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皆の行方



「ふあぁ……」




朝、目が覚めたアスタルテは欠伸と共に身体を伸ばす。




今日は何をしようかな……。





正直、魔界に来てからやる事がない。

冒険者ギルドが無いから依頼をこなす事もできないし、遊びに行こうにもどこまで勝手に行っていいのか分からないし……。





(そういえば、皆は何をしているのだろう?)




ふとそんなことを思う。




ノレスは今異種族会議のために色々忙しいらしく、レーネさんは神器を手に入れてから訓練場に籠りっぱなしだ。

ゼルさんとコトハさんは引き続き神器探しをしている。




そこまでは分かるのだが、レニーやクロ、チリアそしてライゼンさんにマギルカさんは普段何をしているのだろう?




夜ご飯を皆で食べているから魔王城内にはいると思うのだけど……





「よし!」




アスタルテは腰かけていたベッドから立ち上がる。




今日は皆が何をしているのか聞いてみよう!










▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲












「そうは言ったものの……」





誰がどこにいるのか分からないしな……。




顎に手を当てて唸りながら廊下を歩いていると、前の方に人影を見つける。




それは、窓を掃除している魔王城のメイドだった。




額から生える二本の角に太くて長い鱗に覆われた尻尾……まるで龍のようだ。




メイドさんなら何か知っているかもしれないと思い、アスタルテは近づく。




「あの、すみません」




メイドはアスタルテの方を向くと、掃除している手を止めてペコリと頭を下げた。




「これはアスタルテ様、何か御用でしょうか」

「掃除中にすみません、チリア達ってどこにいるか分かりますか?」




アスタルテの問いにメイドは少し驚いた表情を浮かべ、口を開く。





「アスタルテ様、我々メイドに敬語は不要でございます。 また、チリア様とクロ様でしたらすぐにお呼びできますので少々お待ちください」

「あ、うん。 それじゃお願いしてもいいかな?」





すぐに呼べる、という事に疑問を感じつつアスタルテはメイドの動向を見守る。




メイドが右手を横に伸ばすと、カヤ達がよく使っている裂け目がその場に出現した。




「チリア様、クロ様。 アスタルテ様がお呼びです」

「にゃ、ご主人様!! お呼びですかにゃ!?」




メイドが裂け目に向かって声をかけると、その奥からチリアの声が聞こえる。




アスタルテがその裂け目をチラリと覗くとそこは厨房に繋がっており、メイド服を着たチリアとクロが厨房に立っていた。




「えっと、チリア達は何をしているのかなって見に来たんだけど……メイドさん達のお手伝い?」

「そうにゃ! ご主人様のメイドとしてより良くなれるように、プロから技術を教えてもらってるのにゃ!」

「そうだったんだ、クロも?」




アスタルテの問いにクロはコクリと頷く。




「家に帰ったら期待して欲しいにゃ! わちらの技術は怒涛のうなぎ上りなのにゃ!」

「乞うご期待」




手を振る二人にアスタルテが手を振り返すと厨房へと繋がる裂け目が閉じて消える。





「ありがとう!」

「い、いえそんな、当然の事をしたまででございます」




アスタルテの言葉に、メイドは両手を振って慌てた表情を浮かべる。





「ところでなんだけど……マギルカさんやライゼンさん、レニーとかの場所って知ってたりしないかな……?」

「レニー様は分からないのですが、マギルカ様とライゼン様なら図書館にいらっしゃると思いますよ」





メイドの言葉にアスタルテは腕を組んで悩む。




(図書館……確かこの前レーネさんに会った時に本を借りたって言ってたから迷子になった辺りだと思うんだけど……)





正直迷子の時にレーネさんと会った場所もどこだったか覚えてない……。




でもメイドさんに案内してもらうのもなぁ……。





アスタルテはチラリと足元の桶を見る。




ただでさえ仕事の手を止めさせてしまっているのに、さらに案内までしてもらうのは申し訳ない。





(どうしてもお願いしたい事が1つあるし……)





唸るアスタルテの様子を見てメイドが口を開く。




「よろしければご案内致しましょうか?」

「でも……」

「仕事の事でしたら問題ありません。 私達メイドにとってご主人様の力になる事が何よりの仕事であり喜びですから」

「ご主人様……ノレスの事?」




メイドの言葉にアスタルテは首を傾げる。




「アスタルテ様はノレス様の伴侶……つまり私達の未来のご主人様でもありますので」

「なるほど……」

「ではご案内致しますので……」

「あ、あの!」




歩き始めようとするメイドにアスタルテは声を掛ける。




「1つ……お願いがあって、えっと、嫌だったら全然断ってくれて大丈夫なんだけど……」

「アスタルテ様のお願いでしたらどのようなものでもお聞きしますので、どうぞお気軽に申して下さい」

「あ、えっと……」





アスタルテは言葉を詰まらせながらもチラリとメイドの背後に視線を移す。




「尻尾……尻尾を! 触ってもいいでしょうか!!」

「尻尾ですか……? か、かしこまりました」




メイドは動揺するも、くるりと後ろを向いて尻尾をこちらに差し出す。




「どうぞ……」

「わ、凄い……」




上半分が緑色の鱗に覆われ下半分がクリーム色の、まさに漫画で見たようなドラゴンの尻尾だ。




アスタルテは手を伸ばし、そっと表面に触れる。




それはしっとりと手に吸い付くような感触をしており、湿っているというよりはハリがあるといった感じだった。




また、鱗は1枚1枚綺麗に並んでおり、鮮やかな光沢を放っていた。




アスタルテはふにふにと尻尾を揉む。




硬すぎず柔らかすぎず、丁度いい弾力だ。

ずっと触っていたいような魅力がある。




次は尻尾の先端へ……





「こら」

「いでっ」




突然後ろから声と共に頭にゲンコツが落ちてきてアスタルテは振り返る。




そこに立っていたのはノレスだった。




「アスタルテよ、お主はこの真昼間から何故メイドにセクハラしとるんじゃ」

「せ、セクハラ!?」




アスタルテが振り返ってメイドの様子を見ると、後ろからでもハッキリ見える程耳が真っ赤になっており、肩がぷるぷると震えていた。





「えっ!?」




アスタルテは慌てて手を離す。




「ここはもう良い、下がるのじゃ」

「は、はい。 では失礼します」





メイドは返事をすると水の入った桶を手に取り、裂け目の中へ消えていった。




「アスタルテよ。 尻尾は神経が集中していて敏感な部位じゃから大抵の尻尾持ち種族は触れられることを良しとせぬぞ」

「え、えぇ!?」

「尻尾を持たぬ者で例えると、尻を撫でくり回されているようなものじゃ」

「お、お尻を!?」




アスタルテは頭を抱える。




冷静に考えてみれば、大抵の動物は尻尾を触られることを嫌がる。

そしてそれは、尻尾を持つ種族も同じだという事なのだ。





「私はなんという事を……」

「まぁ、我が後で説明しとくから安心せい」

「ありがとう……」

「じゃが、お主も会ったら謝るのじゃぞ」




コクコクと首を振るアスタルテにノレスは問いかける。




「それで? お主は何をしておったんじゃ?」




アスタルテが皆を探していたこと、次は図書館に行こうとしていたことをノレスに伝える。





「ふむ。 では我が案内しよう」

「え、ちょ!?」




そう言ったノレスはアスタルテに手を伸ばすとお姫様抱っこをする。




「ちょ、ノレス、なんで!?」

「ここ最近忙しくてお主に触れられんかったからのう。 アスタルテ成分補給じゃ」




そう言ってノレスはアスタルテのお腹に顔をうずめる。




「私は猫か!? これ恥ずかしいんだけど!?」

「まぁ少しくらい良いではないか」




アスタルテはじたばたと暴れるものの、やがて観念して大人しくなる。




「そういえばノレス」

「む、なんじゃ?」




アスタルテが声をかけると、ノレスがパっと顔を上げる。




「私って今、妊娠してるんだよね?」

「うむ、そうじゃが……何か気になる事でもあったのか?」




アスタルテが度々気にしていた事がある。




「その……お腹が大きくなる気配がしないんだけど……」

「む? 何を言って………あ、まさか…いやそんなはずは……」




ノレスの様子にアスタルテの不安は加速する。




「まさか流……」

「すまぬ……! お主に言うのを忘れておった!」

「え?」




予想外の返答に、アスタルテは茫然とする。




「お主にはとある魔法を使っておってな」

「魔法?」

「うむ。 お主の子宮の中を別空間に切り離しておるんじゃ」

「え、えぇ!?」




180度予想することもできないような言葉にアスタルテは驚く。

それと同時に別の疑念が1つ思い浮かんだ。




「そ、それって大丈夫なの!? その空間が消えたりとか……」

「そんな事は絶対無いから安心するんじゃ」

「それならいいけど……一体なんで?」

「うむ、きちんと説明しよう」




ノレスは神妙な面持ちをすると、口を開いた。




「魔族には様々な見た目の者がおるじゃろう?」

「うん」

「身体の大きい者もいれば小さい者もおる」

「そうだね」

「そこで開発されたのがこの魔法じゃ、これには様々なメリットがあっての。 まず、身体の小さい者でも身体の大きい者との子が成せるんじゃ」

「なるほど?」

「身体の小さい者が身体の大きい者との子を授かった場合、子のサイズが大きく母体に負担をかける可能性があるんじゃ」




ノレスの言葉にアスタルテは思い出す。




そういえば、私がノレスに妊娠中は身体を大きくしたままにした方がいいかって聞いた時、そのままで大丈夫って言ってたっけ……。




「別空間に切り取ることにより、子が育っても母体に負担を掛けぬのじゃ」

「なるほど……」




そういえばノレスを産んだのはナディアスキルではなくレラシズファティマだとノレスは言っていた。

私と同じくらいの体型でどうやってと思ったが、この魔法を使ったからなのか……。





「勿論別空間とはいえお主に繋がっておるから、お主の魔力を吸い取って育つのじゃ」

「へぇ……不思議……」

「そしてお腹が大きくならない事によって動きに支障が出ぬし、何か腹を怪我するような事があっても母体が死なぬ限り子は何ともないんじゃ」

「確かにそれは凄いかも……」

「子を腹に抱えたままだと色々気を付けなくてはならぬからの」

「そうだね、お腹が大きくなったら絶対安静だし」

「うむ。 そして次が一番のメリットでな」

「まだあるの!?」




ノレスは二ッと笑い、口を開く。




「子を産むとき、その空間から取り出すだけで済む。 つまり一番負担の掛かる出産が数秒で終わるのじゃ」

「えぇ!? それは凄い……」

「じゃろう? 捻転等の難産や体力の少ない者の出産など、その点の危険が無くなるという事にもなる」

「革命的すぎない……?」

「唯一のデメリットは、腹が膨らむことで得れる子の成長の実感がない事じゃな」

「まぁでも、メリットに比べたらそれは些細な事かも……」

「じゃろう。 さて、着いたぞ」





話していたらいつの間にか図書館に着いていた。

ノレスはアスタルテを降ろすと、扉に背を向ける。




「あれ、来ないの?」

「仕事の休憩で時間があっただけじゃからな。 そろそろ戻らねばならぬ」

「忙しそうだね……」

「異種族会議が迫ってきておるからの。 最後の仕上げじゃ」

「私に手伝えることはある?」

「気持ちは有難いが、これは我が始めた事じゃからな」




そう言ってノレスは横に空間の裂け目を生み出す。




「頑張ってね」

「うむ。 ではの」




アスタルテは手を振ってノレスを見送ると、図書館の扉を開くのだった。



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