出会い
「ねえ、お前どこが悪いの」
いきなりそう尋ねられて顔を上げると、目の前に金髪のお兄さんが立っていた。
びっくりして反射的に、ヒィと小さく悲鳴をあげた。
お兄さんは病院の庭のベンチのそばで車椅子に座って本を読んでいた私に声をかけた。
「ねえってば」
「あなただぁれ」
「俺はショウ。お前は?」
「東雲」
「東雲か」とお兄さんは呟いて、「お前どこが悪いの」と同じことを訊いた。
「どこも悪くないわ」
「嘘つけ。どこかが悪いから病院に入院してるんだろ」
「そうね、じゃあ私はどこが悪いか分からないから入院しているんだわ。強いて言うなら頭が悪いかしら」
「お前面白いな」
お兄さんは笑った。お兄さんの金髪の毛先が太陽の光が当たり透き通っていて綺麗だと思った。
お兄さんはごく自然な流れで私の隣にあるベンチに座った。
「お兄さんはどこが悪いの?」
「心」
「へぇ。心なんて目に見えないのにどうやって治すの?」
「ひたすら先生に話すんだ。俺の人生の話とか今感じていることとか。他には心理テストを受ける。絵を描いたり文章を書いたりするんだ。あとは薬を飲んで様子を見る」
「それで治るの?」
「分からない。けどきっとそうするしかないんだ」
ショウは悲しそうな顔をして俯いた。
私も同じように俯いてショウの手を見つめた。
綺麗に切り揃えられた爪の輪郭を目線でなぞった。
「俺、近くに同じくらいの歳の子がいないからお前のことちょっと気になった」
「同じくらいって言っても、私まだ小学六年生よ。お兄さんは高校生くらいに見えるけど」
「……俺にはお前も高校生くらいに見えるけど?」
「何言ってるのかしら」
大人っぽいと言われたみたいで心がこそばゆくなって思わずふふっと笑った。
「お前いつから入院してんの?」
「それが分からないの。気付いたら病院にいたって感じ」
「倒れたのか」
「そうかもね。でもそうだとして、どうして倒れたのか、倒れる前に何をしていたのか思い出せないのよ」
「大変そうだな」
「そうよ、治療もよく分からない機械に身体中を見られたり血を取られたり手首足首と胸に管を繋がれたりするの。
ご飯もまだ少しずつしか食べれないから点滴をしなきゃいけないし、自分の力では歩けないから車椅子を使わなきゃいけないしリハビリも受けなきゃいけない」
私は「検査」と「治療」のことを思い出して自分の体を抱きしめた。
「まあ、頑張ろうぜ。お互い」
「そうね、頑張りましょう」
突然、どこからかショウを呼ぶ声が聞こえて、ショウは立ち上がった。
「呼ばれた。また来る」
ショウはそれだけ言い残して庭を去った。
私はショウの後ろ姿を見えなくなるまで目で追いかけた。
ショウは名前を呼んだ人らしきおばあさんに駆け寄っていた。
私も話し相手がいなくなったし今日のところは早めに病室に戻ることにした。