ライゼンの強さ
燃え盛る大地の上でライゼンはエンを睨みつけていた。
「お前1人で俺と戦えるとでも───」
エンが言葉を発した次の瞬間には、もう既にそこにエンはいなかった。
一瞬で距離を詰めたライゼンに叩き飛ばされたからだ。
「てめぇ、ふざけんじゃ───」
エンがライゼンに向かって叫ぶが、またしても言葉を終えることなくその身が吹き飛ぶ。
「調子に乗んな!フレイム!」
エンが空中で体勢を立て直し、炎をライゼンに向かって飛ばす。
しかし、ライゼンがハンマーをひと振りするだけで、炎がかき消されてしまう。
「くそが、なめんじゃねえぞ…!」
ライゼンから振り下ろされるハンマーをエンは受け止める。
いくらパワーがあるとはいえ、俺に敵うはずなんてねぇ!
ハンマーごと投げ飛ばしてやろうとエンが思ったその時、ハンマーから光が発せられる。
「アホめ」
「なっ…!?」
次の瞬間、ハンマーが大爆発を起こしエンはその爆発に飲まれた。
いくら頑丈な魔族とはいえ、爆発をモロに食らってはひとたまりもない。
しかしエンは違う。
大半が炎で作られているエンに、炎上効果のある爆発は効かない。
………はずなのだが。
「なんだくそ!いてえええぇ!!」
エンが悶えていると、そこに同じく爆発に巻き込まれたはずのライゼンが無傷で立っていた。
「貴様ぁぁ!一体何をしやがったぁ!!」
「私が敵に仕組みをベラベラと話す馬鹿だと思うのか?アホめ」
ライゼンが獣の如く鋭い目で睨むと、ハンマーを大きく振りかぶる。
そして全力でエンに叩きつけた!
その威力は凄まじく、エンを中心に大きく地形を変動させる程であった。
「がはっ…!?」
「死滅しろ」
ライゼンが一言呟くと、再びハンマーが光りだす。
そして、先程よりも遥かに大きな爆発が戦場を包み込んだ。
「フ…れいムゥ!」
突然の炎に、ライゼンは後ろへ飛んで避ける。
煙が晴れたそこには、かろうじて人の形を保っているエンの姿があった。
「ぎさまァ!覚エテいロ!絶対に殺ジテやるゥ!!」
半分削げた口でなんとかエンが話すと、空の裂け目に向かって飛び上がる。
「させるか!」
ライゼンも飛び上がってエンを叩き落とそうとするが、裂け目から出てきた魔族が魔法を放ってそれを阻止する。
「くそ、逃がしたか…」
「ライゼンー!」
着地したライゼンの元に、ゼルが駆け寄る。
「大丈夫か!」
「あぁ、言っただろう?私ならなんてことないってな」
「流石だな…」
「まぁな、それにしても…」
「?」
「やけにあっさり引いたな…しかも四天王なのに1人しかいなかったし…」
確かに、ボス1人倒されただけで他の魔族全員が引くのは違和感がある。
こちらの戦力が欠けた今、物量で押してしまえばひとたまりも無かっただろうに…
ゼルが考えていると、遠くからハーピィが飛んでくる。
ハーピィとは、鳥のような手足を持つ魔人である。
魔法スキルを使わずに飛べ、その速度も速い事から伝令に使われる事が多い。
「ライゼン様ー!」
「戻ったか、しかしもう援軍は必要ないかもしれない───」
「大変です!エルフ族の首都も同時に攻撃されていて援軍が送れないそうです!」
「なんだと!?」
驚くライゼンの元へ、もう1人ハーピィが戻ってくる。
「ライゼン様!人間族の首都が攻撃されていて援軍が来れないそうです!」
「まさか…」
ライゼンが小さく呟き、顎に手を添える。
「ライゼン!こりゃ一体どうなってんだ!?」
「恐らくだが…」
ゼルの問いかけに、ライゼンが答える。
「分散して同時に各国を攻撃して援軍を送らせないようにし、攻撃が通った国にまとめて攻め込むつもりだ…」
ゼルの頭の中で点と点が繋がる。
四天王なのに一人しかいなかった理由は、各国にそれぞれ分散しているから。
すぐに引いた理由は、ここを後回しにして打撃が入った国に戦力を投入するつもりだから。
「ってなると他の国がやべぇじゃねぇか!救援に行かねえと…!」
「待て、ゼル!」
ゼルが救援に行く準備をしようとすると、ライゼンがそれを止める。
「援軍は出せない…」
「は!?なんでだよ!」
ライゼンの意図が分からず、ゼルが怒鳴る。
こっちは攻撃が止んでるのだ。
こうしている間にも他の国が危険に晒されているのなら、助けに行くべきじゃないのか。
「ゼル、あれを見ろ」
ライゼンが空を指差し、ゼルがそこを見る。
「……!」
「理解したか?」
そこには、最初と変わらない空の裂け目があった。
「確かに今私達は攻撃されていない。が、敵の移動手段であるあの裂け目がある限り、いつ再度攻めて来るか分からない」
ライゼンの言葉に、ゼルは唇を噛んで空の裂け目を睨みつける。
「ウチらがいなくなった瞬間に攻めてくるつもりかよ、卑怯者が…」
「ゼル、君だけ行くか?」
「は…?」
「ここは私でなんとかする。Sランクの君なら1人でも大幅な戦力向上になるだろう」
「でも、大丈夫なのかよ…?」
流石にあの数がまた攻めてきたらライゼン1人じゃ限界がある。
魔族1人1人があの強さな以上、ほかの兵士を前に出すわけにはいかないのだ。
「大丈夫だ、私はまだ本気も出していない」
ライゼンがニカっと笑う。
「それに、全箇所で四天王を倒したなら、しばらく攻めてくることもないだろうしな」
「まぁ、ライゼンがそう言うなら…」
少し不安があったゼルだったが、救援の準備を進めるのだった────




