第14話 病み上がりのログイン
戦いとは心躍るものだ。至近で起こる爆発が、装甲越しに耳を打つ。ダメージは軽微。まだ行ける。疑似的な命のやりとりをひたすら楽しんでいる。ライフル弾の軌道に剣を置いて受け止めて、すぐさま廃ビルの隙間に潜り込んで射線を切る。そこへ追撃がくる、路地の入口から機関砲を連打される。
逃げ場を上空に求める、しかしそう動くことはわかっているとばかりに、後ろの壁がロケットランチャーの砲撃で破壊される。仕方ないので敵に向かって正面から突撃するが……敵に武器を当てる前に、こちらが撃破された。
「やるじゃないかナメクジ君」
病み上がり最初の戦いは、ナメクジ君が相手のものだった。しかもなんと黒星。
よもや正攻法で負ける日が来るとは……大した成長ぶりだ。
「休んで腕が落ちたな変態!」
出会ったばかりのときなら、ザーコザーコって煽られてたかな。この変わり方は、いったいどうしたものか。
「確かにそうかもしれないな」
いつもなら、もっと違う動きをしただろう。そもそも不利になる状況を作らせなかっただろう。だが、それを差し引いてもナメクジ君は大きく成長している。
火力任せのごり押しが、しっかり考えて動くようになった。一つ一つの攻撃が正確に、動き方が丁寧になっていて、何も考えない正面突破は難しくなっている。正直言って、初めて戦った時とは別人のよう。この伸びっぷりには感動すら覚える。
「もう少しリハビリに付き合ってくれるか?」
「いいぜ。二回戦といこう」
かくして二回戦。二回戦は普通に勝てたので、感覚はしっかり取り戻せたと見てよさそうだ。
「やっぱつえー」
「付き合ってくれてありがとう。ところで、俺が休んでる間ダンジョンアタックはした?」
「してない。やっぱり全員そろってから出撃するべきだって、リーダーが言ったから」
気づかいは嬉しいが、気を使わなくてもいいのに、とも思う。もし他のチームより早くダンジョンを攻略したい、と思うメンバーが居たら、それは申し訳ない。体調不良は仕方がないことだから、気にせず出撃してもらえばよかったのにと言おう。
ちっとも申し訳なさそうに見えないって? 気のせい気のせい。
「それで、体は本当にいいのか?」
「一日寝て熱を下げて。しばらくゲームは休んだからな。もう心配いらない」
体調も良好。二戦して感覚も戻ったし、もう完璧。いつでもアリの巣へ突入できる。資金稼ぎが足りないならPvPもやってやろう。
「……そうか。それならいい」
「ゆっくり休めと言われたからな」
「ずいぶん素直じゃないか」
「体調管理も仕事の内だ。と社会に出るとよく言われるからな。病気になれば、できる限り早く治すのが仕事だ」
病気になっても職場に余裕がないと、なかなか休めない。インフルエンザとか、ノロとか。そういうんじゃなく、38度いかない程度の熱が出たくらいなら、風邪薬を飲んで出て来いというのが一般的なんじゃないだろうか。時には働いてたら治るとかいう脳みそ筋肉ゴリラも居た。
それで帰れと言われたのは、うちの上司が優しいからだろう。
「社会人は大変だな」
「なんだ。学生だったのか? 遊びもいいが、勉強もちゃんとしとけよ。俺はもっと勉強しておけばよかったといつも思ってる」
このゲームは15禁だから、高校生か大学生か。出会いがしらの暴言は、大学生には思えないから高校生くらいかな。しかし、学生なのにVRで遊ぶ環境を整えられるとは、なかなか裕福な家なのだろう。
ちょっとだけうらやましい。生活に困るほどではないが、一般的に言うと貧乏な家の育ちなので。
「うるせえ余計なお世話だ。あと今のは忘れろ」
「心配するな。そのうち忘れる」
そのままチーム用の部屋へ戻り、他のメンバーとも顔を合わせる。順番に挨拶を交わして、最後にリーダーに。病気で休んですまないと。
「気にするな。それぞれ事情があるからな。みんながよく働いてくれたおかげで、この前の出撃で消耗した資金や弾薬、備品をようやく、出撃前の状態まで戻すことができた。お疲れ様。ありがとう」
褒められるとちょっと照れくさい。自分はほとんど何もしてないけど。
「なら、いよいよ再チャレンジですかね」
「そうなる。いつ行くかを決めよう。できれば全員そろって出撃したい。あとで空いてる日をBBSに書き込んでおいてくれ」
頷いて、久々に遊んで疲れたからと一言ことわってログアウト。ついでに休日の予定をBBSに書き込んで、疲れたから寝る。