第43話 戦闘・工場地帯
「静かすぎる」
ゲーム開始からすでに五分。ほかのエリアでは既に戦闘が起きていて、銃声が遠くこの工場地帯まで響いてきている。しかし不思議なことに。本当に不思議なことに、このエリアでだけは、未だに一発の銃声も鳴っていない。
工場地帯はほかのエリアよりも入り組んでいて、あちこちにパイプが走り、標識が倒れていたり、建造物が密集して立ち並んで物陰も多く敵を発見しづらいとはいえ。五分も経てば接敵したチームの一つ二つあるだろう。一度も戦闘が起きていないとは考え難い。
『このエリアには俺たちだけってことは』
「それはない」
参加チーム数は20。すべてのエリアに平等に振り分けられている。必ず他に敵対チームが存在しているはずだが。しかしどうしたことか、チームを2つに分けて捜索をしているというのに、敵の姿どころか銃声すら聞こえない異常事態。警戒を強める。
「おい、あそこ!」
「敵……?」
僚機が姿勢を低くして柱の陰に隠れたので、自分も同じくしゃがみ姿勢を取り。相方が共有してきた映像を見ると。
「スクラップか。周囲に敵は」
動かなくなった敵機が5つ。拡大して見れば、全員が一太刀で仕留められていることがわかっただろうが、今回彼らはそうはしなかった。敵の死体があるということは、近くに敵が居る可能性がある。索敵を重視したのだ。死因など、銃声が聞こえなかったことから一つしかないのだし。切り殺されたことはわかる。
「目視確認できず。熱源もなし」
「ということは実体剣だな。敵は手練れの近接機だ。用心しろ」
通信で味方に警戒するよう連絡をするリーダー機と思しき機体。
重量はレーザーブレードよりも重く、一々持ち替えなければならない実体ブレードだが、利点もある。省エネと隠密性。レーザーブレードはその特性上、どうしても大量のエネルギーを消費し、熱を発するおかげで、使用後しばらくはサーマルビジョンにランタンめいて輝いて見えるが、実体ブレードはほとんどエネルギーを消費せず、発熱もないため熱源探知に引っかからない。お守りというより、暗殺向き・玄人向きの、攻撃的な武器だ。
彼はそれを理解している。だが、発見が遅かった。
「おい、どうした? 返事がないぞ?」
「だめだ、三機ともロストしてる!」
「そんな馬鹿な、一発も銃声が鳴ってないんだぞ! 三人無抵抗でやられたってのか!?」
加えて言えば、どちらも直撃すれば一撃で撃墜されるレベルの破壊力がある。間合いに入られれば射撃機が敵う道理はない。まして接近に気付かなければ。
「とにかくここはまずい。開けた場所に!」
「っ、そうだな。急ごう!」
一発も弾を撃つことなく。一発も敵に弾を当てることなく敗退という屈辱的な展開は何としても避けたい。負けるにしてもせめて一矢報いてからだ、という思いを胸に、死角だらけの工場地帯から急いで抜け出そうと試みる。
だが敵の動きも早かった。工場出口につながる大きな道をローラーダッシュで急ぐが、その出口には既に一機待ち構えていた。
その機体は、軽量二脚フレームにブースターをつけた定番の近接機特化型機体。違いといえば、両手に持った日本刀じみた細身のブレード。
だが、近接機の間合いには明らかに遠い。ブーストを使ったとしても遠い。二対一なら刃が届く頃にはハチの巣だ。
「わざわざやられに出てきたか! 撃て!」
「おうとも!」
ロケットランチャー、ライフル、機関砲。持てる火力のすべてを一機に向けて叩き込まんと構え、発射した。ロケットの弾頭が噴煙を吐いて、大量の20㎜徹甲弾が装甲を食い破ろうと音速を超えて飛翔。直撃狙いだけでなく、動きを封じる網のようにある程度ばらまいている。
このままいけば近接機はスクラップ確定。そうでなくともこの距離では圧倒的不利。だがその近接機は、ブースターを使って空を跳んだ。対アリ戦でアヌスレイヤーが見せたテクニックであり、近接機の新たな戦術機動だ。
「小細工を!」
しかし銃口をトレース。機関砲弾の射線が近接機を捉えようと追いすがり……
「あん!?」
近接機は近くに生えていた柱を蹴って急激な軌道変更、射線から逃れ、再度のブースト使用。鋭角に動きを変化させ、向かう先は彼らの真正面。射撃機らは接近戦に備え手持ちの火器を投げ捨ててブレードに持ち変える。素早い判断だ。
着地、と同時に重力落下の勢いを乗せた、上段からの振り下ろし。射撃機はこれを下からの打ち上げで防ごうとする。刀身がぶつかり合い、一瞬の拮抗。直後に半ばから断ち切られたのは射撃機の分厚く、大きい方の剣。そのまま無防備となった機体を縦三つに切り分け、もう一機が繰り出した、味方ごと貫くような迷いのない鋭い刺突を完璧に見切り、絶妙な操作で紙一重で回避。装甲の表面に浅い傷を刻まれる。同時に一刀で腕を切り落として攻撃の手段を奪い、もう一刀を振りぬいて胴を二つに切り分けた。なんと鮮やかなワザマエ。
「なかなかの相手であった。が、あれほどではなかったか」
血液じみたオイルを振り払い、腰のウェポンラックに納刀する。振り払う必要はないのだが様式美というやつだ。彼こそは近接格闘武器限定チーム、SAMURAI’sのリーダーであり、一番の使い手。ちなみにこのチームにパイル使いはいない。隠密を重視するチームなので。
持っているのは近接武器のロマン武器の一つにして、(扱いきれれば)ロマンも合わさって最強武器の一角とも言われる。銘をMURAKUMO。
レーザーブレード並みに切れ味鋭く、肉を削ったその薄さ、軽さからくる振りの速さは通常品とは比べ物にならない。
買うとクッソ高い上に受けに回るとすぐ折れるので、これを使うならレーザーブレードでいいやと言う人ばかりの、パイルよりはマシだが使う人の少ない不遇な武器だ。
それを二刀流で扱うとは、よほどの変人に違いない。




