3.打ち上げ(2)
作中、高校生の飲酒・喫煙場面が出て来ます。未成年の方はくれぐれも真似なさらないで下さい。
何……何で?
どうして?!
私は急に鼓動が早くなっていくのを感じている。
何で浩太朗君が……ゆうの肩なんて、抱いてるの……?!
一番隅のテーブルで、二人寄り添うように座っているゆうと浩太朗君……
私は愕然となった。
どうして……何故、浩太朗君がゆうと……
それより。
どうして。
どうして私、こんなにショックなの?!
何を動揺しているの。
そう自問自答してみるものの、自分でもわけがわからなかった。
わからないまま、私はやおら目の前のグラスにウイスキーをなみなみと注ぐ。
申し訳程度にコーラで割ると、私はほとんど一気にそれを飲み干したのだ。
トクン トクン トクン……心臓の音。
胸が、熱い。焼けつくよう!
しかし、頭はそれ以上に熱くなって収拾がつかない。
鼓動が速い。脈打つのがわかる。
けれど今更、私にはどうしようもできない。
もう……どうでもいい。
ああ、けれどどうして……!?
私は何を混乱しているの。
もう一度、あの二人に目を遣ってみた。
ああ。そうなんだ。私。何てこと。
思わず私は目を瞑った。
……ワタシ
コータロークン ガ スキ
ナンダ……
その時、私は初めてそう感じた。
そんな。
私が彼のことを好き、だなんて……!
突然、認識してしまったその自覚に、私は大いに動揺している。
その感情は私にとって、ショック以外の何物でもなかった。
浩太朗君のことは、嫌いじゃない。
けれどそれは恋愛感情などでは決してないと、私は信じていた。
彼を知る人間なら誰でも持つであろう好意であって、決して自分が彼に慕情を抱いているなどとは、私は思いもしていなかった。
なのに。
とにかく、今の私は彼の姿が正視できない。
優しそうにゆうの肩を抱いている、浩太朗君のその表情が……
混乱は一層酷くなる一方で、私はもう一度ストレート同然のコークハイを作ると半分無理矢理、喉へと流し込んだ。
そして、グラスを持ったまま、席を立ち上がった。
彼らはまだ二人きりでいる。
私はすっと近づいていくと平然と彼の隣に座り、テーブルの上にグラスを置くと、両手を彼の右腕に絡めながらこう言ったのだ。
「私も浩太朗君がいい!」
二人が一斉に私を、見た。
二人とも目の焦点が定まっていない。
「なによぉー、私の浩太朗君なんだからぁ」
「だって、私も浩太朗君がいいんだもん」
到底、素面では考えられない会話。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
二人の女子の間に挟まれた浩太朗君は、慌て気味。
ゆう。もしかして、浩太朗君のことがすき、なのかしら……
そんなはずないのに。でも。
考えている内に私は、知らず知らず彼の肩にもたれかかっていた。
そして、ふと気がつけば、ゆうの姿はない。
「神崎さん大丈夫? 気分悪くなったら、俺に言いなよ」
浩太朗君が私の肩を抱き、私の顔を覗き込みながら、そう口にする。
完全に酔っている。
しかし、私自身、さっきのコークハイがまわってきている。
理性はある。あるつもり。
けれど、体中の力が抜けてゆく。
浩太朗君にもたれかかり、彼の肩に顔を埋めるとそれ以上私は動けなかった。
気分、いい。すっごく。さっきからこの感覚。
溶けていってしまいそうな。
何故って、隣に彼が、いる。
私の肩を抱く浩太朗君が……
酔ってるんだ完全に。
わかってる。わかってるけど、でも。
いいの。今、この時だけでも。
私。最高に気分、いい……
「ねえ。浩太朗君」
その時、私はふと彼の名を呼んだ。
「ん、何……」
物憂げに彼は答える。
「つきあってる娘いないの?」
おどける口調で、完全に酔ってるフリして私はそう問うた。
「好きな娘くらい、いるでしょ」
私の髪を梳いていた彼の手がその時、一瞬、動きを止めたことに私が気付かないはずがない。
「そんなこと……どうでもいいじゃん」
彼は一言、そう呟いた。
そして、その一言だけで彼はそのまま口を閉ざしてしまった。
そうか……なんだ。
そうなんだ。
すきなこがいるんだ。浩太朗君……
酔いが完全にまわり、朦朧とした意識の中で私はそのことだけをはっきりと感じていた。