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43.遊園地グループデート(1)

「ちょっと、徳郎! どこ行く気?!」


 教室を出ようとしていた徳郎に向かってそう声を張り上げたゆうの威勢の良さに、私はついその場を注視した。


「どこって、決まってんだろ。クラブだよ」

「今週、掃除当番だってこと忘れたの? 昨日みたいに一人だけサボろーったって、そうはいかないんだから」

「俺一人ってことないだろー。大体、男がマジに掃除なんてやってられっか」


 徳郎は、ふてたように口をとがらせている。


「なーに、時代錯誤なこと言ってんの。ほら! このモップ持って!」

「わーったよ。わかりました。やりゃー、いーんだろ。やりゃあ!……ったくおっかねーの」

「何! なんか言った?!」

「いえいえ。工藤さんは掃除が好きな女らしい人だなあーと」

「バカ言ってないでちゃんとやりなさいよ」

「へいへい」


 観念したのか徳郎は、鞄を机の上に放り投げると、とりあえず床を磨き始めた。


「すごいわねー、ゆう」

「……純?」


 やっとゆうの背後から声をかけた私に、ゆうは振り返った。


「何がスゴイの?」

「だって、男子とくろー相手に対等にやりあってるんだもの」

「あら、純こそ、いつも堂々としてるじゃない? ホームルームの時間なんかさ。前に立って、しっかりクラスまとめてるくせに」

「あれは、無理してるのよ」 


 私は苦笑しながら一言、そう言った。


「……なんていうか、私。男子とうまくしゃべれないのよね。ゆうみたいに意識せず、気楽にポンポン言い合えたらいいなあ、ていっつも思うわ」

「でも、浩太朗君とはよく喋ってるじゃない」

 ゆうは、ちょっと意地悪っぽくそんなことを言う。

「あ、ああ。彼とは席が前後でしょ。だから……」


 私は平静を装いそう言ったものの、ふいとゆうから顔をそむけてしまった。


 浩太朗君……。

 なんとか言葉を交わし、普通のクラスメートに戻れたけれど。

 自分の気持ちがわからない。

 私は彼を好きになってはいけない。

 なれば、嫌でも自分のコンプレックスと対峙する。

 彼に相応しいのは、舞みたいな無垢で可愛らしくてあどけない、女の子した女の子なんだって……。


「ゆうちゃーん!お掃除おわったあ?!」


 その時。

 げんきいっぱい!て感じの声で我に返ると、まさしくその舞が外庭の掃除から帰ってきたらしく、早々と手に鞄を持って立っていた。


「早く帰ろうよお。今日は「DONALDドナルド」でぱふぇの約束でしょ」

「あ、舞達、いーなあ。私も「DONALD」のチョコパフェ、大好き!」

 暗く落ち込みかけていた気持ちを払拭するように、そう言った。

「純ちゃんも一緒にどお? ね、ゆうちゃん」

「うんうん。お杏も誘ってさあ」

「きゃあ! お杏、お杏! 今からさあ─────」


 そうやって、その放課後、私達はカフェ「DONALD」でお茶することになった。



 ***



「じゃあ、純と私がチョコパフェ。舞がフルーツパフェ、ゆうが豆乳プリンパフェでいいのね?」


 お杏の言葉に三人が頷く。

 そして、お杏がオーダーをまとめて告げ、程なくテーブルに豪華なパフェが並んだ。


「私、「DONALD」のパフェ、大好き!」

 舞が嬉しそうにまず、器からはみ出すように盛り付けてあるパイナップルに手を伸ばす。

「ここのチョコパて絶品よねー。このチョコレートアイスクリームのボリューム!」

 私も嬉々として、アイスをスプーンですくう。

「豆乳プリンもヘルシーで、美味しいわよ」

 と、ゆう。


「そうそう」


 お杏が、スプーンの手を止めて言った。


「徳郎がさあ。期末も終わったことだし、今度の日曜、みんなで遊びに行こう、て言ってたわよ」


 お杏のその一言に、

「遊びってどこ?」

「どのメンツで?」

 と、ゆうに舞がすぐ飛びついた。


「女子は私達このメンバーでしょ。それに男子は、徳郎、浩太朗君。守屋君に吉原君。その辺で。「よつばグリーンランド」まで電車で遠出しよう、て」

 お杏の言葉に皆、たちまちその話に夢中になった。

「いいわね! 遊園地。久し振りぃ」

「でしょー。やーっと全部試験終わって、遊びたかったとこなのよ」

「人数もメンバーも妥当なとこじゃない」


 その中で、一人、私だけが浮かない顔をしている。


「どうしたの、純。純は行きたくないの?」

 と、ゆうが問うてきた。 

「え…う、ううん。そうじゃないけど。私……そういうの、苦手だから……」


 クラスメートでも男子と喋ったりするのは苦手な私に、いきなり「遊園地グループデート」は、ハードルが高すぎる。


「そんなんだから、純はすぐ情緒不安になるのよ。男子なんて意識せず、みんな一緒に騒げばいいのよ」


 しかし、そう明るくゆうは言って、不安そうにしている私の肩を叩いた。


「ゆうちゃんの言う通りだわ。浩太朗君も守屋君も来るんだから、純ちゃん、ばっちりお洒落しなきゃね!」

「そうよ。純もこういう時、「JK」ライフを楽しまなきゃ」

 と、舞にお杏。


 私は苦笑するように笑うしかなかった。



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