戦闘 旧市街地
旧市街地
……半分ほどが砂に埋もれ、錆が浮き、大小の穴が数えきれないほど空いた巨大看板に「理想的な」……「住みやすい」……「計画的・継続可能な開発」とぶつ切りの文章が、かすれた明朝体で書かれている。もとは意味とつながりのある文章だったのだろうが、砂漠という過酷な環境に長年さらされて今は読み取れない。
塗料のおかげでかろうじて錆の浸食を免れた写真、あるいは都市の完成予想図には、碁盤のように家屋と通路が配置された整然として美しい街並みが描かれている。今は大半が砂に埋もれて見る影もない。
……というゲーム内設定なので、もともと繁栄など存在しない。そういったノスタルジーのようなものを感じてほしい運営の心意気だ。それはそうとして、このフィールドでは四つのチームが迷路じみた都市内部で控えめな銃撃戦をしている。戦闘が始まるまでは砂に埋もれた廃墟だけだったが、今は風通しの良くなった廃墟が少しずつ増えている。だが、風通しの良くなった機体は少ない。
最初に脱落したチームは、開始から三十分が経過してようやく。
「Ураааааааа!!!!」
「Ураааааааа!!!!」
「Ураааааааа!!!!」
岩山地帯からはるばる移動してきた戦車部隊。建物を盾にしてちまちま撃ち合いをしていたら横から建物を強靭にして重厚な車体でもってぶち破り、瓦礫を履帯で踏み越えてダイナミックエントリーしてきた戦車部隊によって。
呆気にとられ、数秒ほど動きを止めたチームに向けられたのは、ガトリング砲4門とグレネードマシンガンが2門。
赤熱して回転する砲身、酔いつぶれたサラリーマンの嘔吐のごとき勢いで地面に落ちる空薬莢、数えるのも馬鹿らしい量の弾丸。左右交互に撃ちだされ途切れることのない連続爆発。これが暴力だ、これが戦争だ。フルメンバーから数が減ったとはいえ、並のチームでは太刀打ちできない圧倒的火力はいまだ健在。重量機2機、中型機3機で構成されたバランス型チームは、タンクの全力攻撃を側面から受けて一瞬で蒸発してしまった。抵抗? する暇もない。
ちまちまと建物に隠れて撃ち合っていたところにこの強襲。30分間の撃ち合いで一向に試合が動かなかったところを、一瞬でカタをつけた。タンク部隊が突入してくるまでと、参加してからの展開を例えるなら、不良学生の喧嘩に完全武装のやくざがリムジンに乗って殴り込んできたというところか。それとも歩兵同士の戦いにいきなり戦車が殴り込んできた。これが本物の戦い、これが本物の戦争だとイワンばかりの温度差。周りの参加チームは衝撃と恐怖に襲われた。
一部隊平らげただけでは全く物足りない。次なる獲物を求めてタンクは再び動きだす。
それを遠めに眺めるチームが一つ。フィールドに合わせた砂色の迷彩模様に、初心者マークのエンブレム。チーム名、ROOKIES。彼らは一発の弾丸も撃たず、ただジッと市街地内での戦闘を観戦し、戦力を温存していた。彼らの目指すものは勝利という結果のみであり、過程である戦いを楽しむことは眼中にない。だからこそ、敵同士で争わせて、生き残り消耗し疲労しきった敵を袋叩きにして楽に勝つ……そんなつまらないが合理的極まりない作戦を実行できる。
勝つことのみが彼らの楽しみであり、それ以外に価値はない。おかげで彼らをモニターする画面に観客は一人もついていない。なんなら卑怯者という罵声すらついてくる。しかしいくらモニターの前で叫ぼうと、その声はアクターには届かない。
「勝てばいいんだよ」
「そのとーり」
しかし心は届いたのか、返事をするように彼らのリーダーが口走る。卑怯だろうがなんだろうが不正でないのだから何の問題もないのだ。工場地帯とは違って戦闘も起きているので視聴者の参加もない。参加者たる彼らに知る由はないが、もしもこれで戦闘が起きていなければ運営の悪意と視聴者の殺意が籠った精鋭部隊が送り込まれていただろう。運がよかったな。ケッ(運営より
視点を戻して市街地内。こちらは阿鼻叫喚の地獄絵図となっている。タンクのグレネードマシンガンとガトリングの威圧で補給拠点を難なく制圧し、補給しながら無作為に弾をばらまく。銃声が聞こえたらそっちの方角へひたすらばらまく。グレネード弾が建物を飴細工のように粉砕し、ガトリングが何枚もある壁を障子紙のように貫く。何度でも補給できる設定なので、撃破されない限り無限に撃てる。そして廃墟だらけの旧市街地は急速に幾多の瓦礫と化し、サーバーの負荷を増大させ、処理落ちが始まる。
慌てた運営が瓦礫の処理を停止、その結果設定された耐久値を上回るダメージを受けた廃墟は一瞬で消滅するようになり……おまけにタンクの圧倒的火力が絶え間なく発揮されるせいで、市街地に身を隠すチームは遮蔽物が次々に消えていく恐怖を味わうこととなる。それでも逃げ惑った結果生まれるのは更地であり、撃ち合いには最高のフィールド……もとい処刑場。まず1チームが砲弾の嵐に炙り出されて、姿を見せたとたんにすり潰された。反撃する暇などなかった。哀れ。
もう1チームはまた違った対応を見せた。次々と消える遮蔽物を見て、逃げるのではなく逆にどんと腰を据えて、銃声の鳴り響くほうへ銃口を向けて、目の前の壁が消えた瞬間に最大火力をぶつけるという賭けに出た。一機は狙撃型の武装で市街地では持て余していたからと。果たしてそれはうまくいったのか。
……半分成功と言っていい。目の前の壁が消え、その瞬間に全武装を開放、ロケットを一斉に全弾発射、機関砲もライフルも撃ちまくり、敵の姿を見た狙撃機は素早く狙いを修正して大砲をぶっ放した。
目には目を、暴力には暴力を。スナイパーの狙いすました一発は見事タンクの正面装甲に命中して、無慈悲に弾かれた。もう少し上、車体にタレットじみて載せてあるアースの部分に命中していれば撃破もできただろう。
ロケットはどうか。4割がガトリングの弾幕で叩き落されて、3割が明後日の方向へ飛んでいき、1割強至近弾、残るほんの少しだけが直撃した。爆発、爆発。しかし損傷軽微! チートか、否、爆発反応装甲である。HEAT弾のメタルジェットは爆風によって阻害され効果を発揮せず、テルミットは爆風で吹き飛ばされた。無残。
機関砲は? これでようやく有効打が。一秒間に何十発と打ち出された20mm機関砲弾、その内の一発が運よくグレネードマシンガンの銃口へ飛び込んだ。砲身内に異物が入り込み、しかしトリガーをひかれているからには装填されている炸裂弾は発射される。結果何が起こるか。
「グワーーー!」
砲身内爆発! 衝撃と熱により弾薬満載の弾倉に誘爆! 肩に装備したロケット弾に引火、誘爆!! 反対側のグレネードマシンガンに、ロケット弾にも誘爆!! 爆発物満載のタンクはまさに動く火薬庫であり、そこに花火を投げ込めばどうなるか。答えは、あたり一帯を巻き込んだ大爆発である。爆発の中心にあったタンクは頑丈な車体部分を残して爆発四散! 隣でガトリングをぶっ放していたトリガーハッピーは爆風に耐え切れずに車体だけ残して上半身がもげて飛んで行った! その隣にいたトリガーハッピー二号はお隣さんが盾になり、片腕がもげて損傷重大だがなんとか戦闘続行可能!
「やってくれたな小物が!」
ガトリング乱射! 乱射!! しかし当然火力は落ちる。六つあった砲口が一つになれば、火力は六分の一しかない。小学生の算数だ。火力の暴力を失ったなら、数の暴力で押し切られるのが道理。五機フルメンバーのチームから集中砲火を受けながら、それでも一機を道ずれにして、チーム・ぱんつぁーふぉーは全滅した。
序盤の勢いのまま、火力の暴力を活かし勝ち残るかと思われたチームが、まさか注目もされていなかったチームにやられるという番狂わせに観客も沸く。
戦場が静まったのもつかの間。勝利の味をかみしめる彼らに、冷や水をぶっかけるがごとく。二機が撃破された。わずかに遅れて銃声が二度。
「え? えっ?」
死肉に首を突っ込み、頭を輝かせるハゲタカのように。初心者マークが太陽の光を浴びて輝いた。勝ったと思ったら負けていた、中の人は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、飛び込んでくる砲弾を眺めて撃破された。
旧市街地、残りチーム・ROOKIES
戦闘開始からもうすぐ1時間。多くのチームが戦い、弾丸が飛び交い、退場していった。
残りチーム・戦力
SAMURAI’s /3機
ROOKIES/5機
NEST/5機
EDF/4機
アナウンス・旧市街地を閉鎖します。残りエリア、中心、砂漠地帯。
残り1エリアです




