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神器とは


「完全復活だ!!」




突然大声と共に扉を開け放つゼルに、アスタルテはびっくりして紅茶を吹き出しかける。




「ゼル、元気なのは分かるけど少し乱暴じゃないかい?」

「ゼルさん、レーネさん!」




2人の姿を見たアスタルテは椅子から立ち上がって駆け寄る。





「ふむ、どうやら魔族化は無事終わったようじゃの」

「それについてなんだが……」




ノレスの言葉に2人の表情が曇る。

その様子を見てアスタルテが首を傾げると、レーネが口を開いた。




「本当に私達は魔族になったのかい? 見た目も変わってないしあまり実感が沸かないんだけど……」




レーネの言葉を聞いてアスタルテは2人をよく見るが、確かに見た目に変化はなかった。




「魔族は成長期が終わると共に見た目の変化が止まるからの。 本来ならそれまでに角や翼が生えたり色々あるのじゃが、お主らは成長期が終わった段階で魔族になったから見た目は変わらぬ」

「そうなんだ……。 あれ、でもファティマお義母様って」

「おっとアスタルテ。 それは本人の前では言ってはならぬぞ、気にしておるからな」

「え、っという事は……」

「魔族は他種族と比べて特徴が千差万別じゃ。 妖精のような小さい者もおれば4メートルを超える大きな者もおるし、角が生えている者もおれば人族と見分けがつかん者もおるんじゃ」




その言葉にアスタルテはナディアスキルを思い浮かべる。

彼女は魔力の感じから魔族と分かるものの、見た目は完全に人間と変わりないのだ。





「とにかく、お主らの纏う魔力は間違いなく魔族の物じゃ。 安心せい」

「そ、そうか……。 それなら良かった」




2人は安堵の表情を浮かべると、それぞれ席に着く。




「さて、お主らの魔族化も済んだことじゃし、1つ伝えておきたいことが……」




パキッ────。





ノレスの言葉を乾いた音が遮る。




音の正体を確かめようとアスタルテが横を向くと、そこには粉々になったコップの取手を見つめて固まるレーネがいた。





「あ、あれ……?」




あたふたとするレーネがコップを握ると、今度はコップが砕けてしまった。

手が紅茶でびちゃびちゃになってしまったレーネを見てノレスがため息をつく。




「カヤ、何か拭くものを渡してやれ」

「はぁい」

「す、すまない……」





レーネの横に亀裂が生まれると、そこからタオルを持ったカヤが登場する。





「ゼル、レーネ。 お主らは無自覚のようじゃが、魔族化によって身体能力が大幅に上昇しておる。まぁ徐々に力加減が調節できるようになるじゃろうが、しばらくは気を付けるとよい」

「そういう事だったのか……」





レーネの様子を見ていたゼルは慎重にコップを持ち上げ、口元へと運ぶ。





「で、じゃ。 お主らの武器についてなんじゃが」





ガシャーンッ───。





「あ、やべ」





テーブルにコップを置く時に力加減を誤ったのか、ゼルのコップが割れてしまった。





「じゃかしい!! カヤ、鉄のコップ2つ持ってくるんじゃ!」

「はいはぁい」

「お主らは一旦大人しくして我の話を聞くんじゃ!」

「す、すまん……」





ノレスはため息を吐き、二人を見る。




「お主ら、カヨに武器を砕かれてからちゃんとしたのを持っておらんじゃろう」

「あ、そういえば……」




アスタルテは二人が持っている武器を見る。




これまでレーネが使っていたレイピア、そしてゼルが使っていた大剣は魔族戦争でカヨと対峙した際にかみ砕かれてしまったのだ。




冒険者という立場上武器がないと仕事にならないためとりあえず武器を買ったものの、それまで使っていた武器の性能と違うからか2人は実力を最大限発揮できないでいた。





「二人とも身体能力が上がったうえ、その武器じゃとすぐ使い物にならなくなるじゃろう」

「まぁ、そうかもな……」

「そこでじゃ。 お主らには神器を渡そうと考えておる」

「!?」





ノレスの言葉に一同に衝撃が走る。




「じ、神器ってそれは本当なのかい!?」

「マジか!? それってウチら用のってことなのか!?」

「まぁ落ち着くんじゃ」




テーブルに身を乗り出して興奮する二人にノレスは手で落ち着くよう合図する。





「絶対という保証はない、我も神器の事についてはあまり分かっておらぬからの。 しかしここ魔王城には我がコレクションした数千の武器があるからきっと見つかるじゃろう」

「おおお! マジかよ!!」





話を聞いていたアスタルテにふと疑問が浮かぶ。





「そもそも、神器ってなんなの……?」

「ふむ。 そうじゃな、我の知る限りじゃと……」





ノレスが知っている事について語る。





神器とは、魔力を流す事でなにかしらの効果が発動する武器で、決して壊れず劣化もしないとのことだ。

そして所有者が決まるとその者にしか扱う事が出来ない。





「レーネよ、これを持ってみるのじゃ」




そう言ってノレスは短刀を取り出してレーネに渡す。




「これはノレスの神器なのかい?」

「そうじゃ。 持ってみてどう思う?」




ノレスの言葉にレーネは唸りながら色々な角度から短刀を眺める。




「うーん、見た目からは考えられないほど重いのが1つと……あと重心が特殊なのか凄く持ちづらく感じるかな……」

「ふむ、ではこの紙を切ってみるんじゃ」




ノレスは紙の両端をつまむとレーネの前で広げる。




「やってみよう。 って、あ、あれ……?」




レーネは紙に刃を当てるが中々切れず引いたり押したりする。




「あっ」




最終的に紙は切れることなく、力で強引に破いた形になってしまった。




「こんなに鋭いのに何故……」




レーネは刃を上にして持ち手側から刃をまじまじと凝視する。




「貸してみよ。 カヤ、紙を持つんじゃ」




短刀を受け取ったノレスは軽そうにクルクルと回すと、刃をそっと置くように紙に当てる。




「えっ!?」





すると、まるで紙から刃を避けていくかのように紙が真っ二つになった。





「一体どうやって……」

「これが神器の特性の1つじゃ。 その所有者が使うと最高の物となる反面、それ以外が持つとなまくら以下になる」

「もしかして重さとかもそうなのか?」

「うむ。 我が持つと最適な重さに変わり、我の手に馴染む形へと変わるんじゃ」

「どういう事なんだろう……」

「さぁの。 我もこの仕様、そして神器がどこで作られたのか、どこから来たのか等分からないことだらけじゃ」





物知りなノレスですら分からない事……。

アスタルテは何気なく使っているガントレットとブーツをまじまじと見つめる。




そういえばレーネさん達三人と初めて会って鑑定してもらった時に主として認められた人にしか扱えないって聞いた気がする……。





「神器には防具もあるのかい?」

「防具? いや、聞いたことも見たことも無い。 おそらく武器だけじゃろう」

「でもアスタルテ君のブーツも神器なのだろう? あれは……」

「あぁ、あれも武器じゃ。 腕と同様噴射して戦っておるじゃろう」

「え、これも武器だったの!?」

「それらは二つでセットの珍しい神器じゃぞ……。 お主ほとんど足技を使わんと思っておったがまさか知らぬとは……」




ノレスはため息と共に額に手を当てる。




「まぁ良い、武器庫へ行くぞ」

「それにしてもノレス、よく数千も神器を集めたね」

「む? 我のコレクションはどれが神器か分からぬぞ?」

「ん……? どういうこと?」




ノレスの言葉に一同は疑問を浮かべた。




「神器とは、所有者の手に渡って初めて神器と判明するんじゃ。 つまり、コレクションの中に神器が眠っておるかもしれぬし、ないかもしれぬ」

「え、それってどうやって見つけるの……?」

「感覚じゃ」

「かか、感覚……!?」

「うむ。 なんというじゃろうか……見た瞬間に全身が震えるというか、失っていた体の一部を見つけたような感じ……いや、運命の相手に出会ったような喜び……じゃろうか?」





(な、なにそれ……)





ノレスには珍しい歯切れの悪い曖昧な表現にアスタルテは困惑する。




私の場合はレニーから貰ったのがそのまま神器だったけど……。





「とにかく行くぞ、武器を見て回るだけでも膨大な時間がかかるからの」





廊下へと出ていくレーネ、ゼル、ノレスの後を追おうと一歩踏み出した時、服の後ろをくいっと誰かに引っ張られる。




ふと後ろを振り返ると、そこにいたのは頬を膨らませたコトハだった。




「こ、コトハさん……? 何か怒ってます……?」

「……私だけ…仲間外れ……」

「えっ!? いや、ノレスはきっとコトハさんの事も言ってたと思いますよ!」

「……違う…私だけ……魔族じゃない……」

「た、確かに……。 でもエルフは魔族と同じで寿命がないんじゃ……」





エルフは魔族と同じく身体を魔力が循環しているため不老だ。

ただ一応魔族の方が細胞が強いため、防御面や魔力の最大量は魔族と比べて低い。





「……来て…」

「ちょ、コトハさん!?」




コトハはアスタルテの手を引き、ノレスたちが向かって行った方向とは逆側にズンズン進む。




「ここって……」

「……私の…部屋……さあ…早く……」

「一体何をするんですか!?」

「……今回は…質より…量……」

「え、ちょっとおおおお!」





そのままコトハの部屋に引きづり込まれていくアスタルテであった──────。



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