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第65話 脱初心者修行


 ルーキー君の修行は、彼の実力テストから始まった。どのくらいできるのかを知らなければ、適切な指導ができないからだ。育てるにしてもタマゴ(始めて間もない初心者)かヒヨコ(脱初心者)かニワトリ(自分の戦い方を見つけている)かでスタートラインが大分違う……前に手合わせした時の感覚ではヒヨコからニワトリの間かな、くらいだが。たった一度戦ったくらいで相手のすべてはわからないものだ。

彼が最初に出してきた機体は機動射撃型だったが、話を聞けば格闘戦もある程度はできるらしい。ある程度がどの程度なのか知るために、彼にブレードを持たせてパイルで二、三度突きまわしてやった。その結果……


「真正面からブーストで加速しただけのパイルにカウンターどころか避けもできないんじゃ優勝は無理だぞ」

「調子乗ってましたすんません……」


 こっち(格闘)については完全に卵でした。さては見栄を張ったなてめえ。

こんな実力で出場するなんてウサギがライオンに挑むようなものだ、と喉元まで出かかった追撃は飲み込んでおく。指導をするうえで必要以上の注意は意欲を削ぎかねない。指導はする側の能力も大事だが、もっと大事なのは受ける側の意欲。やる気をそがないよう注意を払わねば。


「いやでも銃弾を見てから避けるようなもんでしょう」

「俺にはできるし、上位プレイヤーは皆できる。つまり君にもできる。できるようになってもらう……大丈夫、慣れれば簡単だ。野球の経験はあるかい。ない? ドッジボールくらいはあるだろう。飛んでくるボールを打ち返すか避けるか。それと似てる」

「砲弾はボールの倍どころじゃないし、格闘機はバッターボックスからマウンドの距離より短い間合いでブーストを使うだろ! 無茶言うな!」


 無茶ではない。みんなやってる、できないといけないのだ。だから教育を行う。これは基礎教育だが、基礎をおろそかにした建物は長持ちしない。


「無茶ではない。砲弾だって避ける方法はいくらでもある……基礎教育だ。実演してみせるから撃ってこい」


 機関砲を装備するように言って、自分はスモーク弾頭を仕込んだロケットランチャーを装備。距離をとる。

 相手が片膝をついて機関砲のグリップを握り、銃撃態勢に入るのを見て、スモーク弾頭を放つと同時にガッションガッション歩きで横移動。相手の至近に着弾して、炸裂。真っ白な煙幕が相手の周囲に広がり、その中から闇雲に放たれた機関砲弾が飛び出す。自分がさっきまでいた場所を砲弾が通過していく。


「はい、ストップ」


 銃撃が止み、スモークが晴れる。砲弾を撃ち尽くしてのんびり膝立ちしている機体が現れた。


「これがよける方法の一つ目。見えていない相手にはあんまり当たらない」

「まあ、基本っすね。あんまりってことは当たることも?」

「まぐれ当たりに動きを予想して当ててくる人もいる。あと範囲攻撃に弱い。爆撃とか、複数機によるガトリング掃射とか」


 前回のイベントでは戦車だけで構成したチームが、建物ごとガトリング掃射で薙ぎ払っていた。ああいう煙幕とか障害物を無視した圧倒的火力で面制圧されれば弱い。


「考えてみりゃそうだ」

「じゃあ次。動き続ける、直線的に動かない……蛇が這うようなイメージで動くんだ。今はあまり使われていない動きだけど。補足された状態で、煙幕もない、ブースターも使えない。そういった状態での悪あがきになる」


 ブースターが実装されていない時代の古い回避機動になるので、今はタンクぐらいしか使わない。前のイベントでブースター装備の格闘型が暴れすぎたせいで、よっぽどの理由がない限り今の環境では、タンクを除くほぼすべての機体がブースターを装備している。狙撃機だってサブウェポンを下ろしたり、積載量の多い重量フレームに切り替えてでも装備している。

 実際一度使えばもう戻れない。機動力の差が、戦力の決定的違いなのだとみんなが理解した。


「連射武器は」

「ブースターを使って一気に離脱するか、反撃してやられる前にやるかだな。ヘッドショットを決めればかなり優位に立てる」

「銃撃されながら反撃って難しいのでは。しかもヘッドショットって」

「あわよくば、だな。精密射撃ができないならロケランをぶち込めばいい。最初の戦いでやってただろう。あんな感じで、あわよくば直撃。外れても地面に当てて爆風でダメージを稼げて、視界も遮れてお得だ」

「それやって負けたんだけど」

「まあ基礎だし、相性もある。これをやれば必ず勝てる、なんて戦法は存在しない。ただし、基礎の上に応用は成り立つし、基礎だけでもしっかり極めれば手堅く強い。例えば撃ち合いで後手をとっても相手の狙いが荒くて、自分の狙いが精密なら、後出しで打ち勝てることもある。

相手をよく狙って撃つ、素早く撃つ、これも基本だが、両立させたスナイパーキャノン使いは強いぞ」


たとえばネストのリーダー、ナメクジ君のお兄さん。あれは手ごわい。できれば相手にしたくない手合いだ。近接型がいくら早くても、結局近寄らなきゃダメージは与えられないわけで、近づく前に叩き落されるとどうしようもない。かといって射撃戦は相手の得意な戦闘だし。

 じゃあどうするか、という話をこれからする。


「そういう相手はどう叩くんで?」

「相手より先に撃つか、さっき言ったように砲弾を避けて近寄って叩くか、遮蔽物に隠れながら逃げる。ただしチーム戦だと相手のチームメンバーが回り込んで仕留めに来る」

「どうしようもねえ」


 声に元気がないぞ。訓練前からそんな調子でどうする。


「あきらめずに戦えば案外どうにかなる」

「ほんとにぃ?」

「ほんとに。じゃあそろそろ、実戦といこうか。好きな武装を選んでくれ」


 自分は機体プリセットを射撃型装備に切り替え。武器は両手にスラッグガン、肩に連装ロケットランチャーを一つ、通常型バッテリーにブースターを装備した、中量フレーム。今流行中の機動射撃型装備をちょっと弄った。最初の会敵でロケラン爆撃をして一気に大ダメージを与えて、その後はブースターでしつこく追いかけて、スラッグガンをキッチリ当てて逃がさず落とす。

 スラッグガンとは何か? この前工場襲撃の報酬で手に入れた、一粒のデカイ弾を打ち出す単発銃だ。射程距離は短く弾速も遅いが、威力が少し高い。着弾時の衝撃が大きく、命中すれば足を止められる。性格はグレネードに似ているが、グレネードと違ってしっかり狙わないといけない。そしてグレネードよりも軽い。


「じゃあ……俺はこいつでいく」


 そう言って出してきたのは、シールドとパイルバンカー。うれしい反面、扱いづらい武器であることはよく知っているため、そんな装備で大丈夫かと問いたくもなる。しかし、彼が本気でそれを選び、極めたいと思うのなら、野暮なことは言うまい。


「手加減はしないぞ」


 そいつの欠点は誰よりもよく知っている。重い、でかい、連射がきかない、射程が短すぎる、近接武器なのにでかい音が出る。弾数制限がある。産廃と言われるのもわかるが、どういう因果か。馬鹿な子ほど可愛いというやつか。どうしようもなく、パイルバンカーを愛してしまったのだ。菊一文字という銘を刻んでしまい、アヌスレイヤーという不名誉な二つ名までいただいてしまっても、手放せない。いや弾が切れたら置いていったりはするけど。

 だからこそ、それを持つなら一切の手抜きはしない、本気で殺しにいく。


「されたら訓練にならないだろ」


 その心意気、存分に受け取った。準備完了のボタンを押して、相手も準備が完了し、カウントダウンが始まる。

 8,7,6,5,4,3,2,……0。カウントゼロでブーストを使って敵が突っ込んできて、青白い雷光を纏う杭を突き出すのを、真上にブーストジャンプして回避。ルーキー君はやや通り過ぎてから、こちらに向けてブーストジャンプ、後ろ下方から急速に迫る敵機を、こちらも空中ブーストで逃げて、すると敵も追いかけて空中ブースト。ランチャーが重く、動きはこちらがやや遅い……が、こちらには射撃武器がある。細かいブースト操作で機体を空中でひねり、敵を射角内にとらえた。杭が届く寸前で両手のスラッグガンを発砲、一発は腕部に命中、衝撃で腕が外側へ弾かれて杭は外れ、もう一発はシールドに当たって弾かれた。貫通力がないからね、シカタナイネ。


『よく避ける!』

「伊達に格闘縛りでやってない」


 すぐ後ろに廃ビルの壁が来たのでこれを蹴って、機体の向きを変えつつブーストで機体を高く持ち上げる、同時に追いかけて壁を蹴ろうとしたルーキー君の機体に向けてロケットを全弾発射。


「空中なら直撃はない、と油断したな?」


 彼が蹴ろうとした壁にロケット弾が突き刺さり、発射した数だけ爆発が起きる。爆風はシールドで防げても、彼が蹴ろうとした壁は粉々に砕けてしまい、さらには建物がダメージ超過で崩落を開始する。ルーキー君は空中ブーストの勢いを止められずにそのまま突っ込んでいき、崩落に巻き込まれた。


『うおおぉぉぉぉ!?』


狙ったわけではないが、これで身動きできまい。

 自分もブーストを切ってその中へ向かって落下していき、彼の上に位置取る。

 このまま地面に落下した彼の上に落ちれば、踏みつぶしのダメージで撃破できる。だが大人しく踏みつぶされてくれるとも思わないので、踏みつぶすためにさらに痛めつけてやる。左右のスラッグガンを上から交互に撃ち下して、盾で防ごうが落下の勢いは止められない。……ドゴン、と地面に背中から落ちた。バッテリーはつぶれただろうか? 確信が持てない以上追撃する。間を置かずに、構えている盾の上にノーブレーキ着地。メギシャァ、と足元で金属がひしゃげる音がした。

 

「盾は持っても、機体は持たなかったな」


 -ENEMY DESTROYED-

 - YOU WIN-


「さっきの動きは良かったぞ。最初と別人みたいな動きだ」

「完封されてそんなこと言われてもなぁ……」


 実際見違えるほどいい動きだったんだけど。対処が遅ければ当たっていたし……罵られるとノッてくるタイプなのか。Mか、Mなのか? 適度に罵ってあげたほうがいいのだろうか。鬼軍曹モードでいかなくちゃならないか? そういうのはキャラじゃないんだけどな。


「ところで指導は厳しくか、優しくか、どっちがいい?」

「優しくでお願いしまッス」

「オッケー……パイルは扱いが難しい。うまく扱えれば俺みたいに戦えるが、それまでに愛機のスクラップを山のように作ることになる。どうしてもそれが使いたいなら止めないが」

「そういうわけじゃないんで」

「オッケー。じゃあ自分がコレを使いたい、って武器はあるかな」

「うーん……特にないっすね」

「じゃあまずはそれを探すことから始めよう」


 かくして。ルーキー君との脱ヒヨコ修行の日々が始まった。いや今思うとルーキー君だとルーキーズと名前が被るな。彼のことは今度からヒヨコ君と呼ぼう。

 立派なニワトリ目指して頑張ろうな!


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