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44.遊園地グループデート(2)

 そして、迎えた日曜日。


久磨駅くまえき」に朝九時に皆、集まった。


 女子は、お杏、舞、ゆうに私。

 男子は、徳郎、浩太朗君、守屋君に吉原君。 


 これから、この八人で遊園地「よつばグリーンランド」でのグループデートの始まりだ……!


 私は、着てきた服……フランネルの赤いタータンチェック・ワンピに黒のレギンス姿で良かったのか、不安になっている。

 だって、お杏のボトムはウールの茶系ストライプのアンクルパンツ。

 舞は、黒のショートパンツにグレーのニーソックス。

 ゆうは定番のブルージーンズと皆、「遊園地」で遊ぶに相応しい格好なのに。

 

 私一人、こんならしくない格好……と、またドツボにはまっていると、それを察したお杏が、

「似合ってるわよ、純。可愛いわ」

 と、ウインクしてみせた。


 とにもかくにも、今日一日。

 楽しめるといいな……。



 ***



 遊園地「よつばグリーンランド」行きの電車に乗ると、私はお杏の隣に座った。

 向かい合わせに、浩太朗君と吉原君が座る。

 通路を挟んで、舞とゆう。そして、徳郎に守屋君というカップリング。


 そして、行きの電車の中で、私はすっかり浩太朗君と吉原君と話し込んでしまった。

 朝に弱いお杏は、終始、窓枠にもたれかかり眠りこけていたから。

 しかし、男子慣れしていない私でも、彼らとは安心して喋ることが出来た。

 吉原君は、長い前髪がトレードマークで守屋君と同じくらい長身。でも、ひょうきんというか、場を和ませるムードメーカー。

 そして、浩太朗君。

 背はあまり高くない、ベビーフェイスで人の好い彼は、例の事件のことももうすっかり忘れたように、私とも喋ってくれる。


 私は……。


 複雑な想いを乗せて、快速電車は走る。

 山間やまあいの麓で私達は電車を降りた。

 そこからバスで約八分。

 午前十時丁度に、「よつばグリーンランド」へと到着した。



 ***



「ねえねえ。何から乗る?」

「観覧車!」

「それは最後のお楽しみにとっときましょうよ」

「だったら、フライングカーペットなんてどう?」


 男子連中をおいてきぼりにして、女子が盛り上がる。


「やれやれ。どこからでもどーぞ」

「元気いいよなあ、女どもは」

 などと、徳郎達が言う。


 結局、フライングカーペット、ミラーハウス、チェーンブランコ……と、園内マップ片手に順番に制覇し、大いに盛り上がっていたのだけれど。


 しかし。

 問題は、ジェットコースターを降りた直後に起こったのだ。


「神崎。大丈夫か?」


 守屋君が私の脇を支えた。

 絶叫系に滅法弱い私は、すっかり気分が悪くなり、足下がおぼつかずにいる。


「あそこのベンチまで、歩いて」

「あ、ありがと……」

 こんな時、いつも私の面倒をみてくれるお杏が何故か傍にいない。

 私は、守屋君に支えられながら、近くのベンチに座った。


 気分が悪い。

 吐きそう……。

 三半規管をやられたのか、まだ地面がぐるぐる回っているような気がして、尚、守屋君にもたれかかる。


「気分悪い?」

「う、うん……。ごめんなさい」


 これって────── 

 でも。


「ちょっと待ってて」

「え……? 守屋君」


 守屋君は立ち上がると、走っていった。

 そして、程なくして戻ってくると、

「はい」

 ポカリスウェットの缶を私の目の前に差し出した。

「ありがと……」

 バカの一つ覚えのように繰り返すだけ。

 気の利いたことが何も言えない自分が、腹立たしい。


「無理するなよ。なんもかもみんなに合わせる必要なんてないんだぜ」 


 静かな守屋君の声。

 まるで妹を諭すように……。


 これってまるで、あの時。

 あの済陵祭の打ち上げ、ディスコ「HEVENヘブン」の夜を再現しているよう。


 何より。

 守屋君の彼女と出会ったあの夜以来、彼とまともに話すのは初めてだった。


 ポカリの栓を開けると、黙って口にした。

 冷たくてほのかに甘い液体が、ひりつく喉を潤す。


 守屋君……どうして……。


「純ちゃーん! もう大丈夫?!」


 遠くから舞の声がした。

 見ると、私と守屋君を除いた残りの面々がぞろぞろとこちらにやってくる。

「まったく、純はだらしないわね。あれしきのコースターでその体たらくなんだから」

「みんな何処行ってたのよ?!」

「ああ。コーヒーカップに乗ってきたわ。それじゃ、暫く純は乗れないだろう、てね」

「私一人残してえ? みんな冷たいんだから」


 そう抗議の声を上げた私に、悪戯っぽく舞が言った。


「あら。一人じゃないでしょ。守屋君と一緒でしょ」

「まったく、神崎さんは介抱する奴が決まってからいっかあ」

 などと、徳郎も笑う。


 私は、真っ赤になり、何と言っていいかわからない。


「バカはそのくらいにして、何か食おうぜ。腹減った」 


 その時、ぼそりと守屋君が呟いた。


「あ、賛成! 私もお腹すいたあ」

「工藤はやっぱ色気より食い気かあ」

「徳郎! もう一回言ってみなさいよ!」

「おお、おっかねえ」

「なんですって……!?」


 ゆうと徳郎がいつもの掛け合いをやっていると、

「まあまあ。ここの名物に「激辛ビッグホットドッグ」てのがあるわよ。今から食べに行きましょうよ」

 というお杏の一声で、

「「「さんせーい!!」」」

 皆の声が揃う。


 というわけで、なんだかうやむやにその場は収まり、私達はお昼を食べにカフェテラスへと向かった。


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