第8話 地下基地侵入
『このチームがどういう方針で動いているか。誰かから聞いたかな』
「いいや、特に何も」
今日の出撃はダンジョンアタック。先日仕留めた無人兵器が守っていた基地だ。
地上には朽ち果ててボロボロになった格納庫と倉庫がいくつかと、入り口らしき大きなバンカーが一つ。地上には格納庫以外に何もないし、ダンジョンというのは、地下に広がっているのだろう。
『いい機会だから言っておこうか。基本的に、各々好きなことをする。その日の気分で今日みたいにダンジョンへもぐったり、演習をしたり、チームバトルに出たり。チームらしさの欠片もないね』
「そういうのがあってもいいんじゃないかな」
『そう言ってもらえるとありがたい。じゃあ、まずは地上の探索から始めてくれ。いいものがあるかもしれない』
『オーケーリーダ。手分けしよう。新入り君はナメクジ君と組んで向こうを。僕とボマーは反対側を見る。喧嘩せずに仲良くやれよ』
今日の部隊は現場が四人とオペレーターが一人。オペレーター役はリーダーが引き受けてくれていて、彼は補給拠点兼指令室の装甲車の中に居る。
「了解」
『オウ』
ナメクジ君は俺に安定して勝てるようになるまでは、あえて自らナメクジを名乗ると宣言してくれた。己を卑下するのは感心しないが、向上心は大変素晴らしい。挑んでくるたびに遠慮なく叩き潰してるけど、その気概には愛おしささえ感じる。どうかそのままの君で居続けてほしい。
『そうそう。今日の私はコマンダーと呼んでほしい。そういう気分なんだ』
「了解コマンダー」
『まあ、一応チームのことも考えての選択だから、一人後方でも気にしないでくれ。愛機が狙撃特化型だから、ダンジョンには不向きだし。未探索ならマッピングもしなきゃいけない。オペレーターが居たほうが効率的だ』
「なるほどそういう理由で」
なんて話しながら、格納庫を漁るが。めぼしいものはない。何の使い道もない、正真正銘のスクラップばかりだ。
「こっちは収穫なし」
『こっちもだ! 合流しよう!』
入り口前に一度集合。地下へと続く急角度のスロープは、光の届かないほど深くまで続いていた。
「ところで地下でも通信はできるんだろうか」
『これまでいくつかダンジョンに潜ったことはあるけど、通信できないことはなかった。今回もたぶん、大丈夫だろう』
信じよう。まあ、死んでも再チャレンジできるから全く問題ないんだけど。
『さあ、行くか!』
『その前に一発ぶち込んでおこう。不意打ちで全滅なんて面白みがない』
そう言ってボンバーマンはロケットを一発、暗闇の奥へ撃ち込んだ。噴煙が尾を引いて飛んでいき、着弾。闇の中を炎が照らすと、そこには大きな壁があった。敵影はない。
『こっちからの不意打ちもお断りだってさ』
「残念。楽はさせてもらえないか」
ナメクジ君が先に飛び込んで、後を追い残る三機もスロープを駆け下りていく。
突き当りまで降りると外からの光はほとんど入らなくなったので、暗視モードを起動する。
ちなみに今日の装備セットは旧型の重装備。(敵が)多い日も安心。
「ところでこのゲート、どうすりゃ開くんだ?」
暗緑色の視界に映るのは重厚かつ巨大な扉。ロケットランチャーの直撃があっても傷らしい傷はなく、着弾点の表面が少し焦げただけ。手持ちの装備じゃちょっと敗れそうにない。
『きっと近くにコンソールがある』
『壁についてるな』
同じく、表面に煤がついたコンソールが一つ。一体何でできているのか。ゲームだから深いことは考えないでおこう。
モニタの隅によくわからない、おそらく暗号化された文字列が表示され、その下にあるゲージが少しずつ伸びて行って……Complete……ゲートがずしんと震えて、積もった埃を落としながら少しずつ開いていく。
さて、何が出るだろう。無人機かガードメカか、セントリーガンか。一体どんな敵がお迎えしてくれるか、ワクワクしながら埃が収まるのを待つ。
そして、出てきたのは……
「アリだー!」
予想していたどれでもなく、まさかの有機物。しかもでかい。でかすぎる。頭の高さがアース並み。体の全長は象くらいでかい。
何より目を引くのは、体に見合ったサイズのアゴ。蟻が自分より大きなサイズの得物、干からびたミミズとかを引きずって巣穴に持ち替える姿は誰しも見たことがあるだろう。
アレにかじられて、果たして機体は無事で済むだろうか。あまり想像したくはない。
「ギッ!」
蟻がこちらに気付いた。床だけでなく、フロアの壁、天井にびっしりと張り付いた蟻の群れが、一斉に頭をこちらに向ける。
『うん、世紀末に巨大生物はつきものだよね』
「ちょっと感想が呑気すぎませんかね、コマンダー」
『撃て! 撃てー!!』
『ひぃぃ、こんなの聞いてない! 虫苦手なのに!』
ゴゴゴゴと地を鳴らしながら這い寄る蟻の群れ。群れは密集しすぎて重なり、見上げるほどの壁となって迫りくる。もはや黒い津波である。
そこへ各々持ちうる火力を全力で投入する。銃火が暗闇を照らす、爆炎が波の一角を削る、鉛の矢が蟻の甲殻を貫いて、波の中深く潜って止まる。
未知との遭遇にパニックになった一同だが、しかし全員ベテランぞろいともなれば身に沁みついた戦い方が体を動かす。後退しつつの射撃で距離を保ちながら、着実に数を減らし。突出した部位へ火力を集中させることで頭を押さえ、それでも抜けてくる個体には近接武器を振るう。
『キショ! キモイ! 無~~~理~~~!!』
ナメクジ君は高周波ブレードを振るうも、冷静さを欠いた上に間合いが掴めずやや苦戦。
そんなナメクジ君を見ながら自分は盾で受け止め、杭で脳天を串刺しにする。ボンバーマンは爆発反応装甲で突撃を受け止め、防御を攻撃の手段として使い、自爆ダメージを気にもせずに至近距離でメイスやらグレネードやら爆発武器を使いまくる。
ガトリング持ちは圧倒的弾幕でそもそも近寄ることを許さない。
必死の退却戦は、スロープを登りきる頃には敵のせん滅という形で終了した。
『終わったか。損害報告!』
『盾を持っていかれた!』
「損傷軽微!」
『撃墜寸前。ほとんど自爆ダメージだがね』
『同じーく。でももう弾がありませんよー』
『わかってる。いったん補給に戻ってきてくれ。それから作戦会議だ』
バンカーから少し離れた場所に止めてある装甲車に戻りながら、ちょっと雑談。
「ゲームの原作は読んでるか、皆」
「読んだ読んだ。というか小説原作のゲームやってて原作読んでない奴いるの?」
「そりゃ居るだろう。某運命シリーズだって多いって話だ。で、どうした」
「もちろん読んでる。でも無人機に巨大アリに地下基地なんて原作にはなかった要素ばっかりじゃないか?」
と、ナメクジ君。
「無人の偵察機と、凶暴化したクマや犬は居たな。基地は作中でも存在が明言されてたような」
「骨董品、だったか。は、戦前の基地から発掘された代物だ。深くまで進めば見つかるかもなってことを言おうとしてた。アプデで追加されてるかも」
「見つけたら取り分はどうする?」
「一番新入りだからな。俺は遠慮するよ」
「リーダーが一番面白くない役を背負ってるからな。俺はリーダーに譲ろうと思う」
「それはいい。ナメクジ君もそれでいい?」
「それでいい」
『……ありがとう』
速やかに決定。戦利品でもめる心配はなさそうだ。結論が出たところで装甲車に到着。順番に格納車両に乗り込んで、機体から降りて作戦会議。補給は全自動で行われるのであとは放置。そして会議の場へ乗り込む。
「この先ずっとあの調子で進むのかね」
「考えるだけでうんざりしてきた……」
「ナメクジ君が虫嫌いとは意外だな」
「誰だって苦手なものの一つや二つあるだろ……」
「そうだな。俺もセロリとか苦手」
「子供かよ」
「香りがどうも好きになれなくて」
「脱線してるぞー。戻せ戻せ」
「「「ういーす」」」
リーダー、もといコマンダーの一言に全員が返事をする。よく統制が取れている。
「で、これから先進むにしてもずっとこの調子じゃ弾が足りないぞ。一々補給に地上へ戻るのも面倒じゃないか」
「補給車両ごとダンジョンに潜るのは」
「それもアリかも。アリだけに」
「撃破されたら修理費がやばいぞ?」
「しかし敵を倒さないと進めない」
ナメクジ君の寒いダジャレを全員スルーして会話は続く。スルーされた悲しみから、隅っこでいじけて小さくなってしまった。
「そこで俺にいい案がある」
「どんな案よ。ぜひ聞かせてもらいたい」
ガトリング君の腹案ありという言葉に、コマンダーが反応する。
正面から物量ですり潰さんと突撃してくる大群を相手にするには、群れを丸ごと焼き払える火力、物量を用意するか、後退しながらの反撃で数を減らし、無茶が効く量になったら反転攻勢を仕掛けるかくらいだが。
「とりあえずアヌスレイヤー君は機動戦装備に換装してくれ」
「火力は足りるか?」
「他三人で補う」
「了解」
機体セットを選択。ブースト&パイルセット。他の人の機体は、重量フレームにガトリング、ロケラン一本、シールドの超重装備。積載量ギリギリで機動力は無に等しい。しかもそれが三機いるのだから、威圧感がやばい。
「作戦はシンプル。アヌスレイヤー君がゲートを開いて即後退。後ろから俺たちが全力で火力投射。接近される頃には敵は全滅ごっつぁんよ」
ごっつぁんて何。わからんこたないけど。
「そんなに上手くいくかね」
「ダメなら調整して出直しだ」
「誤射されたら修理代は誰が出してくれる?」
「チーム内の貯金から。心置きなく撃たれてくれ」
「OK,文句なしだ。みんなの腕を信じてる」
「よしじゃあ第二ラウンド出撃だ!」
ちょうど補給も済んだことだし。と、全員それぞれの機体に乗り込み、車から降りて再び闇の中へと潜っていくのだった。




