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第56話 新装備の実戦テスト

 ナメクジくんとの特訓も一段落し、そろそろ実戦テストに移ろうかという話になった。これまでの特訓は一対一、互いを認識した状態からの、お互い近接武器に絞っての戦闘だったから、実戦とは全く違うもの。そもそもプレイヤーマッチで、格闘武器同士の一対一の戦いなんて普通は起こらないからして、対格闘機に特化した訓練は全く無駄ではないにしろ、あまり意味のない訓練だったかもしれない。

 俺が普通ではない事態によくよく遭遇するのはなぜだろう、類は友を呼ぶというやつか。

 ……それはさておき、実戦では相手は飛び道具を持ち、基本的に武器の有効射程距離を保とうとするので、追えば逃げるし逃げれば追ってくる。互いを認識するどころか不意打ちで横から背後から、なんなら囲まれて複数の方向から撃たれることもある。そんなとき、通常ではない装備、ドヤ顔ダブルシールドでどう対応するか。普通の装備ではないからして、既存の戦術はアテにできない。ナメクジくんは自力で戦術を開発する必要がある。ロマンは一日にしてならず。頑張れと励ます他には、一緒に出撃してあげるしかできることはない。


 まあ、万に一つくらいは実験で結果を出せなくても実戦ではよい案外いい結果を出す可能性もある。そんな考えのもと、ナメクジ君を例の装備で戦場に引っ張り出すことにした。


 今日の出撃条件は4対4の通常のチームバトル、先に敵を全員ぶっ殺したほうが勝ちのシンプルなルール。出撃メンバーは俺、ナメクジ、リーダー、そしてサムライのリーダー。なぜサムライがいるのか? それは実戦でのテストを発案したのがサムライくんだったからだ。日程を合わせてログインして、たまたま一緒にログインしていたリーダーも巻き込んでの出撃となった。


 近接3機、遠距離狙撃型が1機という極端すぎるメンバーだが、極端なのはいつもと変わらないのでなんとかなるだろう。腕がなければ烏合の衆だが、幸い全員腕利きだ。


「ナメクジくん、一番最初に落とされるなんてコトがないようにな」

「なんのための盾だと思ってる。そんな簡単にはやられねえよ」

「過信して突っ込んだら盾ごと抜かれるか後ろからやられるか。無理はするな」

「ノンビリしてたらお前らが全部食っちまうだろ。それじゃテストにならん」


 出撃前の楽しい会話もほどほどに。輸送車両の扉が開いたので、表に出て外の土を踏む。ガシャンガシャン、にぎやかな足音が続く。


 今回の出撃フィールドは廃都市。以前ルーキーズというチームにボコボコにされた因縁の土地。しかし、今回の対戦相手の掲げる旗は、糸にぶら下がる女郎蜘蛛のエンブレム。妙に上手な絵でとてつもなく気持ち悪いです、つまり別チームだ。

 名も知らぬ戦士たち。彼らはどんな装備で、どんな戦術を見せてくれるだろう。どんな敵でも突破してみせるとも。このパイルバンカーさえあれば。


 戦闘開始のカウントダウンが始まる。


「ところでこのチームの方針は? あるなら一応合わせるけど」

「好きに暴れてくれ。俺たちもそうする」

「了解。そういうの好きだよ」


 サムライくんの顔は見えないが、ニヤリ、と笑っていることだろう。

 カウントが0になり、全員が一斉に。バラバラに動きはじめる。これはチームプレイではない、ソロプレイヤーが四人集まっているだけだ。これで個人個人のプレイスキルがゴミだったら弱小チームなのだが、これでも前回の大会をうっかり優勝してしまったものだからビックリ。チームメンバーではないが、参加者の一人は最後の最後まで残っていた準優勝者。実力は疑いようがなく、俺の最強であるパイルさえも打ち負かす猛者である。

 では、果たして今回の敵さんチームは我々を満足させてくれるワザマエの持ち主であろうか。

エンブレムが凝っているチームはだいたい強い、という噂はあるが……そうでないのも多い。逆にどシンプルなエンブレムでめちゃくちゃ強かったルーキーズとか居るし、つまり噂はアテにならない。宝箱の中身は開けてみなければわからないということだ。


 リーダーは四本脚を器用に使ってビルの壁を登っていく、ナメクジくんとサムライの二人はそれぞれ違う通りに進出。自分はどうするか少しだけ悩んで、他のメンバーと同じようにとりあえず突っ込む。

 戦いが始まれば銃声に惹かれて敵味方全員集合になるから非効率? 各個撃破されるリスク? 知らんな。楽しければそれでいい、それで勝てればもっといい、それだけだ。


 崩れたビルの隙間、ひび割れたアスファルト、所々に生えた樹木。その隙間を縫ってローラーダッシュで駆け抜けながら、敵がいないかモニターとセンサーを凝視して探す。

 探索・索敵すること1分弱。未だに一発の銃声も聞こえなければ、敵の姿も見えない。入り組んだ場所での戦いはそういうものだとわかっていても、焦れったい。だが先に集中を切らしたほうが後手に回る。ここは焦らずに。


 ――――!! ビルの隙間を反響して、増幅された砲声が届く。発砲したのは、リーダー。被撃墜マークはついていないから、やられてはいないと。


『残り3機。敵は四本脚でビルに張り付いてる。的あてだなこりゃ』


 先に見つけたのはリーダーらしい。壁に、ということは近接一本のこの機体には少し不利だ。射撃戦の武器を持ってきていれば叩き落として突き殺せば済むんだが、残念ながら持ってきてないので、仕留めるためには近づかねばならない。

 高所に陣取る相手に近づくには身を晒さねばならず、その間は撃たれ放題。大変に不利だ。


 近接武器のロマンにこだわる以上は避けられない問題。でもそんなの関係ねえ! 不利をひっくり返して勝つことにロマンがあるのだから、むしろ困難な敵こそ燃えるというもの。


『一人やられたなら相手にも動きがあるはずだ。早いもの勝ちだが、全部食っちまっても恨むなよ』

「リーダーこそ、調子に乗って落とされるなよ」

『一人一機のノルマはこなしてるんだ。別に問題はない。そっちこそ一人も殺さないままやられたら笑ってやるからな』


 確かにそれは笑いものだ。恥をかかないよう頑張ろうじゃないか。

 動きを変えて、見通しの良い大通りに出る。先に見つければ一気に近寄って倒すし、撃ってきてくれれば位置を逆算して殴りに行ける。さあ敵はどこだ!


『敵はどこだー!!』


 同じ考えをしていたナメクジくんが先に通りに出てきて、ドゴォ、と砲声。しかし二枚盾に弾かれて、跳弾がビルの壁に穴をあける。一秒間を開けて、二発目が。しかしそれも弾かれて……敵の発射位置がわかった。通りの突き当りのビル壁に張り付いて、腕を上に、ナメクジくんを見上げるような格好で狙いをつけていた。

 三発、盾にひびが入る。ナメクジくんがじっくりとロケットランチャーの狙いをつける。四発目が発射される前に、ロケットが発射された。9連装のランチャー2つから、18発連続してロケット弾が飛び出して、四本脚の張り付いているビルに向けて飛んでいく。

 砲弾に比べて精度と威力に劣るロケット弾ではあるけれど、その代わりに種類ごとに砲弾にはない機能がある。HEATなら直撃すれば一撃だし、HEなら爆風と破片でダメージ、至近弾の衝撃で硬直、テルミットならダメージゾーンまたは継続ダメージ。どれを取っても驚異には変わりない。

 そんなものが尾を引いて大量に迫ってくれば、回避、逃走を図るのが自然な選択。壁を這い回って避けるのは間に合わない、よって壁を離れて落下して逃走しようとする敵機。その行動を先読みして、ナメクジくんは連続ブーストで急加速、地面とほとんど平行にかっ飛んでいき……着地で硬直した敵機を真正面に捉えた。ブーストの速度を一切落とさずに突き出される衝角付きの膝、重い金属どうしがぶつかりあい、ひしゃげて潰れる甲高くも鈍い音。四足は衝撃に耐えきれず、スパークとオイルを撒き散らしながら脚部と上半身の接合部から二つに折れた。そしてナメクジくんは敵の千切れた上半身をサーフボードのように踏み敷きながら華麗にスライディング着地を決める。


『一機撃破、だ。見てたか変態!』

「お見事。先を越されたな」

『ふふん。オメーの獲物ねーから!』


 そんなことはない。あと二機残っているし、そいつらを俺が仕留めれば……


『二匹目ぇ!』

『これで四機か。もうおしまいとは、ちょっと物足りないな』


 …………撃破数ゼロ。一度もパイルを振るっていないにもかかわらず、虚しく明るく響き渡るファンファーレ。

-ALL ENEMY DESTROYED-


……たまには、こんな日もある。悔しくなんてないさ。ナメクジくんの成長が見られたんだし。


「もう一戦するぞ!!」

「しょうがねえなあ」


 やっぱり不満だ! パイルの活躍場面がないなんて! ナメクジくんが俺よりたくさん活躍するなんて!! 納得できるかこんなもん!! 第二ラウンド行くぞォ!!


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