第6話 二度あることは三度ある
中近両用高火力から、高機動近接格闘機に生まれ変わった愛機の初の実戦。そしてナメクジ君との再戦。そのどちらも一度に起きるとは、まったく人生……を騙るには些事か。まあ何があるかわからないものだ。
そんな感傷を抱きつつ、本日の決闘用のフィールドを見回す。タイプは荒野。廃棄都市と違って、遮蔽物は大きな岩が二、三ばらけた場所にあるだけで、他には枯れ木以外に何もない平地。射撃武器が最大限の威力を発揮する場所で、逆に近接武器にはこれ以上なく不利な地形。
相手も機体セットが決まったのか、空からズシンと降ってきた。距離は300m。よく見えないので拡大表示すると、レーザーキャノンとライフルの二刀装備。レーザーキャノンの性能は未知だが、射撃武器のカテゴリである以上、このフィールドじゃ普通に考えれば勝ち目がない。
考え方を変えれば、新装備の性能をはかる絶好の機会。負けるつもりはないが、負けても失うものはないし。全力で楽しもう!
心の準備もできたことだ。準備完了のボタンを押す。相手も押して、カウントダウンスタート。
『格闘一本に絞るとは、勝負を投げたか?』
「そんなことはないぞー。たぶん」
『手加減されて勝ってもこっちは嬉しくねえぞ。本気で来いよ』
「慣れない装備だからなぁ。手加減ってことには……なるか。まあ、納得いかなきゃもっかいやろう」
カウントゼロ。ブースターを最高出力で起動。
瞬間、景色が跳んだ。
機体がライフルの弾丸めいて加速した。あまりの加速度に地から足が離れ、飛翔した。正面の敵に迫る。速度計を眺めている暇などなく、驚き、放心すること一瞬。瞬き二つする間にはもう右腕の射程圏内に敵を捉え、そのまま激突するところであったが、身に沁みついた条件反射が体を動かした。目の前に敵が居たら、杭を構え、打つべし、と。
正面の敵は、構えたレーザーキャノンの砲口に光が凝集されている。それが放たれるのと、杭が敵機を捉えたのは、全くの同時であった。
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しばらくこのゲームで遊んでいるが、引き分けなんて初めてだ。私の初めて、ナメクジ君に奪われちゃった……やばい、我ながらキモイ。キモ過ぎる。
いやしかし、最大出力こそわかったが消費エネルギーとか出力を抑えて使えばどうなるかとか。そういう細かいところがわからなかったな。一戦だけじゃ仕方ない。
『「もう一戦やるか」』
奇しくも、相手も同じことを考えていたようだ。ふふ、と笑みが零れる。
「なんだ、案外気が合うじゃないか」
『すっっっっっげーーーー不本意ながら、そうみたいだな』
「そんなに嫌がらなくても」
『変態と気が合って嬉しい奴なんて同類以外に居ねえよ』
「同類になれよ。こっち側は楽しいぞ?」
『嫌だよ!』
「なんでだよー」
『変態を避けるのに理由が必要か!?』
「僕は無害な変態だよ! 怖くないよ!」
『アヌスレイヤーが無害で怖くないとかウケルー(棒)』
「よし。望み通り正面から掘ってやろう」
『おうやれるもんならやってみろ』
なお、この後十戦した結果は九勝一敗。なめくじ君の成長が感じられてうれしい一日でした。
「こっちは地面を這いずり回ってるのに、お前だけ三次元機動とか反則……壁蹴りとか何……」
「そっちも最後にはキッチリ当ててきたじゃないか。やっぱ光学兵器ってつえーわ」
「あれめちゃくちゃ燃費悪いんだぞ。バッテリー拡張しなかったら一発しか撃てないんだぞ」
「無限に飛べるわけじゃないし、使えば使うほどバッテリーが減るし」
「でも最低限の動きで仕留めに来るじゃん?」
「まあな」
「機動性向上しただけじゃね?」
「そうかもしれない」
「あと武器がパイル一本じゃ弾が足りなくね? 片手にライフルかブレード持った方がよくね?」
「そうだな。そうかもしれない」
確かに乱戦では心もとない。パイル二刀流ができれば最高なんだが、残念ながら重量オーバーで出撃不可だ。乗せるなら、ナメクジ君の言う二つだろう。空中からロケットランチャーで爆撃というのも面白そうだけど、それじゃ継戦能力は大して変わらない。早々に弾切れでリタイアになるだろう。
「……ところで、最後だけ俺の勝ちだったが。抜けんのか」
「そっちがいいならもうちょっとだけ厄介になろうか。ナメクジ君が俺に安定して勝てるようになるまでは」
「なら残れ。あ、勘違いすんなよ、残ってほしいわけじゃない! あんなまぐれ当たりが勝ちと認められないだけだからな!」
負けを認められない、から、まぐれの勝ちを認められない、か。最初に会った時からは考えられない成長ぶりだ。もうナメクジと呼ぶのは失礼かな。しかし今更なんと呼べばいいか。
本人に聞けばいいことか。
「チームのメンバーになるなら、ナメクジって呼び続けるのも失礼だな。何て呼べばいい」
「俺が勝てるまでナメクジでいい」
「いいの?」
「いい」
「じゃあこれからよろしく。ナメクジ君」
「やっぱムカツクな」
理不尽である。