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第4話 特殊兵器撃破

 敵機がロケット弾の射程圏内に入る。遠くに見える敵影は、俺たちの乗っている機体とはかけ離れた姿だった。先鋭的とでも言おうか。戦闘機を無理矢理人型に押し込めたらこうなるんだろう、的デザイン。

 何はともあれ、まずは観察。いつもの定番。弧を描き、回り込むような軌道を取る。膝から下が砂に埋まっているが、その全高はこちらの倍以上。手に持つ武器も同様に。バックパックには巨大なブースターが生えており、いかにも高い機動力を持っていそうな感じがする。

 久しくなかった、強敵の雰囲気に背筋がゾワゾワする。鳥肌が立って、口角が持ち上がる。


「レディー!」

『ケー!』


 合図すると、四人が同時に各々の武器を発射する。ロケットと大量の砲弾が光を曳いて、未だ動きを見せない敵機へ殺到する。それらが着弾する寸前、爆発的な砂煙を上げて、敵が起きた。

 スリープモードから、バトルモードに。


『やったか!』

『フラグ立てんなバカ!』


 やはりこの程度で終わるわけがなく。曳光弾とはまた違う色の光が瞬き、フラグを建てた味方機……ではなく、こちらに襲い掛かってきた。魚の尾ひれのようにブーストが輝き、離れていた敵機が、目の前に。白くなった瞬間、反射的に回避したから事なきを得たが。砂煙が収まった頃には、砂塵を巻き上げながらホバリングする敵機がそこに居た。敵機の右手からは白い閃光が伸びていて……消えた。レーザーブレードだ。

 それなりの距離を一瞬で詰める、噂通りの機動力。当たれば一発で撃破されるであろうレーザーブレード。あんなのに狙われたらとてもじゃないが逃げ切れない。そして接近されて、一手打ち間違えればそこで終わる。だからこそ、そこに生まれるであろう駆け引きを想像すると……とてもとても、興奮する!


『いいじゃん! 盛り上がってきたねえ!』

「全くそのとおり!」


 敵に向かって突撃し、その間に全身を舐め回すように観察する。機体の塗装も剥げていて、所々には錆が浮かんでいる。それでも雄々しく立ちはだかり、骨とう品だがまだまだやれると主張している。ところでガトリングとスナイパーの二つが健在なのにその場で滞空しているのは、愚かではなかろうか。

 スナイパーキャノンの砲弾が光の線を曳いて敵機に命中、したかに見えた。しかし敵はまたも目の前にいた。超高速の移動、そして光刃がすぐそこにある。このままでは真っ二つだ、それはよろしくない。

 回避? 間に合わない。防御? 間に合わない。味方によるフォロー、期待できない。となると反撃? 間に合わ……せる。


「よいしょぉ!」


 振りぬかれる前に、パイルバンカーを敵機の腕に合わせる。トリガーを引く。杭が電流を纏い、装薬が炸裂し、暴力が放たれる。



『左腕大破』


 ボゴン、と轟音。盾が一発で割られ、それを持つ腕も焼き切られた。そしていよいよ刃がコアに達する。その直前に、敵機の腕、肘から先が吹き飛んだ。これで火力は半減、そしてこっちは盾が割られただけで、火力の低下はなし。肉を切らせて骨を断つとはこのことだ。

もしこれがリアルなら、痛みでショック死か失神してただろうけど! VRゲームだから関係ない!


-HIT-


「ハハ! ざまあみろ!」


 間一髪間に合ったので、ゼロ距離から機関砲を連打して強引にダメージを与える。20mmは弾かれるって話だが、至近距離から連打されりゃ多少は応えるだろう。抵抗している間に味方の援護が入る。30mm砲が嵐の如く、40mm砲は槍の一突きのように。グレネードが炎幕を作り出し、敵機を引きはがす。

 ほんのわずかな間で、敵機の装甲がボロボロと剥がれて。被弾の衝撃で、機体は地上に引きずり落された。

 その間にパイルバンカーの再発射の用意が済む。引きはがした、と言ってもまだ至近と言える近さだ。一刀一足、一歩踏み込み腕を伸ばせば届く。

 だから、追撃。このまま三人に任せて終わるようなら、特殊任務というにはあっけない。一歩踏み込んで、敵機の胸部に腕を突き出す。

 相手の正面装甲が開き、中から砲口のようなものが覗く。その中心に光が灯る。


「隠し玉! あると思ってたぞ!!」


 地面を踏みつけ、片足を軸に回転。強烈な光が装甲の表面を焼いたのを見送る。『コア損傷』射線上にあったオブジェクトを蒸発させた。一周回って、開いた敵装甲の内側。その砲口へ極太の杭をぶち込んだ。

 火薬の力で射出された杭が物理的な破壊を、帯電した杭が芯を捉えたことにより、機体の回路に致命的な破壊を与える。今度こそ殺った、そう確信を得た一撃だった。

 深く食い込んだ杭を引っこ抜くと、次の瞬間には敵機が崩れ落ちる。しかし、 -ENEMY DESTRYED-の文字は出てこない。

 もしや、と思い一旦身を引くと、またしてもコアの表面が焼かれた。なんかすーすーする。

 


『警告:コア大破・パイロット露出・危険』


 言われてみて自機を見下ろしたら、なんとコアの装甲が剥がれて自分のセクシーなボディが露出しているではないか。あと一発でも掠ったらおしまいだなこれ。だが当たらなければどうということはない。


「……第二ラウンドスタートか。ちょうど遊び足りないと思ってたところだ!」

『無茶すんなよ。片腕吹っ飛んでんだから』

『楽ばかりさせてもらっちゃ悪い。そろそろオフェンス交代といこう』


 ガトリングの弾幕がもう一度放たれて、巨大なパイナップルのような頭を持つメイスが敵機に振り下ろされるも、敵は回避、外れたメイスが地面に触れると、目の前で爆発が起きた。これ幸いと距離を取らず、メイス使いを押しのけて、あえて突っ込む。他に武器はないんだからそうする他ない。


『無茶すんなって言ったばかりだろぉ!?』

「止めるな! 今宵の菊一文字は血に飢えている!」

『バーサーカーかよ!』

『俺のパイナップルも敵の血を啜りたいってよ!』

『つまり?』

『俺にもやらせろ!』


 舞い上がった砂煙の向こう、太陽を背に、逆光でシルエットだけが見える敵機に襲い掛かる。相手も黙っていない、腕が持ち上がり、レーザーが現れる。砂嵐の中にありながら、灯台のように強烈な光が我ここにありと叫ぶ。他の武装に回す分のエネルギーをつぎ込んでいるのか、そのリーチは最初に見たときの倍以上はありそう。

 しかしそれがなんだというのか。こっちが死ぬ前に相手を殺せばいい。俺にはそれができる。


 シルエットが動く。こちらに向かって飛翔する。しかしその速度は、最初に見たときよりも明らかに遅い(それでも俺たちの機体よりはずっと早いが)一呼吸の余裕をもって対応できる速さにまで落ちていた。

 そして振るわれる光の刃。コアの高さに合わせて、横に薙ぐように振るわれたそれ。通常なら避けられない。


 だが避ける。その一瞬に、視線でとある操作を行う。

-アピールモーション 転倒-


 機体が地面に転がる。その直上を、猛烈な熱量が通り過ぎる。

 原作で猟犬の狙撃を、機体の不具合によって発生した転倒で回避した主人公の再現。こちらは偶然でなく、故意に起こしたものだが。

 回避した後は、すぐに起き上がる。必殺の一撃を通常推奨されない小技で回避した後は、そう。反撃の時間だ。上を通り過ぎた敵を振り返り、彼を仕留めるべくその背中に食らいつく。


『トドメはもらうぜ!』

「やらん!」


 今の攻撃が最後のあがきだったか、ぐっと速度が落ちた敵に、追いかけてきたメイサーとほぼ同時に、前後から挟み込むように攻撃を仕掛けた。

 メイスの爆発の中に、パイルの雷光が閃いた。


 -ENEMY DESTRYED-


「やったー」


 と喜んで気を抜いていたら、最後に敵機がひときわ強く輝いて。


-YOU CLASHED-


 被撃墜のお知らせがポップアップする。なんてこったい。


-称号 特殊兵器撃破-

-称号 死なばもろとも-


「……最後っ屁に自爆かよ。ひでぇな」


 一応トロフィーはもらえたのでいいとして。撃破した当人になんの報酬もないのはどうかと。アレか? 撃破報酬は修理費で帳消し? それとも自爆で吹っ飛んだから何も回収できなくて、ご褒美なしってパターン? それってひどくね?


-拡張パーツ ブースター を入手-

-拡張パーツ 大容量バッテリー を入手-

-武器パーツ レーザーキャノン を入手-


 と思っていたら、公式HPに載っていた新パーツが手に入った。どっきりかよ。ところでブースターと大容量バッテリーはともかくレーザーキャノンてなにその物騒な代物。とりあえず説明を見てみよう。


ブースター

エネルギーを消費して爆発的な加速を得る。緊急回避、敵への急接近などに。


大容量バッテリー

通常型の倍のエネルギーを貯蔵できる。重量、サイズともに通常型よりも大きいため、機体負荷は高い。


レーザーキャノン

大量のエネルギーを使用して、高出力のレーザーを照射する。


どれも使ってみないことには効果がわからない。特に最後のレーザーキャノン。大量のエネルギーに高出力とはいうが、実際どれほどなのか。具体的な数字で示してくれないと……ナメクジ君が捕まらなかったら、クロード先生で試し撃ちコースだな。


-メッセージを受信しました。開封しますか-

「開封」


以前受け取ったメッセージはスパムメールだったが、今回は共闘のお礼だろう、多分。


『今日はあまりお役に立てず申し訳ありません。次があれば、そのときこそ実力を発揮できるようがんばります。あとよければフレンド登録をお願いします』

『ナイスファイト!』

『今回で三度目のチャレンジだったが、あなたのおかげでクリアできた。ありがとう。それと、もしよければうちのチームに入らないか。もし入ってくれるなら歓迎するよ。興味があればメッセージをくれ』


 うん。メッセージ機能とは本来こうあるべきだ。決してスパムメールを送るためのものじゃない。あのナメクジ君に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいね。

 さて、じゃあログアウトしよう。


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