第二話 ナメクジ君リターンズ
おはようございます、こんにちは、こんばんは、皆さん。寒いところ、暑いところとあるでしょうが、私は今戦場に居ます。今日の天気はどぶ川の底みたいな空模様。土煙と硝煙のが舞い上がり、時折銃弾の雨が降ってくる市街地のど真ん中です。
「Yeeeeeeeeee! Haaaaaaaa!」
右手の杭を振りかぶり、叩きつけて、発射。戦場で油断したお馬鹿さんの背中に風穴を開ける。次いで、隣にいた隙だらけのもう一人に機関砲をぶち込もうとしたところで。
『その武器、その声は、またお前かアヌスレイヤー!』
「その声、そのIDは……」
叩きつけるのはちょっと待った。通信を模したボイスチャットで届いた声は聞き覚えがあり、IDは見覚えのあるものだった。うん、この前決闘してファンメールをくれたクソザコナメクジ君だ。ブロックされててもマッチングすんのね。知らなかった。
「久しぶりじゃないですかクソザコナメクジパイセン。チュートリアルはちゃんと終わらせてきましたか? ところでアヌスレイヤーってなに」
『今度はぶっ殺す』
「言葉は選べよクソザコナメクジ。惨敗した挙句通報されて垢BANされるなんて惨めな思いしたくないだろ?」
『今日負けるのはお前の方だ! 俺も前とは違うからな』
-決闘の申し込みがあります-
-承諾-<
-拒否-
もちろん受けるとも。誰だってやられっぱなしは悔しいし、雪辱を晴らす機会は与えてあげようじゃないか。正々堂々、受けて立って、正面から叩き潰すのはとても気持ちがいい。
二人を中心に半径百メートルほどの範囲に空から壁が降ってきて、外部と隔離される。野外の決闘用フィールド。二人だけの密室。ちなみに不意打ちはできない。互いの用意ができるまで火器がロックされるのだ。
相手の武器はブレードとシールド。のみ。積載量には余裕があるはずなのに、わざわざロケランを外してきてるってことは。隠し玉があるな。
相手の機体の上にある文字がReadyからOKに変わった。こっちはどうしようかね。相手がブレオンしたいみたいだし、乗ってやろうか。
Assemble, Weapon select, Shoulder unit ,Unequip.
肩に乗せていた機関砲をパージ。こちらもシールドと射突式ブレードのみの軽装備にする。相性で言えば、あまり良くない。連射ができず、取り回しも悪い射突式ブレードと、軽量で振り回しやすい高周波ブレード。どちらも有効打一発で命中部位を破壊する威力を持っている。火力が同じなら、大体扱いやすいほうが強い。
それを腕でカバーするのがロマンってやつだ。
『手加減のつもりか? 負けても言い訳ができるように』
「そう思いたいなら思えばいい。負けても言い訳ができないぞ」
『言ったはずだ。今度は勝つ!』
「言うは易しって言葉ご存知?」
煽り合いも程々にして。画面に数字が表示される。5,4,3,2,1、0
互いに得物を向けあって、お互いに前に、全速で突っ込む。瞬きの間に距離がつまり、3つ数える間には目と鼻の先。この瞬間が、互いの心の嵐の最大風速をぶつかり合うこの瞬間が一番好き。さあ、今日はどう楽しませてくれる。
相手がブレードを振る。タイミングが早い、間合いが遠い。こちらのシールドに先端が擦れて終わった。早まったか? いや違う。わざと外したな。
チャンス、とは思わない。この手はチュートリアルで散々やられた。だから、対応策も研究済みだ。相手の左腕、盾の向こうで何か光を放つものがある。予想通り、シールドの裏にレーザーブレードを仕込んでいたようだ。
ローラーを逆回転、間合いを外す。光の刃が目の前を通り過ぎ、盾を二つに割るが、本体には傷一つない。
『なにっ!』
「残念。その手はよそで見た」
驚きの声を聞いて、まだまだ修行が足りないな、とほくそ笑む。切り返しが来る前に一歩踏み込み、胴体に杭を押し付けて、トリガーを引く。ズドン、と一発。全く物足りないが、残念ながらこれでおしまいだ。
-HIT-
-ENEMY DESTRYED-
-YOU WIN-
-パーツ:レーザーブレードを入手
+17,000cr
しかし、あまりにもあっけない勝利だった。ぶつかり合う瞬間は間違いなく楽しかったと言えるが、満足には程遠い。全く不満である。まだまだ遊び足りない。こんなことなら決闘受けなきゃよかった。
「はーーーーーー……よっわ……」
『うるせーばーか! 一発で終わる厨武器使ってんじゃねーよ!』
「レーザーブレードと高周波ブレードの二刀流してるやつに言われたくねえよ。どっちも当たったら一確じゃねえか。扱いきれないならクロード先生に鍛えてもらえ」
ちなみにクロード先生とは、このゲームの原作主人公であり、コロニーの警備部隊副隊長、レーザーブレードを持ったNPC。喧嘩を売ると並のプレイヤーだと容赦なく秒殺されるので有名だ。彼を倒せるようになったら一人前とまで言われている。
武装はシールド、ライフル、実体ブレード、レーザーブレード、20mm機関砲、ロケットランチャーの重装備の機体。
中距離ではロケランと弾幕が飛んできて、それをかい潜れば正確なライフル射撃で削られて、近寄れば盾を上手く使った格闘戦を挑んでくる。実体ブレードメインで、そちらに意識を取られるとレザブレで焼かれる。
おまけにシールドは理不尽なほど固い。割ろうと思うと、持ってきた弾を全部吐き出す必要があり、シールドのカバー範囲外を狙うか、格闘戦で勝利するかの二択となる。
つまりは基礎を鍛え、その上で自分の得意な方向性を教えてくれる相手だ。彼に安定して勝ちをもぎ取れるようになってきたら、射撃を極めた警備部隊隊長。格闘戦を極めた遠征部隊隊長。それぞれに挑み、腕を磨くのだ。
勝つまでやる、言うのは簡単だが実際にやるとなるとまあ難しい。
『もうとっくに倒してる。どうしてお前を倒せねえんだよ』
「さすがにチュートリアルは終わらせてるか。じゃあ両隊長は?」
『勝てるように作ってねえだろあいつら!』
「勝てるぞ。俺勝ったし」
『マジで!? そりゃ勝てねえわけだ』
納得すんなよ。そこは諦めずにチャレンジして、打ち勝ってこそ王道的展開だろ。少年ジャ●プ読んでないのかお前。
「もう一回しばいたろかワレェ……」
威嚇するようにバチリと青白い光を放つ鉄杭を見せつける。
『解せぬ』
「勝てるようになるまで特訓したるわ。決闘申し込み……ああ糞ブロックされてるの忘れてた。解除しろよこの野郎、クソザコナメクジからカタツムリくらいには育ててやるから! ああ逃げんなクソ!」
決闘用フィールドが解除されて、相手はログアウト。消化不良で仕方がないので、フィールド内の敵対勢力全員一人で追い払って占領しようとしたら、あと一人ってところで遠距離からの狙撃でワンパンされた。楽しかったのでよしとする。
それはともかく、クソザコナメクジの彼にはきっとまたどこか出会えるだろう。再開した日にはどれだけ成長しているか楽しみにしておこう……