報告とお酒
「ふっふ~ん♪」
アスタルテは機嫌良く鼻歌を歌いながら街を歩いていた。
その手にはジャリジャリと音のする布袋を持っており、腕のアームレットは光を吸収、反射し綺麗な輝きを放っている。
鉱山を後にしたアスタルテ達はそのままギルドへ向かいそこであった出来事を報告した。
軍を動かすつもりだったギルド長は単独での撃破が信じられないといった様子だったが、魔王ノレスの登場によって状況が一変した。
衰えてもギルド長は元SSランク冒険者なので、ノレスと共に行動しているアスタルテが只者ではないと察したのだ。
ギルド長は私達に感謝と労いの言葉を投げたが、アスタルテはその言葉に激怒した。
なぜレーネ達を捨て駒みたいに扱ったのか、まずは危険な目に合わせたことを謝罪するべきではないのかと。
今思えばロックドラゴンの時より怒っていたかもしれない…
アスタルテから発する、国一つ消し飛ぶのではないかというレベルのオーラは、アスタルテをなだめようとしたレーネ達を黙らせ、ギルド長に生命の危機を与え、ノレスに冷や汗を流させるほどだった。
そこでようやくギルド長は心から謝罪した。
曰く、Sランクのレーネ達なら例え強敵が出てきたとしても対応できると思っていたらしい。
討伐報酬そしてお詫びも兼ねて、アスタルテ達には多額の報酬金が出た。
ついでにロックドラゴンを倒したことで一気にレベルが上がったアスタルテはSランクへと昇格したのだった。
アスタルテとしては冒険者として順調に駆け出していて困っていたお金の問題も解決し、さらにギルド長への怒りもスッキリと一石二鳥どころか一石三鳥だった。
うきうきのアスタルテにレーネが声をかける。
「アスタルテ君はそれを何に使うんだい?」
「実は、もう何に使うかは決めているんです!」
そう、アスタルテは目標が既にあったのだ。
本当はコツコツ稼いで実現させようと思っていたのだが、こうなれば話は別だ。
「ほう…?内容を聞いても?」
レーネが興味深そうに聞いてくる。
「実はですね…」
アスタルテが顔を上げ、生き生きとした表情で答える。
「家を買おうと思うんです!!」
レーネはそれを聞いて首を傾げた。
「ふむ…なぜまた家を買おうと思ったんだい?」
「これまでレニーの家に泊めてもらっていましたし、今日も宿屋の予定なので…とりあえず地盤を固めるという意味でも家が欲しいんです!」
このままじゃ入手するアイテムとかも全部持ち歩かなくてはいけなくなってしまうというのもある。
いくらアイテム収納のスキルがあるとはいえ、上限がある可能性もあるのだ。
それに、持ち家というのは少し憧れがあった。
ノレスもどうやらくっついてくるみたいだし、いつまでも宿屋暮らしにもいかないだろう。
(…それに、プライベート空間も欲しいし…)
今までごたついていてあまり気にしていなかったが、自分の周りは女性だらけなのだ。
アスタルテは身体こそ女ではあるが、心は男である。
付いていないからか性欲はあまり沸かないものの、ドキドキはしてしまう。
なんだかんだ皆、美人だし…
レーネさんは頼りになるお姉さんな上に凛とした顔立ちで素敵だし、ゼルさんは言葉は乱暴なものの引き締まった筋肉質なお腹がとても…グッと来るしなんだかリードされたいような…あれ、段々心も女性寄りになってきてる…?
かと思いきやコトハさんは小動物のような愛らしさがあって思わず甘やかしたいとか思ってしまうし…
ノレスは言動こそ少し飛んでいるが見た目は完璧だし…
(って何考えているんだ私はぁぁ!)
アスタルテが頭をぶんぶん振っていると、レーネが声をかける。
「それなら、私の知り合いに物件を扱っている者がいるから良ければ明日紹介しよう」
「えっ、本当ですか!?」
なんだかレーネさんには色々助けてもらっているな…
ギルド中継所といいグレイスまでの案内といい今回といい…
宿屋に着いたらお礼も兼ねてご飯でも奢ろう…
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「どうして、こうなった?」
アスタルテはレーネの膝の上に乗っていて、右腕にはコトハが絡みついており、左手をゼルが握っていた。
「アスタルテ君は私の膝の上にいるべきだ。これは譲ることができない」
「アスタルテはうちのもんだ!おいレーネ!そこをどけ!」
「…アスタルテは…私に…ゾッコン…だから…」
え~と…確かご飯を食べることになって、ゼルが麦酒を頼んで、久しぶりに飲みたくなって頼んだら皆頼んで…酔っ払ったと…
アスタルテは6杯目の麦酒を見ながら考えた。
麦酒…すなわちビールのようなものだ。
作りたてだからなのかとても美味しくついハイペースで飲んでしまったのだが、不思議と一切酔いが回ってこなかった。
この身体がお酒に強いのか…それとも全くアルコールが効かないのだろうか…?
(ノレス…!ヘルプ!!)
ノレスに視線を移すと、ノレスはビールを嗜んでいた。
「ほう…人間の作る酒はかなり美味じゃな…」
頬をわずかに染めつつノレスが言う。
(ノレスー!!)
アスタルテが心で叫ぶと、なんとなく伝わったのかノレスがこちらを見る。
「…まさに、酒池肉林じゃな?」
「そんな事言ってる場合かあああ!!」
─────1時間後……
酔いつぶれて寝てしまった三人の横でアスタルテは机に突っ伏していた。
「まさか…三人があんなに酒癖が悪いなんて…」
「三人共アスタルテにベッタリだったのう?」
「女性がこんなんじゃ私心配だよ…」
「……そなたも女性じゃろうに」
「とりあえず部屋に運ぼう…私コトハさん持っていくから、ノレス頼める?」
そう言ってコトハをお姫様抱っこする。
「魔王に運ばせるとは…仕方ないのう…」
ノレスは魔力を使って2人を浮かせて運んでいた。
「とりあえずコトハさんこっちのベッドで寝かせるから、ノレスは2人をお願い」
「うむ、分かった」
ノレスが隣の部屋に入っていくのを確認し、アスタルテも部屋に入る。
「ベッド1つしかないんだが…?」
部屋に入ると、ダブルサイズのベッドが1つあるだけだった。
(まぁ、床にシーツ一枚敷いて寝ればいいか…)
流石に女性と一緒のベッドに入るのは…うん、床で寝よう。
レニーとは成り行きでああなってしまったし…ここは紳士的に…
コトハをベッドに下ろそうと前かがみになった瞬間、コトハに引っ張られそのままベッドにダイブしてしまった。
「こ、コトハさん!?起きてたんですか!?」
「…寝た…ふり…アスタルテ…一緒に…寝る…」
咄嗟に離れようとするも、お腹に抱きつかれてしまい離れられなかった。
(レニーの時といい、なんで毎回こんなことになるんだ…!!)
コトハの様子を伺っていたアスタルテだったが、やけに大人しい。
見ると、アスタルテに抱きついたまま眠ってしまっていた。
「なんだか面白い事になっとるのう?」
2人を寝かせてきたのか、扉からノレスが入ってくる。
そしてそのままベッドに入ると、背中から抱きついてきた。
「ちょ、ノレス…!」
「我も今日は少々疲れたのでな、寝る」
そういうと大人しくなってしまった…
「こ……」
(こんな状況で、寝れるわけが無いだろうがあああああ!)
一人狼狽するアスタルテであった─────




