レーネの不安
奥の部屋へと案内され、レーネ達三人は椅子に腰をかける。
すると、奥から目つきの鋭いひげの生えた屈強な男が出てくる。
「ギルド長、お久しぶりです」
レーネが頭を下げると、続いて後ろの二人も頭を下げた。
そう、この人こそがギルドの長であり、過去に世界に数える程しかいないSSランク冒険者まで登りつめた方だ。
冒険者から引退した今でもその身体に纏うオーラは凄まじく、近くにいるだけで震えてしまいそうなほどだった。
「遠路はるばるご苦労だった、感謝する」
「いえ、ギルド長からの命であれば我々は駆けつけます」
「すまんな、今回はSランク冒険者である君たちにしか頼めんことなのだ」
そう言ってギルド長は一息つくと、続けて語りだした。
「送った手紙にも書いた通り、付近の鉱山を中心に謎の地震が頻発している。とても自然現象とは言い難く、強大な魔物が出現した可能性がある」
(地震を引き起こすほどの魔物か…中々手こずりそうだ)
「つまり、ウチ達はその魔物をぶっ倒せばいいわけっすか?」
レーネが考えていると、横に居たゼルが発言する。
しかし、それを聞いたギルド長は首を横に振った。
「いや、相手の正体が分からない以上戦闘は極力避けたい」
「はい?それじゃあ、ウチ達は何を?」
「敵の…調査…」
コトハの言葉を聞きギルド長が頷く。
「君達ほどの実力があれば、不測の事態に陥ったとしても対応できるだろう。メインは地震の原因調査だ」
それを聞いたレーネは、仮に不測の事態に陥って対応できなかったら?と思った。
確かに私達はSランクだが、上には上が居る。
先日魔王に出会ってそれを痛感させられたのだ。
しかし冒険者として活動している以上、上司それも最高責任者からの頼みを断ることができない。
これはお願いという形をした命令なのだ。
「では、私達は鉱山を調査し、強大な魔物を確認した場合は帰還して報告という形でよろしいでしょうか」
「うむ、既に強大な魔物が生まれた場合を想定して軍の手配はしてある」
「ふーん、随分用心深いんっすね」
(いや、これは魔物がいることがほぼ確定なのだろう。でなければここまではしないのではないか…?)
ゼルは気付いていなかったが、レーネはなんとなく察していた。
「では、準備を整え次第向かいます」
「ああ、頼んだぞ」
(何も起こらないと良いが…)
不安を胸に抱えつつ、レーネは退出するのであった。
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「さて、どうするか…」
レーネは歩きながら言葉を漏らす。
調査といえども、見つかった場合逃げ切れるのだろうか…
最悪戦わなければならない。
「魔王とアスタルテに協力してもらうとかどうだ?」
「それは駄目だ。今回はSランク冒険者の私達を指名している都合上、他の者に協力をしてもらう訳にはいかないだろう」
レーネはゼルの提案を却下する。
それにアスタルテはまだCランクなのだ。
神器を持っているとはいえ力不足だろう。
(何よりも、彼女を危険な目に合わせるなど絶対にしたくない)
アスタルテが幼い容姿だからだろうか、それとも他の理由があるのだろうか…
何故かは分からないが、妙に彼女が気になるのだ。
ゼルも彼女の事を気にかけているようだし、普段無口なコトハもアスタルテに対しては私達と変わりなく接しているように見える。
(人を惹き寄せる体質なのだろうか…?)
レーネが考えていると、コトハが袖を引っ張る。
「レーネ…どうする…?」
っといけない、それよりも今は調査について考えなければ。
「よし、ゼルはトラップ系、私は回復系の準備をする。コトハは先に宿に帰って仮眠だ、魔力を高めておいて欲しい。3時間後に宿の前に集合だ」
「あいよ」
「分かった…」
てきぱきと指示を出し、解散する。
その後、寝坊したコトハを二人で起こし一行は鉱山へと向かうのであった─────




