57.冬の日の図書室のKISS(2)
その翌日の朝。
「行って来ます」
自宅の門を出た時、
「吉原君!」
角の門塀の所に、彼が立っていた。
「一緒に登校しようと思ってね。待ってた」
彼は、言った。
「吉原君、家は何処なの?」
「屋敷町」
「そんな、遠いじゃない!」
「神崎とつきあえる一週間、少しでも長く一緒にいたいんだ」
彼は照れくさそうに笑った。
そんな彼の言葉に、私は赤くなった。
***
「おはよう」
「おはよう」
朝のホームルームが早くも活気づいている。
「あれえ、お二人さん。仲良く登校?!」
ゆうが声をかけた。
「ああ」
「あ、アヤシイー! まさかつきあい始めたとか?」
ゆうがふざける。
「まあね」
「よ、吉原君!」
「うそおーーー!!!」
その場にいた数人から歓声が上がった。
私は、どういうリアクションをしていいのかわからない。
ただ、昨日のうちに事の顛末を話していたお杏だけは、したり顔でにまにまと笑っていた。
***
「神崎。一緒に飯食おうぜ」
その昼休み、お杏とお弁当を食べようとしていた机のところに、吉原君がやってきた。
「あら、私はお邪魔虫ってわけ?」
と、お杏。
「すまない」
彼が大袈裟に、「ごめん!」というジェスチャーをする。
「私は今日は舞たちと食べるわ。純、ごゆっくり」
「お杏!」
お杏は私にウインクをして、席を離れた。
う……なんか気まずい。
私は、ドキドキしている。
しかし、彼はそんな私の心中も知らぬげに、大きなお弁当の包みを開けると、早くも食べ始めた。
「神崎の弁当、ちっさいなあ。それにそんなんで腹一杯になるのかよ?」
彼のお弁当箱は、男の子らしく二段重ねだ。
一方、私のお弁当箱はこじんまりとしている上、ご飯はほんの少し。おかずも半分以上は、林檎などのフルーツ。
「え? ダイエットしてるから」
「ダイエット!? なんでんなことするんだよ?!それ以上、痩せてどうすんだよ!」
「私、そんなに細くないわ」
「ウエストなんかメチャ細いじゃん! 無理したらまた二学期みたいに貧血で倒れるぞ」
「う、うん……ありがと」
彼の真剣なまなざしに、思わずそう答えていた。
その時。
「神崎!久保センが職員室で呼んでるぞ」
上原君に声をかけられた。
「いっけない!五時限目の資料、運ばなきゃ」
そう言って、席を立とうとした。
「あ、神崎。俺も行くよ。手伝うよ」
そう言って、彼も席を立った。
「久保セン、鬼だろ。委員長だからって、いつもお前にあんなに沢山の資料運ばせるんだからな」
「吉原君……」
吉原君のナニゲな心遣いがジンときた。