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2.打ち上げ(1)

作中、高校生の飲酒・喫煙場面が出て来ます。未成年の方はくれぐれも真似なさらないで下さい。

 ドアを開けると、薄暗い室内。

 その闇を照らす派手なライトと装飾に目を奪われる前に、耳をつんざくような音量の音楽にまず圧倒された。


「いらっしゃいませ」

 と、若い黒服のウエイターが待ってましたとばかりに皆を案内する。

 どうやら一番奥の個室が予約してあるらしかった。


 部屋に入ると、男女入り混じって座るように徳郎が言うが、私はお杏と二人、中央のテーブルに並んで座ることにした。

 そして私は、なんとなく周りを見回している。


 この打ち上げの集合場所は百貨店「白屋しろや」前だった。

 そして、6時半の集合時間には既に全員が顔を揃えていた。

 女子は少なく十人に満たない。

 男子もクラスの半分の十五人くらいだ。

 しかし、男女共にその顔触れはなかなかのもので、役者は揃っているようだった。


 こんな場に私がいてもいいのかしら……なんて想いが浮かんできたりするのだが、そんなことを口にすればまたお杏に呆れ顔をさせるだけだとわかっているので、私は何食わぬ顔を装い、席に座っている。

 けれど、やはり気分は今一つ落ち着きを欠いているのかもしれなかった。妙にそわそわとしている自分を私は感じている。


 それにしても、ここ「HAPPYハツピーCHEKINチキン」は、"あ軽い"ムードに満ち溢れている。

 若い連中が飲む所なんてどこもこういう雰囲気なんだろうか。

 そんなことを思いながら私は、周りに視線を遣っている。


「みんなグラス、持った?!」

 早々と水割りを作っていた徳郎がグラス片手に立ち上がると、そう声を張り上げた。

 その声で私は、お杏の作ってくれた薄いコークハイを手にする。


「それじゃ、今日の俺たちの大成功を祝して」


 乾杯……!


 威勢の良い徳郎の声が響くと、連鎖反応のように次々と乾杯の声が上がり、皆がグラスを重ね合う音がした。

 次々と料理の皿も運ばれてきて、最初こそなんとなく硬かった皆の雰囲気も見る見るうちに和らいでいく。


「純、どうしたのよ。早く食べないと料理なくなっちゃうわよ」

 五月の体育祭の応援団の打ち上げを一年と二年、既に二回経験済みのお杏は、場慣れした様子でそう言うとピザやフライドポテトを小皿に取り分けてくれた。

 最近何故か食欲がない私は、今日もあまり食べたくはなかったが、お杏の気遣いを無にするのはなんなので一応箸を取ってみる。


「あ……吉原よしはら君、煙草」


 その時、私は手を止め、ついそう声に出してしまっていた。


「他の奴らだってみんな吸ってるじゃん」

 私の言葉が聴こえてしまったらしく、彼は訝しむように私を見た。

「うん、まあ。そうなんだけど。でも、吉原君まで吸うなんて、思わなかった」

「何? 俺、そんな"マジ"に見えるって?」

「やだ。そんなんじゃないけどさあ」

 そんな会話の遣り取りをしながら私は、この店に来て初めてやっと笑みを漏らしていた。


神崎かんざき。これ、飲めよ」

 一口飲んだだけで氷が溶けてとっくに水の様になってしまっている私のグラスを見たのか、吉原君は、新たに水割りを作って私の前に差し出してきた。


「あ、ごめん。私、飲めないから、いい」

「そう言わずに一口くらい飲んでみろよ。それとも、俺の酒は飲めないって?!」

 などと、彼が絡んでくる。

「ちょっと、吉原君! 酔ってるでしょ?!」と言おうとした矢先、

「そうよ、純。さっきから全然飲んでないじゃない。グラス一杯くらい飲んでみなさいよ。その程度じゃ酔ったりしないから」

 と、お杏まで口を挟んできた。


 二人の勢いに押されて、結局私はグラスを手にした。

 恐る恐る口をつける。

 ごくりと一口飲むと、途端にアルコール独特のきつい味が口中に広がって、とてもじゃないがやっぱり飲めやしない。

 顔をしかめてしまった私は、軽く首を横に振りながらグラスを返すと吉原君が笑っている。


「何? なんかおかしい?」

「いや、別に。ただ」 

「ただ、何だって言うの?」

「神崎、ほんとに酒弱いんだなあと」


 笑うように、いや、半ば呆れるようにそう言われても私は返す言葉がない。


 そして。


 いつの間にか料理の皿はほとんど空で、テーブルの上はすごい有様を呈している。

 座の盛り上がりようと言えばかなりのもので、ちょっとした乱痴気大騒ぎだ。


 だいたい男子なんて、最初から水割りをロックかストレートで調子に乗っていくもんだから、ほとんどどうにかなっている。

 女子の方も適当に酔いがまわっているらしく、ふと隣のテーブルを見ると、男子に肩寄せたりなんかして、にわかカップルも数組できている状態だ。


 そんな中、吉原君もお杏も席を立ち、テーブルを移ってしまったので、私は一人取り残された形になった。

 しかし、一人でいることはさほど気にならず、むしろ私は落ち着いて皆の様子を眺めていたりなんかする。


 それにしても、すごい。ほんとに。

 男子で素面の人間なんていないんじゃあないの。

 あーあ、徳郎と美結妃みゆき

 仲良くできあがって!


 しかし────────


 その時だったのだ。


 或る情景に私の目は、釘付けになってしまった。 


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