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気付き①

病室で夕飯を食べて、夕食後のお薬を貰った。


長い廊下の端、壁一面が窓になっているところ、そこに映る自分の姿を見て、私は持っていたコップを床に落とした。


中身がこぼれ出て、車椅子の車輪の下に水たまりができた。


その時まで自分の姿をまともに、意識して見ることなんてなかった。


「あなた、だぁれ……?」


コップを持っていた手で私は自分の頰に触れた。


外はすっかり暗くなって、それによって窓に反射した自分の姿は、私が知っている私じゃなかった。


私は病室まで急いで車椅子を動かして駆け込んで、入ってすぐのところにある鏡で自分の姿を見た。


「そんな、どうして」


私が知っている私はクラスで二番目に背が低い小柄な女の子。


でも鏡に映っていたのは、もっと大きくなって胸もある、高校生くらいの女の子。


「……俺にはお前も高校生くらいに見えるけど?」と、今日ショウが言っていたことが頭をよぎる。


こんなことってーー思わず立ち上がって鏡に映る自分の体を見た。


そこで私の意識は途絶えた。


最後に聞こえたのは自分の体が床にぶつかる音と「堅田さん!」と私を呼ぶ、看護婦さんの声だった。




「東雲ちゃん、頭は痛まないかい?」


目が覚めた私に主治医は訊いた。


「ちょっと痛い……」


「後で薬をもらってくるよ。倒れる前の記憶はあるかい?」


「鏡で自分の姿を見たわ。なんでか分からないけど、私、急に成長してる。私、小学生なのに。ねえ、どうして?私はどうなっているの?」


首を掻きむしる私の手を握って、主治医は言った。


「落ち着いて聞いてほしい」


主治医は真剣な顔をしていた。


「東雲ちゃんが運ばれてきたのは君が十二歳、小学六年生の時のこと。それから三年間君は目を覚まさなかった。


それが突然目を覚ましたのがついこの間のこと。


君の意識は十二歳で止まっているけど眠っている間にも成長して体は十五歳になっている。


理解できるかい?」


「言っている意味はわかるけど理解は難しいわ」


「そうだろうね。今はまだそれでいいんだ。ゆっくり治療して普通の十五歳になろう」


そこで私はあの夢を思い出した。数年間ずっと繰り返し見ていたあの夢を。


そうだ、お母さんが三年間も、と言っていた。


「先生、あのね」


そう言ったところで主治医の胸ポケットに入っていた携帯電話が鳴った。


主治医はボタンを押して応答する。


きっとお仕事の連絡なんでしょう。


先生は「すぐ行きます」と答え、チラリと時計を見て電話を切った。


「何か言いかけたかい?」


「いいえ、何も」


「そうかい。じゃあ今日はもうおしまい。また明後日面談をしよう」


そう言って主治医は診察室を出て行った。


その後しっかり歩けるようになるためにリハビリを受けた。


三年間ずっと眠っていたせいで筋力はほぼなくなっていた。


ゆっくりと歩けるようになるまで時間がかかった。





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