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27.告白(2) ☆

 純…… 純……


 誰? 私を呼ぶのは



「あ、純…気がついた?」

「お杏……」


 目を開くとお杏の顔。

 気がつけば、保健室のベッドの上。


 あれから、私……。



挿絵(By みてみん)



「まーったくもう! ビックリしたわよ。静かな授業中、突然何の音かと思ったら「純が倒れた!」だもんね。だからあの時、保健室に行っておけば……」

「ごめん、ごめん。でも、私だってこんなことになるなんて、思わなかったもの」


「あ、神崎さん。気がついた?」

 その時、保健の横田先生が入ってきた。

「もう、気分はいいの?」

「ええ。もう、大体」


 熟睡していたのかしら。

 体のだるさも取れて、気分はいい。吐き気も失せている。

 睡眠不足だったんだろう。

 最近、帰宅して食事を済ませると、仮眠を取って夜九時頃起き出し、深夜の二時三時まで起きて勉強しているという生活パターン。

 数字の上では睡眠時間も帳尻が合っているかもしれないけれど、こういう変則的な生活はやはり効率が悪いと見える。


「よく眠っていたようだけど、睡眠時間は足りているの? 勉強も大切だけど、睡眠はちゃんと取ること。あなた最近少し顔色が悪いようだけど、無理なダイエットなんかしてるんじゃないでしょうね。最近は拒食症の生徒も増えてきて……」

 と、先生は眉をひそめた。

 まあ、あまり無理をしないようにと言い残して、先生は再び部屋を出て行った。


「お杏。今日、ピアノのレッスン日じゃなかったっけ?」

「そうなのよ。純が起きなかったら、後でLINEしようと思ってたとこ。ほんとはちょっと話したいことあるんだけど、時間ないから。夜、電話するわ」

「何よ、話したいことって?」

「それは今夜のお楽しみ! じゃ、お先に」


 そう言って、お杏は足早に帰って行った。


 外を見ると、どんよりと重い雲が立ちこめている。

 空が暗い。

 今にも雨が降り出しそうな気配。

 早く、私も帰ろう。

 一人保健室を出て、教室へと急ぐ。

 誰も残っていないといいんだけど。

 何だか、気恥ずかしいもんね。


 そんなことを考えながら、教室のドアを開けた。


「あ、神崎さん。もういいの?」


 薄暗い教室に一人だけ残っている。


 佐田さた君……?


「うん。もう、大丈夫」

 鞄にノートを入れながら、答えた。

「さっきは一体どうしたの。ビックリしたよ。本当にもう大丈夫かい?」

「平気。保健室で充分休んだから」


 その時、私は普段とはちょっと違う彼の視線を感じていた。


 何。どうしてそんなで私を見るの。

 佐田君……。


「──────ああっ! もしかして。あれっ? でもそうだっけ……」


 突然、頓狂な声を出して最後は、顔色を伺うように佐田君を見つめた。


「あの、まさかとは思うけど。もしかして……保健室まで連れて行ってくれたのは、佐田君?」

「何、やっぱり覚えてなかったの?」


 夢ともうつつともつかない状態で、誰かに支えられながら歩いていたことはうっすら覚えているけれど、それにしても、手を貸してくれたのが佐田君だったなんて。


「まったく、君は勉強のし過ぎだよ。もっと体は大事にしなきゃ」


 彼は女子と話す時、相手のことを「キミ」と言う。

 一種独特の響きを持っていて悪くはないけど、彼の言い方はあまり好きじゃない。

 ついでに言えば、彼の妙に気障キザっぽい所も。


「じゃ、雨も降り出しそうだし……お先に」

 本当は御礼を言うべき所なのに、そう言って背を向けようとした。


「あ、神崎さん。俺、送るよ」

「えっ?! でも……」


 なに、何で……どうして、佐田君が?


「だって一人で帰るの、危ないよ。またバスの中で倒れたりしたら」

「わ、私。お杏と一緒に帰るから」


 口からでまかせを言い、踵を返した時。


「待てよ。野瀬さんはもう先に帰ったんだろ」


 後ろから右腕を掴まれた。

 ぎょっとして振り返った。


 な、何。どういうこと!? 一体!?

 佐田君……?!

 心臓の音、どくっ、どくって……

 そんな目をして私を見ないで。


「……痛い。手、離してよ」 


 掠れた声を出した。

 ぱっと目を逸らす。


「離して」


 強く振り切り、ドアへと向かった。

 その時だった。


「好きだ。神崎さん」


 すぐ耳元で彼の声を聞いた。

 

 後ろから両腕で抱きすくめられて……。


「好きだったんだ。俺、ずっと前から、君のこと」


 私の手から鞄が音を立てて、落ちた。



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