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38.絶句!(1)

「純ちゃーん! 面会人よぅ!」


 昼休み、午後のリーダーの予習をせねばと思い、「UNICORNユニコーン」の黄色い表紙の教科書を机から出しかけていたところ、舞が教室の戸口から可愛い声を響かせた。


優里ゆうりじゃない。どうしたの?ノートでも借りに来たの?」

 柱の陰に隠れるようにして立っていたのは、小学生時代からの友人で5組の石川いしかわ優里ゆうりだった。


「あのね……ちょっと相談したいこと、あるんだ」

 そう言うとキョロキョロと辺りを見回す。

「ここじゃなんだなあ……。そう、階段の下まで来てくれない?」

「何。随分深刻な顔してるのね。なんかあったの?」


 それには答えず、優里は私を引っ張っていく。


 そして、人目につきにくい一階の階段の下まで来ても、彼女はなかなか口を開こうとしなかった。

 明らかに言葉にすることを躊躇っている。


「どうしたのよ、一体。安田やすだ君と喧嘩でもしたの?」

「そうじゃないの。私。私……ないの!」

「ないって、何が。財布でもなくしたの?」


「ここまで言ったら察してよ。来ないのよ……アレが……」


「ちょ…ちょっと待ってよ! まさかアンタ?!」

「そのまさかよ」

 優里は泣きそうな顔をした。


「で、誰なのよ。相手は。勿論、安田君なんでしょ?」

「それが……」

「彼じゃないって言うの!?」

 優里は悲痛な表情で頷いた。

「一体、誰が相手なの。何があったのよ……」


 私の問いに優里は目を潤ませながら、事情を話し始めた。


「──────で、例の久磨くま大の先輩とドライブに行って、夜遊びしたと。でもって、先輩が疲れてあまりに辛そうだったから、純粋に休んでもらおうと思って入っちゃったわけね。……ホテルに。そしたら、それじゃやっぱり済まなくなってしまったと」


 優里の話を要約した私に、優里は黙って頷いた。


「馬鹿じゃない。それじゃ暗黙の了解で合意の内にそうなったんじゃない」

「だって! 本当に休んでもらうつもりだったのよ」

「だからって、ホテル行くなんて……軽率過ぎやしない」

「だって……。三上みかみ先輩がそんなことするなんて、思ってなかったもの……」

「三上先輩とは、例の宗教関係の人達と一緒に活動する延長上で遊ぶだけだって言ってたじゃない。それがどうして夜、一対一でドライブなんか行くのよ?」

「最初は私の他にも女の子一人、一緒に行く予定だったのよ。それが、当日になってその子が都合悪くなったって、先輩が……」

「大体ねえ、安田君という人がありながら……」

「それ以上もう責めないでよ……! 私だって何が何だかわかんないんだから……」


 そう言うと、とうとう優里は泣き出してしまった。


「優里、泣かないの。とにかく。どのくらい遅れてるの?」

「十日以上……」

「十日以上か……狂いすぎよね、やっぱり」

「ねえ、純、どうしよう!? どうしたらいいの、私……!? こんなこと純にしか相談できないんだから……」

「先輩には、相談したの?」


 優里は無言で頭( かぶり)を振る。


「やっぱり……早く病院に行くべきよ」

「そんな、病院なんて……。どこに行けばいいの? お金だってないし……」

「だからって、このまま放っておくわけにもいかないでしょう。もしかしたら間違いってこともあるんだし」


 優里の背中を摩る。


 その時、昼のホームルームの予鈴が鳴った。



 ***



「古今の草子を御前に置かせたまいて、歌どもの本をおおせられて、これが末いかにと問わせたまふ……いや、たもうに……すべて夜昼心にかかりておぼゆるもあるがけ、けぎよう申しいでられぬは、いかなるぞ。さいそう、いやさいしょうの君ぞ十ばかりそれもおぼゆるかわ────── 」


 五時限目の古典の授業、徳郎がしどろもどろで教科書の「枕草子」を朗読している。


 優里には、病院探しは手伝うから、とにかく三上先輩に相談するように言って別れた。



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