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第一話 決闘

 第一話


 ここに都市の一角を壁で覆い、円形に切り取った土地がある。どす黒い空から降り注ぐ灰色の雨は、傘が差されているように決闘場(コロッセオ)を避けて落ちる。

 その中央に、二人、あるいは二機が対峙する。その戦いの邪魔をしないように、とのお上の配慮である。

基礎となるフレームは同じ。3mほどのサイズのヒトガタ。装甲を繋ぎ合わせ、張り付けて、無理矢理型に収めたような形をしている。いうなれば人型の小型重機、あるいは装甲車。背中にバッテリーを背負い、頭部には装甲に覆われたセンサーとカメラがマウントされている。

 異なるのは塗装と武装。片方は黒と灰色の交じる都市タイプのデジタル迷彩に、連装ロケットランチャー。肩乗せ機関砲。シールドとライフルを装備した射撃戦重視。対戦相手からは見えないが、近接戦になった際の保険として、シールドの裏にレーザーブレードの発生装置を隠している。対人戦における王道装備だ。

 対するは土と砂を模した砂漠迷彩。武装はロケットランチャーとシールド。あとは右手に持つ、巨大な杭打ち機。杭の長さは1m半。背負ったバッテリーから太いケーブルが伸び、杭の根本の銃を模した機関部に接続されている。

 武器種別、物理格闘武器。名称、帯電パイルバンカー。

俗称、工具、あるいは産廃。

 同カテゴリの高周波ブレードに対し、重量と手数に劣り、射程は同程度、勝っているのは威力のみ。その威力も過剰であり、それならばブレードでいいと言われる哀れな武器だ。

 王道に対する邪道。一見するに、あまりに無謀。どちらが勝つかと賭けをすれば、九割が片方に賭ける。そんな決闘だ。

 あえて産廃と呼ばれる装備を選ぶとは、突出した威力のみに目を奪われた初心者か、その威力に心奪われた酔狂か。どちらにせよ、極めて不利であることには変わらない。



 カウントダウン。10・9・8……


 淡々と読み上げられる数字。ゼロが迫るにつれ、二人の機体がスタートダッシュに合わせようと少しずつ傾く。武装も照準を合わせるように細かく動く。


『そんな機体で勝負する気か。舐めてんのか?』


 王道。いわゆるガチ装備に対しての、申し訳程度の射撃武器に加えて、近接一本。しかも産廃だ。勝ちを捨て、ネタに走ったのかと。そう思うのも仕方ないことではある。


「実際どうかは、戦ってみてのお楽しみに」


……3・2・1……



カウントゼロ。全く同時に、互いの機体に装備されたロケット弾が飛び出し、噴煙を吐きながら相手に飛んでいく。近接機のパイロットは踵を二度踏んで、重心を右に傾けながらのスタートダッシュで回避。射撃機のパイロットも同じく。

互いに初手ロケットランチャー全弾発射、その後パージで軽量化。これが決闘における挨拶代わり。

近接側は軽装。繋がれていた猛牛が解き放たれるように、弧を描きながら、ロケットの後を追って敵に向かう。

射撃側は銃口を敵の動きをトレースし、発砲を開始。


 ロケットが着弾。互いの弾は外れるも、いくつかの着弾地点から赤熱した液体が広く飛散する。テルミット《金属焼夷》弾だ。近接機の通り過ぎた後を、通常の榴弾らしき爆発。近接機にわずかにダメージ。気にするほどではない、とばかりに前進を続ける。

 射撃側の近くに着弾したのは、大量の白煙をまき散らす煙幕弾。視界を遮られるが、後退しつつ、敵位置を予測しての行動をとる。

 予測は正確で照準は確実に近接機を捉えている……が、その大半は急激な左右への軌道変更で回避するのだ。命中弾も盾に遮られ、さほど効果はない。


 近接機、突撃開始から2秒で煙幕を突破。そして敵を視認した。後退しながらライフルと機関砲の銃口を向けている。臆せば死とばかりに速度を落とさず、相手の脇をすり抜けるルートで突撃続行。弾幕は盾で受け流し、機体へのダメージはほぼない。

 前進と後退では速度が違う、追いつくのに時間はかからず、追い越しざま。旋回を許す前に、相手の真横で脚部ローラーの回転を調整。地面に跡を残しながらドリフトターン。モニターに映る世界がぐるりと半周し、射撃機のバックを取った。



 敵は重装備が仇となり、旋回が間に合わない。がら空きの背部バッテリー(弱点)は、手を伸ばせば届く距離。

 バチバチと電光を纏う、黒光りする杭。ゼロ距離、ガードなし、反撃なし。外すはずがない。

 先端を相手に向けて、トリガー。撃ちだすは必殺の一撃。帯電パイルバンカー、銘を菊一文字。

 ガオン! と大砲のような炸裂音。ず太い空薬莢が吐き出され、杭は、敵機の背中ド真ん中を貫いた。


 -HIT-

 -ENEMY DESTRYED-

-YOU WIN-

 トロフィー:決闘王 を入手

パーツ:高周波ブレード を入手

 +150,000cr

 +50,000cr chips

 修理費 -3000cr

 弾薬費 -150cr



 画面中央に大きく表示される緑色の撃破報告の文字と、画面右上に出た実績に、ふぅ、と熱のこもった息を吐く。前回よりも目に見えて報酬金が多いのは、それだけ見物客が多かったということだろうな。透明処理されているおかげで見えないけど。


『今回は調子が悪かっただけだ。実戦ならお前ごときに負けるなんてありえない。図に乗るなよ』


 さっそく負けた相手からのファン(煽り)……いや煽りか。つまりファンメッセージ。が届いた。煽りというか、負け惜しみというか。

 決闘王トロフィーを持っていたからどれだけ強いだろうとワクワクしながら挑戦を受けたのに、正直がっかり。心も技量も伴ってないただの初心者狩りだった。挑んできたのもキワモノに手を出した初心者と間違えたからだろうか。


『決闘の申し込みと、対戦ありがとうございました。ガチ装備使って近接一本に負けて恥ずかしくないんですか? ほとんど当たってなかったしジャンク使って舐めプのつもりですか? チュートリアルからやり直したらどうでしょうかクソザコナメクジパイセン』


 事前に用意してあった丁寧な決闘のお礼メッセージを廃棄して、一分ほどかけてじっくり考え抜いた新しい文章を書き出して、さあ対戦相手に送信……『ブロックされている相手にメッセージを送ることはできません』

 Omg,プレイスキルだけじゃなくメンタルもクソザコナメクジだったようだ。対戦後には挨拶を交わすのがマナーのはずなのに速攻ログアウトしてるし。全くけしからんやつだ。


 んー……なんだかなぁ。俺もログアウトしよ。今日は十分遊んだし、また明日だ。


 ポチポチとメニュー画面を操作してログアウト。視界が真っ黒になり、体の感覚が戻る。ヘッドセットを外して、ベッドの脇に置く。風呂へ入って、上がったころには寝るのにちょうどいい時間だ。



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