45.遊園地グループデート(3)
園内中央に位置する一番大きなカフェテラスで、私達は全員、お杏の言う「激辛ビッグホットドッグ・セット」を食べることにした。
飲み物は銘々好きなドリンクをオーダーする。
私とお杏がホットコーヒー。
舞がミルクティー、ゆうがレモンティー。
徳郎がカフェラテで、浩太朗君と吉原君がコーラ。
そして、守屋君がアイスコーヒーだった。
「守屋君。この寒いのになんでアイスなの?」
私の右隣に座った彼に、私は遠慮がちに声をかけた。
守屋君に話しかけるなんて。
これも「非日常」の為せる技。
すると、
「不味い珈琲なら、まだアイスの方がマシだから」
と、彼が言った。
「そう?」
「冷たけりゃ、味覚が少しは麻痺するだろ」
「でも、思ったよりここの珈琲、美味しいわよ」
「神崎さん、味音痴だろ」
「ヒドイわ!」
なんて、期せずして守屋君との会話が盛り上がっている時だった。
「ああーーー!!」
目の前で浩太朗君が大声を出した。
「どうしたの?!浩太朗君」
びっくりして、私の向かいに座っている彼を見た。
「ケチャップ、Gジャンに落としちゃったよ」
見ると、彼の左の袖口に赤いケチャップがかかっている。
「ちょっと、見せて」
私は、躊躇なく彼の席に歩み寄った。
そして、すぐバッグからポケットティッシュと携帯のシミ取りシートを取り出した。
まず、ティッシュでケチャップを丁寧に拭い、それから、シートでトントンと軽くシミになった部分を擦る。
「神崎さん……」
その間、浩太朗君は呆気に取られたように、しかし、黙って私のするがままにされていた。
「はい。これでいいわ。後は、家に帰ってクリーニングに出したら、シミも残らないと思う」
一通りの作業を終え、私は言った。
「神崎さん、意外と女らしいんだ」
「意外と、て言うのは余計よ!」
私は赤くなりながらも、反論する。
「でも、純。ほんとお見事だったわ。そんなのいつ覚えたの?」
と、ゆうが問うた。
「うちのママが手先器用で、普段からこういうことは仕込まれてるのよ」
と、私。
「とにかく、サンキュ!助かった」
浩太朗君は、そう言って笑った。
その笑顔に、キュン…とする。
浩太朗君……。
笑顔が抜群によく似合う。
彼の笑顔はまるで、お日さまの陽の光のよう。
彼とは、こうしてみんなと一緒になって、他愛なく笑いあっていたい。
だったら……。
ふと掠めた自分の思考に私は動揺する。
守屋君のことは私、どう思っているの──────
思考がぐちゃぐちゃに混乱していく。
でも。
ただ一つ言えることは。
私が彼らを好きでいようといまいと、彼らには何ら関係のない出来事だという事実。
涙が零れそうになって、私は横を向いた。
ふと、その時。
私の視界に、「ピエロハウス」のアトラクションが飛び込んできた。
ハウスの屋根の上で、右へ左へと首を揺らすその道化師は、浩太朗君と守屋君の間を行ったり来たり、一人芝居する私の心のようだと、思った。
***
それから後も、私達は遊ぶだけ遊び倒した。
先日終わったばかりの期末考査の鬱憤を晴らすかのように、園内ほとんど全ての遊具に乗って遊んだ。
疲れたら、こんな遊園地にしては珍しい洒落たカフェで、ゆっくりお茶もした。
私はあれから体調を崩すこともなく、存分に「遊園地の休日グループデート」を満喫したのだ。
そんな一日も終わりに近づいて、お杏が言った。
「最後はやっぱり、大観覧車に乗ってシメにしましょう」
そして、更に言った。
「せっかくだから、カップルで乗りましょうよ。このトワイライトタイム、ロマンチックに楽しも!」
「えー、マジかよ」
女子より先に男子連中から、声が上がる。
けれど、お杏は構わず、
「そう言わずに! 「グッパ」で決めるわよ」
と言って、グーとパーをみんなの前に二回差し出して見せた。
結局。
数回のグッパの結果。
お杏と守屋君。
舞と浩太朗君。
ゆうと徳郎。
そして。
私と吉原君のカップルで観覧車に乗ることになった。
それはいい。
それは問題なかったのだけど。
また、問題が勃発していた!
「神崎。お前、変だぞ。キョドってるし、顔色も悪い」
吉原君が私の顔を覗き込む。
「わ…私……」
私は震えながら言った。
「私、「高所恐怖症」てこと、忘れてた」
どんどんと地上から上へと離れていく観覧車の中で、私は今にも遙か下の地面に吸い寄せられそうな気がして、怖くて堪らない。
「お前、ほんと世話焼けるなあ」
そう言うと、おもむろに吉原君は立ち上がった。
「きゃあ! 急に立たないで……!」
彼が立ち上がったことで、観覧車はバランスを崩し、大きくガタンと揺れた。
私は思わず、隣にいる彼の腕にしがみついていた。
そう。
向かい合って座っていた筈の彼が今、「隣」にいる……!?
「そのまま俺にしがみついとけよ。怖くないだろ」
私の横に座った彼が、そう言ったのだ。
そんな……?!
でも、まだ揺れている観覧車が怖くて、結局、私はそのまま彼の腕にひしとしがみついていた。
観覧車は、頂上付近を通過しようとしている。
その時だったのだ。