弱いから
雪菜は次にFB友達の友也にメッセージを入れてみた。彼の最近のFB投稿は「お家で出来る事シリーズ」で埋め尽くされている。雪菜もその投稿を見て、笑いを貰ったり励まされたりしている。
彼の回答はこうだった。
友「好きな事は、人を喜ばせるような投稿をする事。それが出来なくなったら、別の事で人を喜ばせる事を考える。我慢出来ないのは、それに対する批判。中にはいるんだぜ。
『ウザイ』とか言う奴。『自分はそういう発信出来ないから、そういうの見ると逆に落ち込みます』とか言う人もいる。ま、無視してるけどね」
雪「へー、そんな人もいるんだね。友也君、自分だって辛いのに、皆んなの為にああいう投稿出来るのって凄いし強いなって思う」
友「自分、強くないさ。弱いから投稿してるのかもしれない。何か、皆んなに喜んで貰えたり、いいね貰えたりする事で自分を励ましてもらえるから。
それにしてもさ、今出回ってるあの歌凄いよな。月山平って天才だよな。押し付けがましくなくメッセージのこもった歌は心があったかくなるよ」
雪「私もあったかくなれる。友也君だって負けてないよ。
でも、そっか。それなら月山平も弱い所があるからあんなにいい歌作るんだろうね。
御協力ありがとうございました。
頑張ろうね」
大きないいねマークが返信されてきた。
その夜の夕飯の食卓を囲みながらの笹山家の会話。
雪菜がLINEやメッセージでのやりとりの事を話していた。
「ねー、何か面白いよね。でもさ、好きな事殆どの人が我慢出来るって書いてきた。我慢出来ないのは精神的な物が多かったかな。
面白いのもあったよ。『好きな事は食べる事。ある程度は我慢出来るけど、死ぬまでは我慢出来ない』とか『しょんべんは我慢出来ない』とか」
皆んなが笑った。
母親が笑いながら「そりゃそうだけど、そんな事聞いてないよね〜」と言った時、父親がボソッと言った。
「我慢出来ないと思っている事でも大抵の事はいざとなれば我慢出来る。我慢出来ないのは生理的な事だ」
少しの間沈黙が続く。
「んー、でも確かに……」と雪菜。
「私さ、小説書きたいと思うんだけど、何が正しいか解らないんだよね。間違ったメッセージみたいなの書きたくないし。それに私、気持ち弱いから……」
と口に出した時、さっき「月山平も弱い所があるからあんないい歌作るんだろうね」と書いた事を思い出した。
「書ける?」と思った時だった。珍しく再び父親が続けてきた。
「小説は自由だ。読者に押し付ける物じゃない。感じて貰う物だ。正しい事を書こうとするな。伝えたいと思う事を書け」
相変わらず、ぶっきらぼうな言い方だ。
雪菜は「お父ちゃんはいつも押し付けるような言い方をするくせに」と思いながら、ニコッと微笑んだ。