お兄ちゃん〜その②〜
その日は結局既読マークは付かなかったが、翌日、朝一番に携帯のLINEを開くと、既読マークが付いていた。雪菜はほっとしたけれど、やっぱり何も書いてくれていなかったので、ちょっとガッカリした。「もー、一言でも入れてくれたらいいのに」と。でも心がちょっと軽くなった。
それから3日程過ぎた頃、雪菜の携帯が「ライン〜♪」と告げた。
誰からかな?と思って見ると「笹山透……ごめん、忘れてた」と携帯画面に出ていたのでビックリして慌ててLINEを開いた。
いっつも1行か2行しか入れてくれないのに結構長い。雪菜はドキドキしながら読んでいった。
「ごめん、忘れてた。
んじゃなくて、やっと自分の時間出来た。今日から在宅勤務になった。
好きな事・・・今は今の仕事。
出来なくなったら・・・出来なくなっても我慢出来ると思うけど他の仕事探す。
我慢出来ないのは・・・障害者だからって特別扱いされる事」
雪菜は読みながらドキドキしていた。この前家族で話していた事を少し思い出していた。周りの皆んながもっと気遣ってくれるべきだって思ってたけど、特別扱いは我慢出来ない事なんだ……
気遣いと特別扱いは少し違うと思うけど、その境目は難しいな。職場の皆んなが出勤している中で、お兄ちゃんは特別扱いで在宅勤務にさせられて、悲しんでいるのかな? と思って携帯画面を睨んでいると、「ポンっ!」という音がして続きが送られてきた。
「あ、上司に『在宅勤務にするか?』って聞かれてオレが希望した事だから」
あ、そうなんだ、良かった、と雪菜は思った。
「ポン!」
「わりぃ。見つけちゃった。『小説家になっちゃう?』の投稿」
えーーー!なんでーーー!雪菜は焦った。こっそり入れてあるから知り合いは誰も見ないって思ってたなに〜、と。
「ポン!」
「何か入れてる気して、そんなの調べたらすぐ解るさ。いいコメント貰ってたな。で、書く気になってんだろ?頑張れよ。
ただ、主人公はオレがモデルってのだけはよろしくないんじゃないか? 雪菜をモデルにしろ」
えーーー!見通されてるーーー!
「ここでグズグズしてたら負けだ。何が負けだか解らないけど」と思った雪菜は直ぐに返信した。
「こっちに帰ってきてくれないのに、お兄ちゃんをモデルとした主人公になんか出来ませんよ」
それに対して何か返事がくるかな?と暫く待っていたけれど何も入ってこなかったので追加で入れた。
「在宅勤務になってちょっと安心した。でも気を付けてね。小説頑張って書いてみようと思う」最後に力こぶのマークを付けた。
既読マークが付いて、その後は何も送られてこなかったので、雪菜は携帯画面を戻し、軽い足取りで鼻歌混じりに台所に向かった。