第11話 チームプレイという名のソロプレイ
地下基地攻略作戦失敗から一週間ほど経った。その間何をしていたか、何をしているか、というと。軍資金集め。弾薬を大量に消費し、それなりに貴重な装甲車の格納車両さえもロストしてしまったのだから、チームの軍資金には大打撃。借金こそないが、それでも厳しい状態にはなったようだ。
ちなみにこのゲーム、借金という概念こそあるが、あまり気にすることはない。どれだけ借金を作ろうと、日付が変わるまで出撃できなくなるだけで、一晩経てば「お上の慈悲」的なもので借金は全額消える。借金のカタに改造人間にされることもない。弾薬も一定量支給されるので、それを元手にプレイヤーやNPCをぶっ殺すなり任務をこなすなりして稼いでね、という感じだ。ちなみにログボちゃんはいい金になる。
ぬるいような気もするが、救済措置がなければ初心者バイバイなゲームになって廃れてサービス終了だ。
話を戻そう。前述のとおり今の目的は金稼ぎ。それで金を稼ぐのに一番向いているのはPKだ。敵を撃破すれば、その敵の総合評価に応じた金額が手に入る。総合評価というのは、機体の装備のランクと、プレイヤーの名声値を足してなんやかんや計算して出る数字だ。深く考えなくても、近接機でフィールドに出て被弾せずに全員ぶっ殺して回ればガッポリ稼げるので気にしない。
そんな蛮族主義なプレイスタイルのおかげで、戦場に出ると結構狙われる。だがそれがいい。暇をするよりはずっとマシなのだ。
「ヤッホゥ!」
ブーストで火線の間を縫いつつ、壁に向かって突進。飛翔、垂直に切り立った壁を駆け上がり、頂点に達したところでもう一度ブースト。激戦地の通りの上を飛び越え、一つ向こうへ着地。おそらく不意打ちを狙っていたであろう敵集団の後方へ、都合よく降りられた。
美味しそうなウサギの群れを前に自制を効かせる肉食獣が居るだろうか。いや居ない。
ブースターは低燃費モードで使用していれば、曲芸じみた動きはできないまでも結構な速度で移動できる。後方を警戒していた一騎からまず狩る。
敵さんの行動は、ランチャーと機関砲の両方で、本命になればという期待を込めた牽制。
こちらは蛇行機動、銃口の向きから回避ルートを選択し、接近。威嚇するようにレーザーブレードを見せつけられるが、その腕ごと高周波ブレードで切り落とし、パイルを胴体にぶっ刺す。確認するまでもなく撃墜。仕留めた敵を盾に、四角の一角消えて三角形になった、その中心に潜り込み、フレンドリーファイアを躊躇った敵を陣形の内側から切り刻む。
結果、被弾なし。敵撃破。殲滅を続行する。
──チームに入っても、やることはソロのときとあまり変わらない。しかし、楽しみは増えた。敵を倒せば倒すほどチームメイトから褒めてもらえるのだ。これはソロではなかった楽しみ。倒せば倒すほど注目され、恨み言と一緒に銃弾が飛んでくる毎日は、それはそれで楽しかった。ロマンあふれる武器でスクラップを積み上げていくのは実に楽しかった。
だが、誰かに褒められるということはなかった。ファンレターをもらうくらいはしょっちゅうだったが。
さあ次の敵を殺そう、と動き出したところで、敵チーム全滅の知らせが入る。どうやら味方が仕事をしてくれたらしい。そこでようやく、これがチーム戦であったことを思い出した。一番槍で敵陣へ突っ込んで大暴れして、残党を味方が刈り取る……そういう作戦ではなく、射撃武器がなく、しかし近接火力と機動力はバカ高い俺が勝手に突っ込んで勝手に暴れてるだけだ。
毎度のことではあるが、これでいいのだろうか。まあ勝ってるからこれでいいんだろう。何も言われないし。
というわけで、フィールドの外れに置いてある装甲車に出撃メンバーが集合する。今日はリーダー、俺、ナメクジくんの三人だけだ。あとの二人は残念ながらリアルの都合がつかないようで、ログインしていない。
ゲームより現実が優先。うん、当たり前のことだ。変わり者揃いのチームではあるが、そこらはマトモなようで安心した。
「お疲れ様。今日もお見事、としか言葉が出ないね。ほんと素晴らしい動きだった」
「二人もなかなか。食べ残しがいくらか居たと思うけど、あっさり片付けちゃって」
「食べ残しなんて行儀悪い。そんなんじゃモテないぞ」
「ゲームでリアルな話はやめろナメクジ。掘るぞ」
ご飯はちゃんと米粒一つ残さず食べる主義ですー。食べきれなかった分は残しても後で温めて食べてますー。
「やめろ変態! つーかマジで居ないのかよ!」
地味に痛いところを突いてくるのが悪いのだ。顔はいいし性格も優しいのにどうして恋人居ないの、とか。お世辞かもしれないけどこれまで散々言われてきたよ。いい年して恋人居ないと焦りが出てくるから、そういうのがにじみ出て気持ち悪いんだろうなきっと!
「ゲームが趣味同士で付き合ったら?」
「は? ふざけんなよリーダー。冗談にしても内容は選べ」
ドスの効いた低い声を出して、リーダーを睨むナメクジ君。気持ちはわかる。俺もホモじゃないからな。高校のときは部活の打ち上げの悪ノリ罰ゲームで女装させられた奴に告白されたことがあるが、あれは悪ふざけでも心底気持ち悪かった。
しかもタチの悪いことに相手がノリノリで壁ドンまでされたから余計に……思い出すだけで吐き気がする。
ナメクジ君のリアルがどうあれ、VR内でのアバターしか知らない男とくっつけなどと言われれば怒るのも当然だ。どうせならかわいい女の子とくっつきたいだろう。
「うんうん」
なのでナメクジ君の言葉には深く頷く。
「悪かった悪かった、冗談は笑えるものにしとくべきだね」
「次に言ったらアンタでも許さん」
「そうだそうだー。もっと言ってやれナメクジー」
「わかった、わかった。もう言わない。約束する」
「約束は守れよリーダー。破ったときは……ケツに気を付けることだ」
出撃中でも遠慮なくやらせてもらう。人数が減って難易度が上がったところで、それはパイの取り分が増えるだけ。自分一人でも十分に戦えるのだし、チームから除外されても元々ソロプレイヤーだから気にならない。
「大丈夫、俺は約束は守る人間だ」
「へいへい。じゃあ今日はここまでで。また遊ぼう」
まだ戦い足りない気分もあるが、夜11時は風呂に入って寝ると決めている時間だ。睡眠時間はキッチリ確保しておかないと、仕事に支障が出る。遊びに熱中して仕事を疎かにするなど、社会人としてあってはならない事態である。
一度遅刻で上司に怒られてからはキッチリしているとも。
「またな」
「次はスコアでも負けないからな」
仲間からの温かい挨拶をもらいつつ、メニューを開いてログアウト。パチン、と視界が真っ暗になり、ヘッドセットのゴーグルが持ち上がる。
姿勢は寝転がっているが、脳は活発に動いているので、寝起きのような感覚はない。ただ、ずっと同じ姿勢が続いていると体が軽く痛むのと、頭が疲れている。そこらへんがVRの欠点か。
その分楽しいからいいんだけど、と独り言をつぶやきながら風呂へ向かう。汗を流して寝るとしよう。明日も仕事だ。