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49.再会

 今年も残すところあと二日という師走の午後、私は街に出ていた。


 新しい冬物のスカートを買うつもりの私は、あちこちのブティックをおずおずと見て回っている。

 一人でブティックに入るのはまだ慣れずにいる。店員の押しに負けて私はつい、その気のない物も買ってしまいそうになるから。

 その点、お杏は自己主張がはっきりしていて、服のセンスもいい。モデル並みのプロポーションで、店員を圧倒する。


 お杏と一緒に来れれば良かったのだけれど、冬休みに入ってからというものやたらと顔が広いお杏は、今日は他校の友人宅へ、明日は彼氏とパーティーへと、年が明けるまでぎっしりと予定が詰まっているらしい。

 まったく驚く程、行動範囲の広い女子高生ではある。


 一方私は、浩太朗君に振られてから丸二日間、部屋に閉じ籠もり、ベッドの中で悶々と過ごした。

 しかし、さすがにこれでは情けない。

 それで華やかな街へ出て、ショッピングで気分転換を図ろうとしているわけだ。


 そして。


 ファッションビル「HALLOハローLADYレディ」の二階を通った時、店頭にディスプレイされた一枚のスカートに、私はすっかり釘付けになった。


 それは、ギンガムチェックのペチコート付きの真っ赤なウールのロングスカートだった。


 モノトーンが主流の冬の今、それはかなり人目を引く。

 真紅の薔薇より赤いそのスカートは、さぞかしコーデも難しいだろう。

 何よりこの豪華なペチコート!

 それはまるで少女趣味の極みのようで、実際に身に纏って似合うものかどうか、今一つ自信がない。


 しかし、私は吸い付けられたようにそのスカートに魅了されてしまった。


「良かったらご試着なさってみませんか?」

 二十代の若い女性店員がそう声をかけてきた。

 私は躊躇ったけれど、結局は誘惑に負けた。

 案の定、その真紅のスカートはとても目を引いた。

 しかし、ペチコートは想像以上にスカートを引き立て、とても愛らしい。

 クリスマスは過ぎたもののパーティーがあれば着て行きたくなるような一枚。

 私は、思い切ってありったけのお小遣いをはたいて、税抜き一万二千八百円のそのスカートを手に入れた。


 レモン色の紙バッグを提げた私の足取りは、軽い。

 滅入っていた気分も浮上してきている。

 街に出て来て良かった。

 せっかくだからレターパッドでも買おうと、私は地下一階の洋物雑貨の店「HABITAハビタ」にも寄ることにした。

 あまり広くない店内は、中学生から若い女性まで様々な客で溢れている。


 そして、オーデコロンのコーナーを通り過ぎようとした時。


 私は思いがけない人物に出逢ってしまった。


 お互いが動きを止め、お互いを凝視している。

 さっさと素通りしてくれればよいのに、しかし、彼女は敵意の見える目で私に声をかけてきた。


「あなた。浩人にちょっといい顔されたからって、つけあがらないでよね」


 私は何故、彼女からそんな言葉を浴びせられなければならないのかわからない。


「私は中学時代から浩人とつきあってるんだから」


 そして、彼女は冷ややかな目で私を睨むと、おもむろに叫んだのだ。


「あなたなんて……。あなたなんか、玲美れいみの身代わりなんだからっ……!」


 玲美……!?


 私には彼女の言葉が何を意味しているのか、全くわからなかった。


「浩人を愛しているのはこの私よ。そして今、浩人が愛しているのはこの私だわ」


 忘れないでいてよね……と、茶色の長い髪をかきあげながら、彼女は肩で風を切るようにしてその場を去ってゆく。


 何故……。

 何故、私が守屋君の彼女からああも敵意を剝き出しにされねばならないのか。

 あの夜、もしかして彼女は後をつけてきて、私と守屋君のあの光景を見てしまったとでもいうのか。


 “玲美の身代わりなんだからっ……!”


 あれは一体どういう意味……?!

 一体、彼の過去には何があったのか。

 お杏はまだ何も言ってこない。

 私も何か怖くて聞けずにいた。

 聞いてみよう、今夜こそ。はっきりと。


 呆然と彼女の去りゆく後ろ姿を見つめながら、私は心に決めた。


 守屋君の本当の姿を知る為に────── 



 ***



「え…。プレイボーイ……?!」


『そう。かなり派手に遊んでたみたいね。学校で一番、女子にもててたんですって。でも、本命の彼女は他の中学にいたらしいわ。そのくせちょくちょく言い寄ってくる、つまみ食いしてたって』


 携帯から流れてくるお杏の声を、私は信じられない想いで聞いていた。


『すごく明るかったらしいのよ、彼、「キスマイ」のマネなんかして。信じられる?』

「信じられるわけないじゃない!」

『それが中三の夏休みが終わって後、がらりと性格変わったんだって。全然笑わなくなって、人が変わったように暗くなっちゃたんだって。影ができたっていうか。つまり、現在の彼はそこらへんから起源が始まってるわけね』

「何で突然、そんな……」

『さあ。私の友人もそのくらいしか知らないのよ。……ショックだった?』

「いつ、聞いたの。その話」

『一週間くらい前かな』

「何で今まで黙ってたの?!」

『話の内容が内容だし、ショック受けるんじゃないかなと思って。それに純、浩太朗君のベストに夢中だったじゃない』


 お杏の情報を聞いて、益々私は訳がわからず混乱している。


 プレイボーイで陽気だった守屋君。

 それがある時期を境に突然変わってしまった。

 その時、彼に何があったのか。

 一体、何がそこまで彼を変えたのか。

 そして、「玲美」という女の子との関係は……。


 守屋君の秘められた過去は、容易にその全貌を明かそうとはしなかった。



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