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 僕は家に帰り、携帯電話で灯油について調べていた。灯油の引火点や発火点、そして購入方法についてだ。

 まず、灯油の引火点は40℃程度だという。しかし灯油には揮発性があるため、液体の状態から揮発した灯油が空気中に浮遊すれば、引火点以下でも充分引火するらしい。しかし、40℃以下の状態では火を近づけても充分に燃え広がらないため、一旦は火が付いても、火が燃え続けるのは難しいようだ。つまり、少し灯油を温めた状態で人間にかけて火をつければ、相手は大やけどを負うということで間違いないだろう。

 次に灯油の購入方法についてだったが、ガソリンスタンドで購入は可能だった。しかも最近はガソリンスタンドもセルフの方式の店舗が多いので、灯油を購入するときに怪しまれる可能性も少ないだろう。 問題は購入した灯油をどこに保管し、どうやって新堂に火傷を負わせるかだった。人間一人に火傷を負わすとなれば、相当の量の灯油が必要となる。少なくともポリタンク満タンくらいの量はいるだろう。それを持ち運ぶのも大変だ。

 僕と新堂が会うのは、当然のことながら学校だ。つまり学校のどこかに灯油を隠しておく必要があるだろう。しかし校庭の隅や倉庫の裏などに隠すとしても、長期間隠せるわけでもない。灯油を買ったら短期決戦で新堂にトドメを刺さなければならない。



 翌日。

 僕は灯油を隠せる場所を探すために、校内を巡っていた。一体どこなら最適か……そう思いながら、校庭の隅にある茂みに足を踏み入れていた。


「……白田、お前なにしてるんだ?」

「ひっ!?」


 しかしそこで、七瀬くんに声をかけられた。やましいことをしている自覚があるので、思わず驚いた声を上げてしまう。


「なんだ、気持ち悪いな。そんなにビビらなくても、なにもしねえよ」

「……七瀬くん、なんでここに?」

「それはこっちのセリフだ。お前がコソコソ茂みに入っていくのが見えたんだよ」

「べ、別に僕はコソコソしてるわけじゃないよ」

「ならいいけどな」


 そう言いながらも、七瀬くんは僕を睨みながら近づいてくる。


「お前、新堂に何かするつもりなのか? だとしたらやめとけ。お前はそのまま新堂には何もするな」

「なに、それ?」


 そんなの、『お前はそのまま黙っていじめられておけ』って言ってるのと同じじゃないか。どうしてそんなことを言うんだろう。


「新堂に復讐するつもりなら、筋違いだって言ってるんだよ」

「筋違いって……じゃあ七瀬くんは、僕がこのまま苦しみ抜けばいいと思ってるの?」

「はっきり言えば、俺はそう思ってる。だが新堂は別だ。俺は新堂だけは止めてやりたい」

「……?」


 なんだ? 七瀬くんは何を言ってる? さっきから聞いていれば、七瀬くんはまるで新堂のことを助けたいかのような発言をしている。 だけどいじめられているのは僕の方だ。被害者はあくまで僕なんだ。七瀬くんは間違っている。


「なんで新堂なんかを助けようとするんだよ! あいつは普通の人間じゃない! 他人をいじめることを楽しむ異常者なんだよ!? そんなヤツを助けようとするなんておかしいよ!」

「……新堂が、異常者だと?」

「当たり前じゃないか! だってそうじゃなかったら、他人をいじめるなんてことはしないでしょ? 君はいじめる側のクズを助けようとするのに、僕のことは助けてくれないの!?」

「なんで俺がお前を助けなければならないんだ?」

「は!?」


 七瀬くんは本気で理解できないといった表情で疑問を投げかけてくる。まさかここまで理解力がないとは思わなかった。


「僕はいじめられてるんだよ!? 何も悪くないのに、新堂なんてクズのせいで人生が狂ったんだ! それなのに君はいじめを見て見ぬふりをして、心が痛まないの!? それだったら君もおかしいよ!」

「見て見ぬふりはしてないさ。お前がいじめられてようが、助ける気がないだけだ」

「そんなの言い訳でしょ! 新堂が怖いだけなんだろ!?」

「いいや、新堂は怖くない。そして俺は、純粋にお前を助けたくない。それだけだ」

「そんな……」


 僕がここまで言葉を投げかけても、七瀬くんはわかってくれない。どうしてだ、どうして僕の周りはここまで僕を追い詰めるんだ。どうして僕の周りはバカばかりなんだ。


「白田。お前が新堂に何か危害を加えるつもりなら、俺はそれを全力で止める。それだけは覚えておけ」


 そう言って、七瀬くんはどこかに電話をかけながらその場を立ち去ってしまった。


「……なんで」


 思わず呟いてしまったけれど、それでも誰も僕を味方してくれない。七瀬くんも、クラスメイトも、朋江ちゃんも、僕を助けてくれない。 みんなおかしい。僕がこんなに困っているのに、誰も手を差し伸べてくれない。


 だけど悲しんでばかりもいられない。もしかしたら七瀬くんが新堂に僕の動きを伝えているかもしれない。

 こうなったら一刻の猶予もない。今日の放課後にも、灯油を購入して作戦を実行に移すしかない。


 ……しかし、そんな僕の思いは。


「よぉ、白田。お前俺に何かするつもりなのかぁ?」


 新堂の邪悪な笑みで塗りつぶされた。

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