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26.告白(1)

 秋も深まり、日々は穏やかに過ぎてゆく。


 済陵祭前後からの食欲不振が、相変わらず続いていた。

 時々感じる胃痛も最近は、慢性化したような気がする。

 体重も2㎏減った。

 と言っても、下半身の太さは何ら変わらず。

 胸が薄くなって、ウエストの肉がちょっとばかり落ちた程度。

 そう痩せたという実感はない。


 けれど、お杏に言わせると、頬の辺りがやつれたようですこぶる不健康に見えるのだそう。

 言われてみると、そんな気もする。

 特にポニーテイルにする時くっきりと出る顎のラインは、確かに尖っているというより、窪んでいるという形容の方が正しいように思える。


 神経性の胃炎なのかもしれない。

 済陵祭前はクラス参加の件で気をもみ、終われば終わったで、色々ごちゃごちゃと神経の休まる暇がない。

 その上、試験の重圧感も重なって、小心者の私はすっかり参ってしまったとみえる。

 何とも情けない話ではある。


 中間考査は終了したものの、すぐに「ST」と「進連協模試」が待っている。

 STとは、「セイリョウテスト」との略とも、「ショートテスト」の略とも言われている、その語源は済陵に勤務して十年以上の古参の教師にもわからないらしい済陵独自の試験。

 主要三教科中、大抵は二教科行われ、実力・定期考査・模試同様、上位者一覧が職員室前に張り出される。

 そのSTが終わっても、次は日曜日を返上しての模擬試験ときている。


 百年の歴史を誇り、元男子校のバンカラ精神と生徒自治による自由な校風が特色の済陵高生としてはしばしば、ここが進学校と呼ばれる所であるということを忘れがちだけど。

 しかし教師の方は、「四年制高校」とも揶揄される汚名を返上すべく、模擬試験だ、課外授業だと躍起になっている。


 受験勉強らしいことはまだ何一つやっていない。

 まだ大学のことなんて考えたくなかった。

 私は今の生活を生きるのに精一杯。

 十七歳には十七歳の時にしか出来ないってことがある。

 高二の内から大学受験なんかに束縛されたくない。

 けれども、それを完全無視してしまう度胸は私にはないってことも、自分が一番よく知っている。

 傍から見れば、結局私は「優等生」なんだろう。

 そんな自分は「コンプレックス」以外の何者でもない。


 自由に、飛びたい。

 色んなこと体験してみたい。


 そんな欲求を内に秘めながら、一方で胃痛に悩まされながらも、とりあえずは中間考査の大失敗を取り戻すべく努力を続けている頃。


 それは起こった─────── 



 ***



「ねえ、純。ちょっと顔色悪いわよ」


 六時限目の数学が始まる前、女子更衣室から教室へと戻る途中にお杏がそう言った。


「う、ん……。気分悪いの、何だか」


 五時限目のロングホームルームの時間は、久しぶりにレクリエーションで、男子も女子も屋外コートでバレーボールだった。 

 朝から何となく調子の悪い日で見学していれば良かったのかもしれないのに、最近体育の授業でやるバレーボールが異常に盛り上がるものだから、つい参加してしまった。

 けれど、終わってみるとどっと疲労感が出てきて、何だか気分がとにかく悪い。


「保健室行った方がいいんじゃない?」

「ううん、いい。次、数学だもの。後からノート借りて写すの面倒だし。それにその後、体育でしょ。バレーせずに帰れるもんですか」


 まあ、後二時間。

 なんとかなるだろう。

 軽い吐き気すら感じながらも、笑ってみせた。



 ***



「次、問題当たってる人。前へ出て解いて」


 先生の解説が一通り済んで、生徒が黒板で問題を解く。

 数学は席順で公平に当たっていくから、誰が何の問いを解くかは前もってわかっている。

 今日は私にも順番が回って来ているから、ノートを持ってすぐに席を立とうとした。


 え、何……


 立った瞬間、くらっときた。

 周りがモノクロ。

 目を凝らすけど、ぼやけて、曲がって……


 ガタン!!


 あ、倒れちゃったんだ、私……


 ああ、みんな騒いでる。

 大丈夫よ、そんな……私……


 それきり意識が遠のいていった。

 ───────────・・・






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