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第5話 変態、チームに加入す


 パソコンでブラウザを開いて、「BSO チーム」と打ち込んだ。先日チーム参加のお誘いを受けたはいいが、恥ずかしい話、ずっとソロプレイでやってきたものでチームというものがどういうものかさっぱりわからないのだ。他人と協力してプレイ、というのに興味もなかったし。

 ただ、せっかく受けた話だし。どういうものかを知るくらいはしてもいいだろう。トップに出てきた攻略ページにアクセス。チームの項目を開く。


『チームのメリット、デメリット。

 チームに加入するメリットは、一番はそのチームのメンバーとの談話が楽しめること。ゲーム内に、プレイヤー用個室とは別にチーム専用ハウスが与えられる。共同で任務に出撃する際、報酬金にボーナスがかかる。見知った仲間と共に出撃し、連携を取って敵と戦える。情報を共有できる。報酬・ペナルティの発生しない模擬戦を開催できる。

 デメリット、特になし。人間関係が煩わしければやめておくといい。

 チームリーダーには…………メンバーには…………気軽に入隊し、合わなければ気軽に離隊し、別のチームに入るなり、ソロプレイに戻るなりしてもいい』


 人間関係が煩わしい、というのは当てはまる。だからこそずっとソロでやってたわけだし……ただ、「合わないので抜けます」が許されるなら、参加してもいいか。書いてあるとおり、気軽に。


 そういうわけでログイン。ドブ川の底みたいな空と、そこへ向かって伸びる工場の煙が歓迎してくれる。


「メニュー表示。メッセージログを表示。選択、返信」


 先日もらったメッセージに返信。誘ってもらったことへのお礼と、その旨を受け入れるという内容で。

 さて、返事が来るまで愛機を軽く弄っておこう。

 ホログラフに映る、いつもと変わらない重装備の愛機。パイル、シールド、機関砲、ロケットランチャー。そこへ先日入手したパーツを追加してみる。

ブースターと、大型バッテリー。前から見える大きさのバッテリーと、ケツから伸びるでかい筒。びっくりするほど不細工になった。単体ならまだ見れたものだったろう。あるいは、元々装備していたあの大型機ならちょうどよかったかもしれない。しかしこうして自機に装備したものを見ると、バランスもくそもない。

 ただ、バランスというなら杭だって負けていない。固くて太くて長い、ついでに重い。一撃で相手を昇天せしめる杭。カッコイイかと問われれば、即答しかねる。ただロマンがある。 ロマンがあるというのは、それだけで素晴らしく、楽しいものだ。


-警告 重量過多 出撃不可-

そしてウェイトオーバー。内訳を見てみよう、どれが重量を圧迫してるのか。

シールド、バッテリー、ブースター。バッテリーは省エネ機なのでノーマルに戻して。それでもダメ、と。

 サイズからして予想はしていたが。このブースター、重量機を出力で無理矢理動かす用だな。あのデカブツをあのスピードで動かしてたものだし、そりゃ重くてでかいのも納得だ。

 それなら今度は何を下ろそうか。ロケランは使い捨てだが、強力な武装なので取っておきたいような。機関砲は安定した射撃武器だし。近接機で盾ナシというのも怖い。

 パイル? 俺のメインウェポンだ。下すわけには行かない。

 どれも外さないなら、フレームを変更しなければ。動きが鈍い、重装甲タイプに。近接機に使うには旋回速度が遅いので……というわけでまずランチャーを下ろした。

それでもダメ。じゃあ機関砲を下ろそう。それでもギリギリだめ。

シールドを外そう……いい感じに。

これで重量制限はクリア。ひとまずこれで機体セットを登録。あとは実際に遊んでみて、使いこなせないようなら元に戻そう。


 さて次は拾い物第二弾。レーザーキャノン。残念ながらこれをのせるとあとはライフルかブレードしか持てなくなる。パイルと一緒に使うのは無理なようだ。仕方ないね。売りに出すか、チームの人への手土産にするか。あるいは倉庫に塩漬けか。


-メッセージが届きました-

 タイミング的に、チームへのお誘い。確認。思った通りの内容だったので、参加ボタンを押す。

-チーム Nest に参加しました。ロビーへ移動しますか-

 移動を選択すると、愛機のホログラフが消えて、目の前に錆びた扉が現れた。

 この向こうに、ソロプレイでは見えなかった新たな世界が待っている。そう考えるとワクワク……しないなぁ。どうも人付き合いは苦手なもんで。

 ドアノブに手をかける。これを押し下げれば、新しい仲間が待っている……固く、重かったが。深呼吸を一つして、押し込んだ。



「おや。新人さんだね、いらっしゃい」

「Nestへようこそ! 歓迎しよう、盛大にな!」


 ガスマスクを外した男性アバターが二人。片方は灰色の髪と髭、渋い顔の老人。歴戦の兵士、あるいはベテランの老兵というような雰囲気。サービス開始から半年もたっていないから、そんなことはないんだが。

 もう一人はまだ若い。印象は普通、黒髪に眼鏡が似合う普通の青年だ。見た目に似合わずテンションが高い。あとさっきのセリフ、どっかで聞いたぞ。


「とりあえずフレ登録しよう、そうしよう!」

「早くないか?」

「いいんだよ。どうせ後でやるんだから、今やっても同じだ。メニュー、フレンド申請、送信。お、このID……」


 何やら意味深なつぶやき。そして送られてくるフレンド申請。断る理由もないので、承認。登録。プレイヤーカードを見る……

 重装甲フレームに、ガトリング……ゴツイ。敵の弾を正面から受けつつ、火力で押し切るタイプかな。というかこれは、昨日の……なるほど。チームで出撃してて、メンバーが足りないから誘ってくれたのか。


「昨日の人でしたか。いい戦いでした」

「そういうあんたも噂通り。すげー奴だったな! 動画撮ってあるんだけど見る?」

「あーそれは見たいな……です」


 相手がフランクなせいでうっかり距離感を誤りそうになった。危ない危ない。


「敬語はいらねえよ、仲間だろ」

「えー……」


 こっちは気を使ってるのに相手はガンガン詰めてくる。この人苦手っす、誰か助けて、そこのおじいさん黙ってないで助けて!


「私も頼む」


 フレンド依頼がまた届いた。逃げ道キタコレ。


「ノーマルフレームにグレネードライフル、ランチャー……」


 まではいいとして。爆砕メイス。メイスの頭がでっかいパイナップルになってるヤツ。パイル同様直撃で一撃必殺。しかし重量と扱いづらさゆえに愛用者は少ないロマン武器。爆発物大好きボンバーマン。落ち着いた雰囲気からは全く想像できない装備だ、人を見かけで判断してはいけない。

 それにしても。


「いい装備ですね。ロマンにあふれてる」

「ロマンは大事だよ。つまらないものは、それだけでよい武器ではありえない」


 ロマン主義とは話が分かるじゃないか、この人とは仲良くなれそうだ。重装甲に重火力のガトリングもカッコイイよなぁ。わかるよ、わかるけど。もう少し距離感を置いてくれたらなぁ。射撃武器なら射程の管理はお手の物だろう。


「その通り。扱いに難があるのもまたいいですよねぇ」

「殴って爆風でダメージを受けるのも愛嬌さ。パイルはそこもないからいいよな」

「メイス以上に射程が短いし、軌道も一直線だから慣れるまで大変だったよ」


 それはともかく。扱いづらいパーツを使いこなし、数いる量産型のような、決まりきった装備の連中を撃墜して回るのが最高に気持ちいい。そこに至るまでに自機のスクラップの山を2つか3つくらい作らないといけないが、苦行修行の果てに悟りへ至るように、熟練すれば最高のパートナーに至る。装備の価値に、自分の腕がようやく見合うレベルになるのだ。


「そう。その大変なのを使いこなしてこそロマン。そして、うちのメンバーは大体そのロマンにとりつかれたヤツばかりだ。仲良くやれると思う……彼も、悪気があるわけじゃない。ちょっと新しい仲間が増えてテンションが上がってるだけなんだ」


 見た目の通り、落ち着いた口調で。悪気がないのはわかってる、初対面のヒトと話すときは、緊張で口が減るか増えるかのどちらかに振れるのは仕方ないことだ。


「大丈夫、わかってます」

「一応、チームのメンバーだからな」

「えぇ、俺引かれてたの!? ……すみません」


 自分の失敗に気づいたらしく、凹んでしまった。部屋の隅にとぼとぼ歩いていって、体操座りで小さくなってしまった。そこまで反省しなくても。


「それより、そろそろリーダーが戻ってくるはず……おっと、噂をすればだ」


近くの扉から、チームリーダーさん(仮称)が入ってきた。マスクを付けていて、その顔はよく見えない。しかし、マスク越しにでも表情は少しだけわかる。俺を見た瞬間、驚きで目が見開いた。


「来てくれてありがとう!」

「こちらこそお誘いいただいてありがとうございます。誘ってもらわないと、縁のない世界でしたし」

「ところでここ二人とはフレンド登録は済ませてあるかい? 自己紹介は?」

「済んでます」

「それはよかった。あと一人メンバーがいるんだけど、そろそろログインしてくるはず。それまで話でもしていよう。スカベンジャーランクは? 遺跡はどこまで潜った? 聞きたいことがいくらでもあるんだ」

「待て待てリーダー。あんまりがっついてると引かれるぞ」

「ちょっと引いてます」


 実際はちょっとじゃなくてドン引きだけど。まあ、仕方ない。そういうこともある。


「ああ。もしかしてアイツはそれで……」


 部屋の隅で落ち込んでいる一人を見て察したようだ。こっちの態度から察してもらえないものかね……いや。他人に求めてばかりはよくないな。コミュ障克服のチャンスと考えて頑張ろう。


「気持ちは大変うれしいんですけどね。ソロ歴が長くて人付き合いに慣れてないんですよ」

「プレイスタイルからは考えられないな。もっと大胆で豪快な人かと思ってた」

「テンション低いときはこんなもんです……」


 オフでの俺は一人称が「私」になるし。繊細で小心者です。これはゲームの中だけの人格というか……こう言うとイキってるみたいでなんか嫌だから、遊びと生活を分けていると言おう。うん。


「そういうのもあるか。ごめんなぁ」

「ちはー! 新人いるー!?」

「……この声は」


 忘れもしない。この声は。


「クソザコナメクジ君!」 

「ンだとゴラア! どっかのケツ掘り野郎みたいなこと言いやがるのはどこのどいつだアァン!?」


 この口の悪さ、このID。間違いない。彼だ。

 彼がこっちを見た瞬間、その顔色が変わった。


「テメェそのID! 表出やがれ、今度こそ勝つからなお前! 負けたらこのチームから出ていけよ!」

「いいぞ! 今すぐやろう! そうしよう!!」

「え、ちょっとまっ」


 リーダーをミュート。今オレの心にはナメクジ君という癒やしが必要なんだ。

 勝てばスッキリストレス解消。負ければなめくじ君の成長を感じ、好敵手の誕生を祝福できるから一石二鳥。やらない理由がどこにある? いや、ないね!


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