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第7話 侍現る

 チーム加入二日目。今日の予定は、初のチーム共同出撃……ではなく。機体の慣らし運転という名の野良狩り。バトルロイヤル形式のランダムマッチ。

 フィールドはいつもの狩場、廃棄都市。廃墟や瓦礫で遮蔽物が多く、射撃機体相手にも距離が詰めやすい、人気の戦場だ。

 このゲーム、マッチに途中参加した場合は装甲車から降車でなく、周囲に敵のいないエリアに空中から落下する方法となる。スポーン狩りで出オチをくらう心配がないのは大変結構だ。

 ズシン、と華麗とは呼べない着地を決めて、獲物を探す。

参加時にはすでにいい感じに戦闘が始まっていたようで、あちこちから銃声が響いている。そこへ飛び込むのはパイルとブレード、そしてブースターの三点セットを持った超近接特化装備。果たしてこれでいけるのだろうか、と思いながら、しかしいつも杭一本で十分に暴れていたことを思い出す。十分だろう。よし、行こう。

 ローラーダッシュで路地を抜け、銃撃戦が展開している大通りに躍り出る。敵機を視認。ブースターを最大出力で起動、乱戦のさなかへ文字通り「飛び」込んだ。

 着地点に居合わせた一機を空中からの飛び蹴りで崩し、杭にて貫く。すぐさま右方向へ飛び、路地に逃げ込む。撃破された機体が弾丸の嵐に引き裂かれるのを尻目に、機体の状況を確認する。


「バッテリー89%。ダメージ軽微」


 ブースト一回につき一割。戦闘中にも減っていくから、使えるのは8回か7回か。長期戦には不向きと。いや、それだけあれば、このフィールドに居る奴らを食いつくすには十分だ。

 なんて考えていると、路地の入口に敵機の影が。狭い路地では逃げ場がない、追いつめられた……わけではない。ブースターを起動、姿勢制御で機体を水平にし、垂直の壁に足を付け。ローラーを回す、ブーストで落下しようとする機体を持ち上げ、足を壁に押し付けて……壁を駆け上がる。

 ナメクジ君との決闘で見つけ出した戦闘機動。こんな楽しい機動を実装してくれた運営には感謝しかない。


3mほどの鉄塊が逆バンジーめいて空へと打ちあがり、頂点で失速、重力に従い落下を始めるその瞬間に、機体正面を地面に向ける。

人間にとって頭上は死角となる。人型を模した戦闘兵器もまた例外ではなく、さらに平面移動する敵を撃つことに慣れ切ったエイムの癖が、空中の敵への対応を遅らせる。その遅れは実戦において確実な命取りになる。盾を構えるが、間に合わず頭頂から股下まで縦一文字に切断された。


「いいじゃないか」


 しかし良すぎるのも問題だ。コレ(ブースター)が広く出回ったらみんな空中戦をはじめて、近接武器が当てにくくなるのではなかろうか。空から爆撃とかされたらたまったものではない。


『いや、その装備そう使うもんじゃねーから』


 天の声が聞こえた気がするが気のせいだろう。まあ、無限に飛べるわけじゃない。消費も激しいし、緊急回避か、どうしても空中から攻撃したいときくらいしか使えないか。それなら、戦場の雰囲気は大きくは変わらない。いつも通りに、少し工夫すればいい。


 さて、今度は低出力モード。機体が地面から浮く程度のホバー移動……ローラーダッシュよりも遥かに滑らかに動き、速度も高い。その代わりバッテリーの減りも早い。

 鋭角の軌道で弾を避けながら敵に近づき、迎撃に抜かれたブレードを同じくブレードで受け止め。ブーストで押し込んで、押し勝って、杭の一突き。これで三機め。さて残りは何機居るだろうか。

 距離100に、格闘戦をしている機体が二機。


「仲間外れはよくないなぁ、俺も入れてくれないと」


 混ぜて混ぜてー、というようなゆるい感じで、突撃。その距離を一瞬で詰め、両機の間に割って入り。ブーストカット、急ブレーキからのローラー操作、回転切りにつなげて、二機とも食うつもりで、ずばんと。

 一機は撃破、もう片方はとっさに引いて、装甲に一文字の傷をつけただけで、撃破には至らず。

仕損じた相手に杭を向け、カウンターの用意をしたが、しかし妙なことに反撃の気配がない。


『……その武装、アヌスレイヤーとお見受けする』

「あー。うーん……いかにも」


 数多のプレイヤーの中で二つ名を得る、というのは大変に名誉なことなのだろうが、あまりにもカッコ悪いのでうれしくない。アヌスレイヤーってなんだ。誰だそんな名前を付けたのは。そんなに掘られたいならいくらでも掘ってやる。ガバガバになるまで杭を打ち込んでやる。

 そんな怒りを内心で燃やしながら、目の前の相手に最大限の注意を払う。相手の装備は軽量フレームにブレード一本とブースター。重量からして機動性は相手が勝る。加えて侍スタイルとは油断ならん、よほどの猛者なのだろう。


『格闘戦の名手と聞いている。こうして手合わせできる日を心待ちにしていた』

「そりゃ光栄だ。できればもっといい二つ名を考えてくれるとさらに光栄なんだが」

『残念ながらそっちのセンスは皆無でな。どうか許されよ。では参る!』


 正眼にブレードを構え、眼前の敵が拡大される。近距離でのブースト使用、切っ先がまったく動じない見事な突きだ。ブレードを放り投げて、合わせてブースト。片足を軸に高速半回転でその突きを外した先には、放り投げられたブレードがまだ空中にある。進めば自分の速度で貫かれ、速度を落とせば背中へ遠心力を乗せた杭を叩き込まれる。

 さてどちらを選ぶかな。

 敵機は地面に足を突き立て急減速しつつ旋回、剣の軌道を突きから薙ぎに変え、振り返る。パイルの先端と、高周波ブレードの刃がぶつかり……相殺。刃は中ほどで折れ、杭も半分まで切り込みを入れられて使用不能。ブースト起動、重量物同士の衝突は極めて大きな衝撃となり、仮想現実での再現とはいえ驚かずにはいられない。

そのまま押し込み、壁まで押し付け、使用不能判定の装備をあえて使う。杭の根元に込められたカートリッジが暴発、弾倉内にも誘爆し、それなりに大きな爆発を起こして右腕が吹っ飛ぶ。使用不能判定の装備を使うとこうなるのだが。

 至近距離の爆発に敵がひるんで、敵コアの損傷が拡大。そのコアに無手の拳をぶちこみ、締めとする。


『……いやいや惜しかった! まだまだ修行が足りんということだな!』

「再戦お待ちしてます。良ければ後でフレンド登録をー!」


 なお。この後ブレードを拾って、剣一本だけで4機撃破、被撃墜0。圧勝である。結局肝のあるのは例のサムライ君(仮)だけであった。



「そんな感じで、大体コツは掴んだから足は引っ張らないと思う」

「慣らしくらいなら言ってくれたら相手になったのに」

「いやいや。手伝ってもらうのも悪いかなと思って。それに、実戦に勝る訓練はないって言うし」

「確かに。しかし、聞く限りじゃ慣らし運転なんて必要なかったようにも思えるが」

「ああ、うまく動かせてよかった。そういうわけで今後ともよろしく」

「よろしく。それでどうする、すぐに行く?」

「いや、今日はログアウトしようかな。また今度」

「了解、また今度」


 ログアウトしますか。はい。


 プツン、と視界が真っ暗になり、手足の感覚が現実に戻る。ヘッドセットを外せば見慣れた天井だ。ベッドから起き上がって伸びをすればペキペキと骨が鳴る。今日も楽しめてよかった。また明日遊ぼうね、とヘッドセットを壁にかけて、充電ケーブルをつないで。寝るにはまだ少し早いが、遊び疲れた。シャワーだけ浴びて寝よう。


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