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サムライ・リターンズ

ナメクジ君の行く道は厳しい。先も言った通りロマンとはハンデであり、それを押し通すには尋常でない覚悟と努力が求められる。


「……難しい」

「ローマ、もといロマンは一日にしてならず、だ」


 現在、模擬戦におけるナメクジ君の撃墜スコアは最初のテストを除きゼロ。代わりに被撃墜スコアは5をカウントしている。一度は徹底した引き撃ちで削り殺した。二度目は旋回性能の差を活かし、ナメクジ君の周りをぐるぐる回って撃ち殺した。三度目は蹴りにカウンターでレーザーブレードを合わせて足を切断。四度目は蹴りを避けてがら空きの背中を撃ちぬいた。五度目はパイルで貫いて倒した。

ナメクジ君の必殺キックはパイルと同様当たれば一撃なのだが、射撃武器がある中で格闘攻撃というのは、至近距離でバッタリ出くわしたとかいう場合でなければそうそう当たるもんじゃない。どれだけ強い武器だろうと、結局は当たらなければ意味がない。盾があって、被弾に強いからとガンガン突っ込んだところで露出している足を集中砲火されるか、回り込まれるだけ。ブーストで急接近しても、動きを読まれたらカウンターされるか回避されるか。

先のイベントのファイナルアタックだから、蹴りが脅威となるのはパイルの強さよりも知れ渡っている。ろくな武器を持っていないからと油断してくれるような優しい敵は素人だけだ。だから壁蹴りと空中ブーストで立体的な機動を取り攪乱すれば、もう少し狙いにくくなるし当てやすくなるだろう。


 しかしこのアセン、ソロプレイじゃなくチームプレイで、相方との組み合わせ次第では、どや顔ダブルシールドという一見ネタに見える装備が厄介な脅威に変わるのだが。例えば狙撃態勢の味方機を敵の攻撃から守ったり。傷ついた味方機と敵の間に割って入って守ったり。あとはイベントのときのように、警戒の順位を下げられたところへ蹴りをぶち込むのもいい。敵からのヘイトを稼げば両手の盾も存分に効果を発揮するだろう。


『ルームにフレンドが参加しました』


 こんな感じで滾々と意見を述べていると、招待状を読んだサムライがやって来た。地面に影が差し、空を見上げれば落下音と共に刀を握りしめた鉄の塊が降ってくる。

 ズシン。

 衝撃で砂埃を盛大に巻き上げながら着地を決めた、新しいフレンドのサムライ。ナメクジくんの先生として呼び出したその人。対価はナメクジくんとの戦闘と、俺との戦闘。

先の戦いはお互い消耗しきってたが、だからこそすべてを出し尽くして戦って、負けた。トドメの一発をもらう直前にナメクジくんが彼を蹴り殺したおかげで俺は助かり、優勝と生存者の名誉を手に入れることができ、ナメクジくんは蹴りにロマンを見出した。

俺としては前者よりも後者のほうが喜ばしい。ロマンを求め続けるチームに一人だけ、ロマンを見つけ出せないという状態が長らく続いていたから、居づらさもこれで解消できたと思う。というのはこちらの感想であり、ナメクジくんからすればどうでもいいのかもしれない。

そしてサムライからすれば獲ったと思った瞬間に狙いすました伏兵による横やりを受けた、という結果。不満が残ってもおかしくはない。だから再戦の申し出をしてきたのかも。

 横やりが入らなかったところで、ナメクジ君を仕留められるほどの余力は残っていなかったしどのみち結果は変わらなかったのだが、まあそれはそれとして。


「どうも。本日お忙しいところお越しいただきありがとうございます」


 何はともあれ、まずは挨拶。アイサツは大事、古事記にもそう書いてある。挨拶なくして人との関係は生まれない。健全な人付き合いは丁寧なあいさつから始まるのだ。

 戦場でのあいさつはアンブッシュだったり銃弾だったりするけど、そこはまあTPOをわきまえてのことだし。戦場でのんびり頭下げて挨拶とかやるのはアホらしい。だからこそそれ以外では重視すること。


『構わないよ。こちらも戦う機会を待っていたところだ』

「そいつは光栄。では……」


 どちらともなく武器を構える。


「やりましょうか。もちろん一対一で」

「三度目の正直だ、今回は勝たせてもらう」

「前回はそちらの勝ちだったのでは?」

「チームでは負けた」


 どうやら完璧な勝利でないと気が済まない方らしい。苦笑しつつ、相手の装備を観察。前回と同じく二刀流。機体の外見は変化せず。こちらも装備は変えていないが、お互い無傷の状態からスタートだ。

 さてどう攻めようかと脳内でシミュレーションを行う。まともにぶつかれば武器を二つとも損失してしまう。パイルと相手のブレードを一本交換で、もう一方の武器は切り結べば折られる。回避を選ぼうにも敵のほうが速い。不意打ちの蹴りは一度見せているから通じない。さあどうしよう(二度目)

 ……一手で仕留めなければ詰む。しかし、一手で仕留められるほど相手は甘くない。この勝負、負けるか? ……いいや、パイルを信じろ。パイルバンカーの力はそんなもんじゃない。信じる者は救われる、信じる者は勝利する。

 信じなければ負けるのだ。最初の一撃に全てをかけるべし。


「「行くぞ」」


 カウントゼロ。背中にはやしたブースターが火を噴き、機体が一瞬で最大速度まで加速する。サムライも同じく、タイミングは全く同時。衝突は二人の中間地点。速度を乗せた一撃はすべてを貫く。俺のパイルバンカーは最強なのだ。負けるはずがない。そう信じて右手を突き出し、杭を打ち出す。迎撃に刃を重ねられる。前はこれで杭を裂かれた、だからどうした。裂かれてもいいじゃないか。この杭で敵を貫くことができるなら。

 衝突の瞬間に、もう一度ブーストを使用。刃ごと、押し込む。押し付ける。前と同じようにパイルに刃が食い込むが、止まらない。重量差でそのまま押し込む、押し込む。押し込む……押し、切る! 炸薬だけでなく、機体を射出装置として使ってやった。信じて送り出した杭は見事に刃を食いちぎり、腕をへし折り、敵の中心をとらえ……もう一度、ブースト! 機体重量を宙に浮かべるほどのエネルギーが、杭の一点に集中する。どれほどの装甲であっても、耐えられる道理がない。まして軽量機の紙装甲であれば……


「なに!?」


 否! 杭の先端は確かに敵を捉えていた。だが撃墜ならず! 敵は杭に押されると同時に後退することで衝撃を逃したのだ! なんというワザマエ! そして仕留めきれなかったアヌスレイヤーをサムライの無慈悲な反撃が襲う。


『獲ったぞ!』


 右腕が切り落とされ、今の一撃で仕留めきるつもりでいたアヌスレイヤーは左手でブレードを……抜かずにサムライの機体の頭部を鉄の拳で殴りつけた! 破れかぶれのヤケクソ攻撃ではない、実際ブレードを抜いて切りかかっていれば、返す刃で左手も切り落とされていた。これまで積み重ねた戦闘経験が導き出した的確な状況判断だ。そしてこれは前回のイベントでアヌスレイヤーがやられたことを、そのままやり返した形になる。

 これだけでは止まらない、さらに一歩前へ! 下がれば斬られる、刃の間合いから踏み込んで、殴る! 殴る! 殴る! ワンインチ距離においてもっとも頼れる武器は己の拳であると言わんばかりに猛攻を加える! 肉で肉を殴るのが有効なように、鉄で鉄を殴るのは有効打足りえる!! マニピュレーターの損傷を気にせず殴り続け、頭部カメラは跡形もない!!


『なんの!』


  しかし侍も黙って殴られてばかりではない、こちらもゼロ距離からブーストを使って、垂直に飛翔しながらの膝蹴りをアヌスレイヤーの顔面にぶち込んだ! 蹴りの威力はこぶしで殴るよりも実際強烈! 頭部カメラ粉砕! イベントでの立場を入れ替えて再演し、より過激に過熱した展開、もし観客がいれば興奮のあまり失神からの強制ログアウトもあり得ただろう!

飛び上がった侍がそのまま踏み潰しを狙うが、アヌスレイヤーは直観に従い下がって回避。間合いを開けて、仕切り直しだ。サムライは武器を構えなおし、アヌスレイヤーもブレードを抜く。二人とも前が見えないからと正面装甲を開き、コックピットを露出。一発食らえば即死だが、どのみち近接機が相手ならクリーンヒットで一撃死が普通なのだ。気にしない。


「俺もまだまだパイルを扱いきれてないってことだな」

『怖いことを言う』


  理想を言えばパイルの一撃で決めたかったが。パイルバンカーが壊れてしまったからそれは無理だ。だから妥協して、せめて勝つ。

  最後の衝突に向けて両者が武器を構えてにらみ合う。互いに隙を見出そうと様子を伺い……しかし動きはない。十秒と経たず、早くもしびれを切らしたサムライが仕掛けた。


「!」


イベントよりも前、最初の戦いで見せた、刺突にブーストを合わせた高速突進。切っ先のぶれない見事な突きは、正面から見れば点にしか見えず、開いた間合いを一瞬で詰める速度も併せて回避も防御も不可能に思われた。

だが防ぐ。腕を突き出し、幅広のブレードの腹を差し込んで受けた。丸出しの弱点があればそこを狙いたくなるのが心理であり、相手の腕前であれば正確に狙って来ると信じて盾とした。耳障りな金切り音が鼓膜を、金属を削る火花が網膜を撫でる、相手の刀がこちらのブレードを貫通して切っ先が目の前に迫って……止められなかった。



-YOU LOSE-


「負けたぁー!」

「勝った!」


 近くに生身でリスポーンして、愛機の残骸を眺めて叫んだ。死力を尽くしたロマンとロマンのぶつかり合いは、パイルではなく二刀流の勝利で終わってしまった。悲しい。悔しいけれど、それはそれとして祝福すべき結果だ。敗北とは決して、ロマンの素晴らしさを否定するものではないのだから。


「ところでどうして呼ばれたか確認してなかったんだが、再戦希望でよかったんだよな?」

「あれ、メッセージ読んでない?」

「間違えてゴミ箱に……申し訳ない」


 侍さんたら読まずに捨てた♪ ドジっ子属性ですか。そうですか。アバターの渋い声で言われても苦笑いしか浮かんできません。そんでこの後無茶苦茶要件説明した。


もう少し早く更新する予定だったのですが、遅れました。

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