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16.もうひとつの放課後(1)

「純ちゃん。まだ帰らないの?」


 放課後、窓際の席に座って外を眺めていたら、舞が教室に戻ってきてそう言った。

「うん」

 視線だけを僅かに舞へと向け、答えた。


「……そんな顔しないでよ。私、落ち込んでいやしないんだから」

 視線を逸らしながらも、笑うようにそう言った。

「大丈夫よ、もう。舞たちもわかったでしょ? あの馬鹿馬鹿しい真相」

 本当に馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない。


 あの時─────── 


 部屋の隅のテーブルに浩太朗君と私、二人して座っていた時。

 大体、肩を抱き合う程、酔っていたこと自体を非難されれば弁解の余地はないものの、でも、あの時は他の皆も似たようなもので、それは沢木君の写真を見れば、一目瞭然。

 あの時、浩太朗君が「気分が悪くなったら、俺に言いなよ」と私の顔を覗き込んだその時、彼の額と私の額がひっつくほど接近していたのは確かなことで。

 しかも、彼の手は私の肩にあり、私は私で正体不明の様にぐったりと彼にもたれかかっていたとしたら……

 元々、薄暗い室内。

 その一層暗い隅のテーブルで、かなりそれっぽい「ポーズ」だったんだろうということは、容易に想像がつく。

 それを見た皆にしても、相当酔っていたとしたら、尚更……ということだ。


「ところで。何で戻ってきたの?」

「うん。明日の物理、問題当たるの、ころっと忘れちゃってて。教科書とノート忘れて帰るとこだったの。ダメね。いっつも置いて帰るもんだから」

「恥かかずに済んだわね、明日」

「どうだか。解けるかどうかわかんないもん」


 そう言いながらノートを鞄にしまうと、

「帰らない?」

 と、上目遣いに舞が尋ねた。


「ううん、いい。試験前てことは舞、彼と一緒に帰るんでしょ。サッカー部のキャプテンとしては彼女と大手を振って帰れるなんてこと、こんな時しかないんだから。そこにお邪魔虫したら、私、この先、松川君まっくんから口聞いてもらえなくなるわ」

 いと真剣にそう言う私を見つめながら、舞がホッとしたように笑った。


「じゃ、ね」

「うん。ばいばい」


 手を振った後、再び窓の外に目を遣った。

 ぴしゃりと微かにドアが閉まる音がした。


 舞は……「お嬢ちゃん」だからなあ。

 舞が出て行った後にぼんやりとそう思う。

 苦労知らずというか、人を疑うことを知らない無垢な子なんだ。

 それが舞の何よりの魅力で、そこに私も惹かれているけれど、ほんの時々、そう今日みたいな時には。「お子様」向けの笑顔が少しばかりしんどいなと、正直思う。


 私は人間ができていないから。


 舞が来た時にはまだ数人残っていたのに、いつの間にか私一人になっていた。

 普通ならとっくに帰っている時間。

 ましてや、中間考査目前の放課後。

 けれど、まだ帰る気になれない。動けない。


 遠くを眺めると、久しぶりに晴れた空。

 夕焼けになって。

 夕陽が差し込むけれど、教室の向こう半分はもう薄暗い……


「帰ろかなっと」


 わざと声に出して、言ってみた。

 ゆっくりと鞄を取る。

 立ち上がったその瞬間、勢いよくドアの開く音がした。


 誰?!



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