戦闘・オアシス地帯
エリア・オアシス
開始から20分が経過するが、いまだに一つの脱落チームも出ていない珍しいエリアに注目が集まっている。
戦闘自体は発生している。池の両岸と、市街地にある補給拠点の二つの場所で銃声が絶えず鳴っている。だがそこまでの激しさはない。
激しい戦いにならない理由がそれぞれ存在する。池に展開するチームは2つ。西と東。西側は橋の見張り小屋が二つある以外に何もなく、東側には街がある。池の幅は広く、回り込むには遮蔽物がない。飛び越えることも泳いで渡ることもできないため、対岸に渡るには池を二つに割るように通された橋を通らねばならない。だが、突破しようとすれば無防備なところへ集中砲火を受けて撃墜される。
西側チームが対岸に渡るには橋を抑えているチームを排除せねばならない。しかし撃ち合うには微妙に距離が遠く、狙いをつけるために頭を出せば狙撃機に狩られるし、狙いをつけずに撃っても当たらない。
東側チームは早く対岸を抑えているチームを排除したい。このまま続ければいつ背中から敵が撃ってくるかわからず、池に背を向けて市街地に入れば後ろから橋を渡ってきたチームに襲われる。どちらにせよ最悪サンドイッチの具にされて潰されるのは間違いない。曲射攻撃が可能な武器を持っていないので小屋ごと撃つしかないが、小屋が思いのほか頑丈で弾が貫通しない。両チームとも弾を無駄にするばかりの不毛な撃ち合いが続く。
その点補給拠点周辺での戦いはもう少し進歩がある。補給拠点を攻める側と守る側。こちらは守る側が断然有利で、攻撃側は火力、装甲、技量いずれも半端な構成だったためちょっかいを出しては迎撃されてを繰り返し、全員ボロボロ。一方守備側はほとんど損害がなく、弾も補給して万全な状況で居続ける。
……展開が遅い。おかげで見ている側からすれば、試合そのものより、どこが勝つかでの賭けで盛り上がっている。掛け金はゲーム内通貨。RMTはアカウント停止処分の対象となりますので厳禁です。現金取引だけに。
ここで動きに変化が起きた。拠点を攻めていたチームが、いい加減無理と察したのか目標を変更し、橋を守っているチームを襲撃するために移動を開始。25分の時点で接敵。ロケット弾による先制攻撃をかける。
「敵襲! 反撃しろ!」
しかし消耗していたため中途半端な攻撃に終わり、結局一機も撃墜することなく反撃を受けて、市街地に撤退。慌ててのことか、策があってのことか。撤退のスピードだけは見事なものだった。
「市街地で戦ってたチームだな。追撃するぞ! タンクはギリギリまで橋を守れ! 他は俺についてこい! 放っておけばまた尻を噛まれるぞ!」
「オイオイ、一人じゃあんまり時間は稼げないぜ?」
「1分でいい。持たせろ」
「……気張ってみるよ」
一機を残して反転、四人が一丸となって市街地へと入っていく。ライフル、シールド、ブレード、連装ロケットランチャー2つを積んだ定番の中量機たち。CQBめいて互いをカバーし合い、一つずつ角を警戒しながら前進を続けるが、そこに敵影はない。襲撃をかけたチームは待ち伏せはせずに逃げている。
そして残されたタンクは。
「こりゃもう無理だな! 下がっていいか!」
いくら火力と装甲が自慢のタンクでも、五人フルメンバーの相手をするのは無謀というもの。ガトリングを断続的に撃って頭を抑えようとするが、五人分の火力に集中攻撃を受ければ下がらざるを得ない。もうすぐ装填している分の弾が切れるし、予備弾に切り替える隙に突破されるだろう。
小屋の影から出てきて、じりじりと距離を押し上げてきて、橋の手前まで来ている。橋まで到達すれば一気に進んでくる、そうなればリンチだ。
「メインストリートの突き当りに補給拠点を見つけた。次はそこに突っ込め」
「ラジャー。ありったけばらまいてとんずらするぜ」
多少の被弾も構わず、ロケット弾を橋の向こう側に向けて全弾発射。ガトリングも装填している分は全部吐き出して、本格的に後退を始める。
ゲームが盛り上がれば、視聴者たちも盛り上がる。酒場では歓声と共にビールがこぼれ、ログボちゃんの尻を撫でるセクハラユーザーが脳天をぶちぬかれて退場し、賭けの参加者が増えてオッズが跳ね上がっての大賑わい。
そんなわけで、観客の視点は彼らの向かう先、補給拠点に集まった。何も知らずに補給拠点に居座っているチームは、懲りずにまたやってきたか、と控えめに反撃を始めるが。別方向から猛スピードで突撃してくるタンクには気づいていなかった。
タンクのような重量機は装甲が厚く、積載量が大きい代償として鈍重な傾向にある。実際小回りは効かないので、狭いところや高速戦闘は苦手。だが、タンクは直線に限っては、加速に時間はかかるが足が速い。ブースターを使わない場合、直線での最高速度は時速80キロまで至り、軽量機にすら追いつく。
「エントリィィィィィ!」
履帯で地面を削りながら最高速度で突撃。金属製のフェンスを超重量の車体で粉砕、勢いを全く落とさずに拠点内に侵入。音に気付いてようやく反撃の態勢を取ろうとした敵を一機跳ね飛ばして撃破。片方の履帯の回転を止めてドリフトターン、ケツを振って近くにいたもう一機を吹っ飛ばして、倒れたところに予備弾を装填したガトリングでマッハでハチの巣にしてトドメを刺したら、タイミングを合わせて味方部隊が一気に突入。残敵をブレードで切り殺して掃討し、拠点を制圧した。
素晴らしいチームワーク、度胸ある電撃戦に観客の大歓声が湧き起こる。現場にいるチームには届かないが。
「よし! 全員弾を補給してすぐに出るぞ!」
「ここにこもって迎え撃つんじゃないんですか?」
「籠城戦は好きじゃないんだ。どうしてもってなら別にいいが」
「確認だけでーす」
ちなみに橋を渡ってきたチームはEDF。中量機5機編成、一人だけが偵察を兼ねたスナイパーで、残りは全員Wライフルと機関砲で、ペイントも統一された装備。先に拠点を襲っていたチームと遭遇して戦闘が発生、損傷していた連中を苦も無く殲滅し、拠点に向けて進行していた。抑え込まれて暴れられなかった鬱憤を晴らすために。
「補給終わりました!」
「よし、出るぞ!」
……威勢よく拠点から飛び出し、オアシス地帯の勝者を決定しようと二つのチームがぶつかろうと動き出したその時。南、岩山地帯の方向で巨大な爆発が起きた。戦闘開始から、およそ40分が経ったときのことだった。
深紅の火球が弾け、黒々としたきのこ雲が急速に成長して空へと伸びていく。衝撃波が空に浮かぶ雲を円状に吹き飛ばし、少し遅れて爆音がやってくる……見とれていると、巻き上げられた砂と煙が太陽を覆い、地上にも降り注ぐ。
視界が少し悪化。これ以上悪くなる前に動かねば。と、ゲートから出たその時。
「!?」
胴体に風穴が空いて、一機撃破され。銃声が1秒遅れてやってきた。
「んなっ、なんだ!?」
「新手だ、散れ! のんびりしすぎたクソがっ!!」
エリアが封鎖されたということは、そこで戦っていたチームは隣接するエリアに移動したということ……岩山と隣接するのは、このオアシスと、旧市街地。
彼らが知る由はないが、このエリアにやってきたのはチームNEST。砲弾を発射したのはそのリーダー。一撃必殺の砲弾を見事に目標のど真ん中にぶち当てた。
「お見事。相変わらず射撃だけはうまいな」
「なに、この程度大したこたないさ」
何でもない、と言っているが決して容易な技ではない。着弾地点は1㎞先、狙いがコンマ1度でもズレたら至近どころかカスリもしないところを、砂塵が降り、激しい風が吹く中で直撃させたのだ。いくら重量があり、風に流されにくい弾丸とはいえ、だ。狙撃の難易度は極めて高い。
「よし。場所を変えてもう一回やるぞ。全員ぶっ殺すか追い払ったら補給だ」
「ところでリーダー。ほっときゃ勝手に潰しあいしてくれてたのになんでわざわざ手ぇ出した? 数が減って消耗しきったところを狙ったほうがよかったんじゃないか?」
「撃てる位置に的があるなら、撃たないわけにはいかんだろ」
「……そういうもんか?」
「そういうもんだ。それに、その方が楽しいからな。楽しいが一番大事だ」
オアシス地帯
脱落チーム数2
残存チーム数2
乱入チーム数1




