目覚めし巨竜
どうも、あすれみです!
お仕事の方が再開したので、投稿ペースが少し落ちます…
でも、止めることなく執筆は続けますのでご安心を…!!
それでは本編をお楽しみいただければと思います!
「魔物ねぇ…そんなもん、本当にいるのか?」
ゼルが気だるそうに言う。
「まあ、万が一に備えておいて損は無いだろう。それにギルド長の言い方が妙に引っかかってね、調査だけにしては大掛かり過ぎる気がするんだ」
「普通…地震…引き起こすレベルの魔物なら…私達だけで…倒せる…軍…わざわざ必要ない…」
「ふ〜ん、まあウチはよく分からんけどよ、さっさと終わらせて帰ろうぜ」
(何も起こらないといいのだが…)
不安を抱えつつレーネは進むのだった。
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「ここが例の鉱山だ、ここからはいつでも戦闘態勢に入れるようにするぞ」
「おっけー」
「…分かった」
鉱山に着き、レーネ達は早速歩みを進める。
しかし、どうにも様子がおかしい。
ゼルとコトハもそれに気付いたみたいだ。
「なんか、おかしくねえか?」
「魔物が…いない…」
そうなのだ。
普通なら少なからず魔物がいるにも関わらず、辺りはおろか鉱山内にも魔物の姿は無かった。
「ふむ、地震の影響で逃げたのか…それとも、大きな存在によって滅ぼされたのか…いずれにせよ、慎重に進もう」
レーネ達は気配を消しつつ奥へと進む。
しかし、いくら進んでもそこに魔物はいなかった。
「いくらなんでもおかしすぎんだろ。気味がわりぃ」
「もう…帰りたい…」
流石に2人もこの状況に見えない恐怖を抱き始めていた。
「気持ちは分かるが、そういうわけにもいかないだろう。さっさと最深部まで行って、何もないならないで帰ろうか」
普段なら引き返している所だが、流石に今回はそうもいかない。
レーネ達が進んでいくと、やがて大きな空間に出た。
「ここが最深部っぽいな、つってもなんにもねえぞ?」
「なんか…ここ…嫌な気配…する…早く帰ろう…」
それを聞いたレーネが首を横に振る。
「帰りたい気持ちは山々だが、私達の任務は地震の原因の調査だ、本当に何もないのか調べよう」
そう言ってレーネが前に進むと、地面の一部が盛り上がっているのを見つけた。
(地震によって地盤が変形しているのか…?)
レーネが顎に手を当てて考えていると、突如地面が揺れ出す!
「地震か!?」
「お、おい!これかなりでけえぞ!生き埋めになる前に出たほうがいい!」
レーネ達は来た道へ引き返そうとしたが、天井から岩が落ちてくると出口を塞いでしまった。
「コトハ!魔法でこの岩を吹き飛ばせるか!?」
「出来る…と思う…少し…下がってて…」
「お、おい!あれを見ろ!」
コトハが魔法スキルの準備をし始めたと同時にゼルが声を上げる。
レーネがその方向を見ると、先程地面が盛り上がっていた部分がより大きく盛り上がっていた。
やがて地面がはじけると、そこから大きな魔物が現れる。
「これは…ロックドラゴン…か?」
「そのようだな、だけどなんか妙だぞ?」
「……大きい…」
ロックドラゴンとは、その名のとおり岩のような鎧を全身に纏ったドラゴンのことである。
討伐の適正はA~Sで、高難度ダンジョンのボスとして登場する事が多い。
その岩のような鎧は並大抵の剣や魔法を通さないためかなり厄介なのだが、岩をも切り裂くレーネ達の敵では無かった。
しかし、目の前にいるのは本当にロックドラゴンなのだろうか…?
姿かたちこそ一緒なものの、一般的なロックドラゴンの倍以上はある。
60メートルはあるだろうか…とにかく大きかった。
「ただでかいだけだろ?レーネ、やるか?」
「これは…逃げ切れる…気がしない…」
レーネは思考を巡らせ、そして指示を出す。
「よし、戦闘に移行する。だが大きさ相応の戦力があるならこいつは危険だ。状況に応じて撤退も視野に入れるぞ」
「よっしゃ、いくぜ!」
ゼルが駆け出し、空へと飛び上がる。
そして落下の勢いをバスターソードに乗せてロックドラゴンに強烈な一撃を加える!
…が、効いていないのかロックドラゴンはそのままゼルを振り払った。
ゼルは空中で体制を立て直し地面に着地する。
「えらいかってーな、久々に歯ごたえのあるやつだ、ぜっ!」
言い終わると同時にゼルは再び飛び上がり、ロックドラゴンの前に出た。
「大切断!!」
ゼルはスキルを放ち、バスターソードの重量が1.5倍になる。
この状態で自由に振り回すほどの力を持つ者は世界でも数少ないだろう。
「オラオラオラァ!」
まるでプラスチックのおもちゃかと思うほどゼルは軽々と大剣を振り回していた。
しかし、どれも岩のような鱗に弾かれてしまい、ダメージを通すことができなかった。
「くっそー、普通のロックドラゴンだったら今頃バラバラなんだがな…」
ゼルが頭を掻いていると、その横をレーネが駆け抜ける。
「相手は硬い。なら正面突破じゃ駄目だ!」
レーネが言い終わった頃にはもうその場にはおらず、その姿はロックドラゴンの下にいた。
「肉質の柔らかいところから弱点を削り出す!スラッシュストーム!!」
レーネが唱えると、瞬く間に剣の雨を降らす。
一見ただの連撃に見えるものの、その狙いは的確に一点を突いており、まるで複雑に絡まった毛糸を1本ずつほぐすかのように鱗を削いでゆく。
これはレーネの持つ素早さ、技量そして一瞬の判断力があるからこそ出来る技であった。
ドゴォォォン!!!
その時、後ろから爆音が聞こえゼルは振り返る。
見ると、塞がった出口をコトハが吹き飛ばしていた。
「…完了…戦闘…参加できる…」
そう言ってゼルの隣に並ぶ。
「よしきた、ウチにステータスアップをかけてくれ!」
「…了解…ステータスアップ…!」
コトハが唱えるとゼルは光に包まれ、その身に力が宿る。
「っしゃぁ!行くぜ!レーネ、指示をくれ!」
ゼルが叫ぶと同時にロックドラゴンの鱗は砕け、その皮膚が現れる。
「よし、ここを一気に突く!カウンターで体勢を崩したらコトハは援護射撃をしつつこいつを浮き上がらせてくれ!ゼルは私と同時に叩くぞ!」
鱗を剥がされたロックドラゴンはレーネを吹き飛ばそうと腕を振りかざした。
「甘い!反撃の型!」
しかし、レーネはそれを受け流しその勢いのまま腕を切りつける。
攻撃を受け流されたロックドラゴンはそのバランスを崩した。
「今だ!コトハ!」
レーネが叫ぶと、コトハは詠唱する。
「エレメントスイッチ…ウィンド…!豪風を引き起こし…その身を刻め…ストーム…!!」
コトハの持つスペルブックが緑色の光を放ち、次の瞬間ロックドラゴンを竜巻が包む。
すると、その巨体は浮き上がり、レーネの削り出した部分が鮮明になった。
「行くぞ、ゼル!」
「あぁ、狂戦士化!!」
ゼルが唱えると、その身体は赤いオーラで包まれ、目は赤く光り、角はその大きさを増した。
そして先に駆け出したレーネに追いつくと、同時にロックドラゴンの下に行く。
「剣よ、その鋭さを極限へと高め、敵を討ち滅ぼす一閃とならん!滅一閃!!」
「グルアァ!力こそパワー!物量こそ万物!圧倒的な力で全てをねじ伏せろオオオ!天地両断!!」
レーネの渾身の一閃が貫き、重量と大きさが20倍まで引き上げられたゼルの大剣が切り上げる。
それを受けたロックドラゴンは吹き飛び、壁に衝突する。
必殺技を放った事で一気に魔力を使った二人は膝を付いた。
「ふぅ、大して動いていないのに魔力を一気に使うとキツイな…」
「ひっさびさに疲れたなぁ…ちょいとやりすぎたんじゃねぇか?」
「…二人共…お疲れ様…」
三人が一息ついていると、空気が急に変わるのを感じた。
なんと例えればいいのだろうか…悪寒、殺気、嫌な予感とでもいうのだろうか…
なんにせよ、数々の修羅場をくぐり抜けてきた三人は一瞬で察した。
その瞬間、倒したはずのロックドラゴンが轟音と共に起き上がった!
しかもどうにも様子がおかしい…
巨体に生えている岩がボロボロと剥がれ落ち、やがて銀色の光沢を放つ結晶へと姿を変えた。
その姿は神秘的であり幻想的だった。
だが、すぐに現実に引き戻される。
「せ、戦闘態勢!今の状態では無理だ!とにかく攪乱して逃げるぞ!」
「…でも…逃げたら…追ってくる…外に出すのは…まずい…」
「んなこと言ってる場合じゃねえぞ!どのみち戦ってもヤられてこいつは外に出るだろうが!」
「落ち着け!とにかくもう一度仕掛けるぞ…!ゼルは私と前へ、コトハは後方から魔法スキルを頼む!」
レーネはそう言うと、ゼルを連れて前へと駆ける。
魔力がなくて身体が重かったが、四の五の言ってられる状況ではない。
敵の接近を認識したロックドラゴンの目が一瞬光ると、周囲に散っていた瓦礫の山が浮き上がり、レーネ達に向かって飛んできた。
「くっそ、なんだこれ、ただの石ころにしては重いぞ!」
「魔力を含ませて強化しているんだろう!そんじょそこらの魔物ではない…!」
レーネとゼルは剣で攻撃を跳ね除けると、後ろから魔力を感じて左右に跳ぶ。
それはコトハの放ったフレイムボルトだった。
見事にロックドラゴンに的中するも、その身体には傷一つ付かなかった。
「…そんな…」
コトハは信じられず驚くが、魔法耐性が高いだけかもしれない。
それならばと、詠唱を始め、その足元にはいくつもの魔法陣が展開されて折り重なる。
「あれはフォースレーザーか…ゼル、やつの気を引いてくれ!私はコトハを援護する!」
「任せろ!」
ゼルがロックドラゴンへと駆け、レーネがコトハの前で岩を跳ね除ける。
「大切断!おら、こっちだ!」
ゼルは岩を避けつつロックドラゴンにちょっかいをかける。
「ウィンドカッター!」
レーネもコトハを守りつつ、風の刃でゼルを援護していた。
「準備…できた…いける…!」
「ゼル!退け!!」
ゼルがこちらへ引き返すのを確認したコトハは最終詠唱に入る。
「炎・氷・大地・嵐の精霊よ…私に集え…その英知を…私に授けよ…絶対なる力で…敵を消滅せよ…!フォースレーザー…!!」
コトハから4つの上級属性が複合した極大の一撃が放たれる!
ロックドラゴンはその巨体から避けられる筈もなく、全身でそれを受けた。
やがてフォースレーザーの照射が終わると、コトハは膝を付いた。
その顔からは大量の汗が流れており、技の凄まじさが伺えた。
「なん…だと…」
「おい、マジで言ってんのか…?」
コトハは2人の声を聞いて顔を上げると、その表情が凍りついた。
ロックドラゴンは多少の擦り傷のようなものを負っただけで、よろめきすらしていなかったからである。
そして4つの手足を踏み込んだかと思えば、口を開いた。
「…魔力ポーション…!早く…!!」
我に帰ったレーネが2人に魔力ポーションを渡し、自身も急いでそれを飲む。
「ダメ…あれは…ダメ…!」
ロックドラゴンの口に膨大な魔力が集まっていくのを感じる。
恐らくフォースレーザーをも超える技を放つのだろう。
─────時間を、稼がなければ。
二人を逃がす時間を。
「レーネ…ゼル…!逃げて…!早く逃げ」
しかし、コトハが言い終わる前にロックドラゴンがレーザーを放った。
「フレイムボルト…!」
駄目だ、フォースレーザーを詠唱している時間なんてない…!
コトハは慌てて魔法スキルを放つも、レーザーを減退させる事すらできなかった。
「ウィンドカッター!」
「大切断!」
2人もレーザーにスキルを放ったが、その勢いを止めることはできなかった。
ドオオォォォン!!
レーザーに直撃し、三人は吹き飛んで倒れた。
「くそ…」
「ちくしょぉ…こりゃ…やべぇ…」
3人はなんとか立ち上がろうとしたが、その身体はピクリとも動かなかった。
「おいおい…嘘だろ…」
ロックドラゴンはなんと、次のレーザーを放とうと構えていた。
一撃で全員戦闘不能なのだ、もう一発なんて死ぬどころか身体が消し飛んでしまうだろう。
「ゼル…コトハ…」
レーネに呼ばれ、2人は目を動かしてレーネを見た。
「2人と出会えて…2人と一緒に過ごせて…とても楽しかった…ありがとう…そしてすまない…私の判断ミスだ…戦うべきではなかった…本当にすまない…」
「お、おいおい…何言ってんだよ…これからもウチらは一緒だろーが…何辛気臭いこと言ってんだよ…!」
「…後悔…してない…これからも…一緒…」
3人共同じことを考えていた。
─────この2人となら、死ぬのなんか別に怖くない。
ここまで信頼できる仲間と出会えて良かった。
誰一人欠けることなくここまでこれて良かった。
レーネがこれまでの出来事を思い返していると、ゼルが声を上げる。
「よお…帰ったらさ…アスタルテに声かけて…ウチに加えるのってどうだ?」
「そう…だな、帰ったら…聞いてみようか…」
「…賛成…でも…魔王…付いてくる…」
それを聞いたゼルが笑う。
「ハハッ…確かにな…賑やかになりそうだ…」
レーネが微笑むと、遠くで大きな音が聞こえた。
恐らくロックドラゴンがレーザーを放ったのだろう。
他の二人も察しているみたいだ。
レーネは目を閉じ、少し後悔した。
出発する前に…アスタルテ君に会っておけばよかったな…
もう、彼女とは話せないのか…
もう…会えないのか…
レーネが最期の時を待っていると、少し離れた方にレーザーが当たる音がした。
─────外した?
いや、そんなはずはない。確かに口がこちらに向いていたのだから。
ならば、なぜ─────
その時、近くから声がした。
そしてそれは、まさに今考えていた人物だった─────
「おい、ノレス!いきなり訳分かんない洞窟入ったと思ったら急にレーザーの前に放り投げるんじゃねぇ!!危ないだろうが!!」
「こんなもので手を焼くお主ではないじゃろう?にしてもあれを拳で跳ね返すとは、とんだ規格外じゃな」
「アス…タルテ君…?」
─────これは、夢幻なのだろうか。
そうだ、そうに違いない。
なんせこのタイミングで考えていた人が目の前に現れたんだから─────
「ってえぇ!?レーネさん!?それにゼルさんにコトハさんも!」
3人に気づいたアスタルテが駆け寄る。
夢、ではないのか…?
3人の状態を見たアスタルテがロックドラゴンの方を向き直ると、その身体から尋常ではない魔力が溢れ始めた。
「……状況は分からないけど、てめぇ、ぶっ倒す」




