は大丈夫だよな? 変じゃないよな?」
「大丈夫だ、お前はおかしくない。安心しろ」
白田がこのまま新堂のことに気づかないのであれば、それでいいと思った。新堂もそのうち落ち着くだろうと思っていた。
しかし、ある日の出来事が新堂の運命を歪めてしまった。その日に行われていたのは、『いじめはどうすれば減らせるか』というのを討論する授業だった。
大半の生徒はあまり真剣に考えていなかったが、そんな中で白田はこんなことを言った。
「いじめは絶対に許されない行為だと思います。他人をいじめる側の人間には、厳しい罰を課して見せしめにすることが、いじめを減らす第一歩になるはずです」
教師やクラスメイトたちも、白田の発言をそこまで気に留めていなかったが、俺はその言葉を聞いて怒りがこみ上がっていた。
どの口がそんなことを言う!? 新堂の顔に消えない傷を残したお前が、なぜそんなことを言える!? その考えが頭を駆け巡っていた。
そしてその授業が終わった後、新堂は俺に声をかけてきた。
「七瀬、もう俺に関わるな」
「は? どういうことだ?」
「俺は今から、白田と同じような外道になる。だからお前はもう俺との関係を切れ」
「待て! お前まさか……!」
「じゃあな、お前がいてくれて、助かったよ」
その後、新堂による白田へのいじめは始まった。それに便乗したのが、勝浦と釜石だったのだ。
俺は今だからこそ、あの時の新堂の気持ちを考える。やはり新堂も白田を許せなかったんだ。自分をいじめたことではなく、自分をいじめたことを棚に上げて、まるで自分が潔白であるかのように振舞うのが許せなかった。だから白田をいじめたし、白田をいじめた自分も許せなかった。だから自分にもヤケドを負わせた。
新堂は『自分も白田も同じクズだ』と言っていた。それはやはり正しいのだろう。そうでなければ、白田と新堂のどちらかのいじめを正当化してしまうことになる。
だけど俺はどうしても思ってしまう。新堂は単なるいじめっ子ではなかったと。それは俺が新堂を贔屓しているだけだというのもわかっている。
だがそれは、白田が『僕はお前らとは違う』と思い込むのと何が違う? だから俺はこう思うしかなかった。
白田も新堂も、そして俺も……『自分だけは違う』と思いたがる、ただのクズだった。
僕はこいつらとは違う 完