第51話 砂漠地帯 終戦
銃は剣よりも強し。別な有名な言葉をもじったこれまた有名なセリフだ。あまりに普通、常識的な発言なので、これが用いられるのはたいてい相手を罵倒するときだ。
それが真実であることは、今の時代の戦争の主役は銃であり、剣は接近戦用のお守り程度になり下がったことからよくわかる。
だが、この言葉をひっくり返すことを至上の喜びとする時代錯誤の狂人も存在する。
サムライ、鎧をまとい、刀を掲げて敵に突撃し首級を上げる変態の集まりである。
銃に刀で対抗する、口にするのは簡単であるが。実行するのは困難を極める。その圧倒的不利な条件をひっくり返すのが彼らである。
「敵が見えた。私が突っ込む、少し遅らせて突入しろ」
「了解」
勝つためには操縦技術のみでなく、頭も使わなければいけない。正面から突っ込んで射撃機の群れを全員撫で斬りにするのはロマンであるが、それが通用するのは素人だけだ。彼らが求めるのは素人ではなく、熟練の敵。そう、今まさに狙っている敵のような。
ネストの追撃を受けつつ、砂漠地帯に逃れてきたEDF。彼らの損害はオアシスでやられた一機のみで、あとは全員ほとんど無傷。奇襲を警戒して円陣を組み敵を待ち受けている。
そんな彼らの目にブーストの光が映った。
「敵襲! 近接機!」
報告を叫びながら、即座に20㎜機関砲で弾幕を張り迎撃を開始、一瞬遅れて他機も追従して攻撃を開始する。だがブレードとブーストのみを装備した最軽量機の突撃を止めきれず、肉薄したサムライに一機切られた。損傷は軽く、撃墜には至らず。迎撃にひるんで踏み込みが足りなかったのか、元々損傷していて攻撃が中途半端になっただけか。どちらかはさておいて、一当てしてそのまま逃げだすサムライを見逃しはしない。
「三番機は俺と。残りは背後の警戒!」
「了解!」
むざむざ逃せばまた奇襲を受けるかもしれないと、4機の内2機が追撃に向かう。残る2機は背後を警戒。残りが1機なら突入してきてそのまま乱戦に持ち込むはず、自分ならそうする。相手がそうしなかったということは、つまり別動隊が居る。
推測は正しく、並の相手なら二対一で一人を囮に使えば勝ち目は大きい。だが戦力の分散という過ちを犯したのも事実。
銃が剣に勝る部分は、何よりも射程距離。懐に入られれば有利は消える。わずかに意識をそらすだけでも、接近には十分な隙になる。
「くらえ」
射線をよけて、一機の横をすり抜けるように動く。すり抜けざまに一撃、先のリーダーの単騎駆けで傷ついた機体を狙い、わき腹を深く切り付ける。ガワは鉄で固めても中身は柔らかいまま。パイロットが死ねば、機体はただの鉄の塊でしかない。
「クソッタレ!」
相棒を失い激昂するEDFに対し、サムライは冷静に。切り殺した敵を盾として押し出す。
仲間の死体を撃つのもお構いなしに機関砲をぶち込むが、しかし鋼鉄製の棺桶を貫通することは難しかった。弾丸は届かず、サムライはジリジリと距離を詰めていく。
しびれを切らし、回り込もうと動くEDF。構えが崩れた瞬間にブレードを投げつけるサムライ。手を離れたブレードに破壊力はないが、何かが飛んで来たら反射で避けようとして体は勝手に動くもの。一瞬の隙、切り込むのは十分。ほぼ無傷の近接気が目前に迫る。EDFに成すすべはなかった。
「リーダー。こっちは終わりました。手助けは必要ですか?」
「もう終わった。合流してもう一度アヌスレイヤーと……今度こそ決着をつけよう」
「損傷している機体でよく二機も仕留められましたね。さすがです」
「後ろを取られて動揺したところを獲った、そっちの働きがあればこそできた」
「ありがとうございます。では、本命に行きましょうか」
「ああ、行こう」
合流した二機は傷まみれ。度重なる被弾で性能も低下している。ブーストの乱用でバッテリー切れ寸前。戦闘はなんとか継続可能だが、長期戦はできない。おまけに相手の方が数が多く、速攻をかけるには敵が強い。
戦力は主目標でもあるアヌスレイヤー。的確なタイミングで横やりを入れてきたボンバーマとナメクジ。あのチームだけあって、生き残った全員がエース級とみてかからねば危うい。慢心は敗北を招く。
「狩るぞ」
「生き残ったのはどっちだろうな」
銃声が止み、砂嵐のごうごうという音だけがスピーカーから聞こえてくる。
「ブレオン野郎どもだろ。追い立ててた連中、数当てないと話にならん武器にこの砂嵐だ。せめて晴れてればまだ話は変わっただろうが、勝ち目はない」
「せめて一機でも潰しといてくれりゃ楽になるんだが」
「そこは連中に期待ってことで……もうすぐ来るぞ。気をつけろよ。格闘武器はやられるのは一瞬だ」
砂嵐の中、光が輝く。二つ。
「来たっ!」
「一人もやられてないか。じゃあ、自爆しよう」
砂嵐を突破してきた二機が同時にボンバーマンに襲い掛かる。灰色の刃が機体を狙う、ブーストを装備していない鈍足機ではとても逃げられないだろう。
だからといって、何の抵抗もせずにやられる彼ではなかった。迫撃砲を真下に向けて、発射。榴弾が地面にぶつかり、爆発する。一機は後退し爆風から逃れる。だが、もう一機は構わず突撃。激しい炎と爆風に装甲を削られながらも、刃は止まらずボンバーマンの機体を深く貫いた。
「……ここまでか。あとは任せる」
さらにもう一度、先とは比較にならない規模の大爆発! 自爆装置だ。近くにいたナメクジ君は吹っ飛び、爆発の中心に居たボンバーマンは消し飛び。サムライ一人は、致命傷を与えていたからこそ逃げられなかった。ゼロ距離での大爆発を受けて、ボンバーマンと同じく消滅した。
爆風のせいか。砂嵐がわずかに切れる。今フィールドに立っているのはアヌスレイヤーとサムライのリーダー、二人だけ。傷だらけのパイル使いと、同じく傷だらけの二刀使い。太陽の光を受けてカメラアイが輝き、モニター越しに視線が交差する。
求めていた獲物を前にして……双方動かず。不気味な沈黙が流れる。
このイベントにおいてはじめて、「敵を前にして動かなない」という奇妙な状況が生まれた。
なぜか。理由は双方の消耗である。お互いの実力は一度目の手合わせで理解しており、お互いに一手で仕留められるとは思っていない。強力な攻撃にはブーストを残しておきたいが、使える回数は二人とも二、三回しかなく、先に一手を使ったほうが大きく不利となる。
だからこそ「出方を見る」ことにした。うかつに飛び込めばカウンターで刺されるのがわかっている。
「……待っていてもらちがあかんな」
動かなければ負けはないが勝ちもない。決断は同時。二機が同時に飛び出し、二人のちょうど真ん中で激突する。
激突し……動かない。勝負がついたのか? 否、まだだ。打ち出された杭はブレードの一本を砕き、しかし二本目によって縦半分に切り裂かれ、機関部にまで切り込みを入れられ役立たずとなった。しかし超硬質の杭はサムライの剣を挟んで離さない。最後の衝突はお互いに武器を失った結果となる。
が、勝負はまだついてない。
「まだだ! まだ終わってない!」
「死ねぇ!」
アヌスレイヤーは軽量機なら蹴り殺せると思ってブーストチャージ。だが、ほぼゼロ距離では加速が足りず、十分な破壊力を得られなかった。反撃に折れた刀をカメラに叩きつけられて、繊細なカメラが機能不全に陥った。
方や重傷、方や目つぶし。損害の度合いは元・二刀流の侍のほう重い。だがアヌスレイヤーは目つぶしを受けてメインカメラを破損。視界の大部分を目障りなノイズに占拠されることとなった。
「くっそ! 楽しませてくれる!」
格闘戦に限らないが、敵の動きが見えないのは極めて不利である。相手が熟練ともなれば勝敗は決したようなもの。だがそれでも粘る。使い物にならないパイルを手放し、こぶしを固める。相手もパイルに食い込んで取れないブレードを手放し、折れてギミックも失った剣で切りかかる。
アヌスレイヤーが敵の居場所に予想をつけてこぶしを打ち出す。空を切り、伸びきった腕を切れ味の失われたブレードが切りつける。ダメージはないに等しい。次の拳を。再び空を打ち、また同じ場所をブレードが切りつける。掠りもしない。
アヌスレイヤーの脳裏に敗北の予感が浮かぶ。相棒を手放し、敵の姿は見えず拳は当たらない。勝ちのイメージが湧いてこない。
――だからこそ、楽しい。勝つばかりがゲームの楽しみではない、精いっぱい、全力を尽くして戦ったなら、勝っても負けても楽しいものだ。
三度目の空振り。腕に衝撃は来ず、代わりに側面のサブカメラが敵の姿を映す。背中に回ってバッテリーを潰す気だろう。そうはさせない。
「姿が見えたなら、殴れる!」
ローラーを高速回転、クイックターンを決めて、振り向きながらの裏拳。頭を捉えた、装甲越しに強烈な衝撃が伝わってくる。しかし人体ならこれで怯むだろうが、鉄の塊はそうはいかない。ブーストを使われて、一瞬。完全に背後を取られた。
―バッテリーの残りはもうない。ブーストを使えば動けなくなって、そのまま敗北。使わなければそのまま負ける。どうしようもない、詰んだ。
『貴様はよく戦った。だがそれでも、勝ったのは我々だ!』
サムライはきっとそう叫んでいることだろう。敗北を受け入れて、目を閉じる。サムライは勝利をつかむために、折れたブレードをバッテリーに突き立てようと………………
――悪いけど、チーム戦なんだよこれ――
飛んできたロケット弾が三発直撃。アヌスレイヤーにばかり夢中になり、ほかのことは完全に思考の外に置いていた。勝利を確信していたところを、爆発の衝撃で頭を揺さぶられた。衝撃で動きを固めたところへ突っ込んできたのは、ナメクジ君の機体だ。ボンバーマンの自爆に巻き込まれたが、元々被弾もなかったのでギリギリ耐えていた。
「ッッ!!」
ブーストの連続使用。距離もあり、最大速度まで加速して――「死ねぇ!」膝蹴り。ロケットでスクラップ寸前にまで追い詰められていたサムライに、鋼鉄のヒザがぶっ刺さる。甲高い破砕音が戦場に響く。
トドメを刺さんとしていたサムライは哀れ、蹴り転がされて砂山の斜面を転がり落ちていった。
「お前なぁ……美味しいところだけ持っていきやがって」
「勝ったんだからいいじゃん」
しばし静寂。砂嵐が完全に晴れて、青空の下、砂漠の丘に立つのはチームネストの二人。
『勝利チーム・NEST。おめでとうございます!』
そして酒場は拍手と歓声に包まれた。イベントに参加できなかった者、参加したがあえなくリタイアした者、ウェイトレスのログボちゃんも含め、勝者を称え拍手を送らないものは一人として居なかった。
おそらく今年最後の更新です。小説は楽しく書いてますが、現実では昇進のノゾミガタタレターな状態でアレです。つまり優しくしてください。




