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12.思惑の放課後(1)

「守屋君」


 思い切って後ろからそう呼んだ。

 振り返る。


「何?」

「この前は本当にごめんなさい。それからこれ……ごめん」


 返すというつもりが、何故か「ごめん」という言葉を口にして、そのまま二枚の千円札を差し出した。


「何、それ」

「この前、出してくれたでしょ。「HEVENヘブン」の」

「ああ、あれか。いいよ、そんなの」


 素っ気ない言葉。


「そんなこと言わないでよ。私としても心苦しいから」


 無表情。

 それがいつもの彼なのに、私は既に動揺している。


「……まったく。神崎さんらしいよ」


 だからそれはむしろ、思いもかけぬ言葉だった。


「マジメ過ぎる、ていうかさ。男が女の子の為にだしたカネなんてほっときゃいいんだよ。第一、こんな風に返されても、はいそうですか、て受け取れるはずないだろ。男が」


 低く、囁くように、諭すような守屋君の声。


「ま、受験勉強もいいけど、そんなんじゃ苦労するぜ」

「守屋君」


 部活のジャージが入っているらしいスポーツバッグを右手から左手に持ち替えて、そのまま背を向けた彼に思わずそう声をかけていた。

 振り返った彼の顔を見ながら、けれどこれ以上、何も言うことなんて見つからない。


「ガッコウで、「過去問【男とのつきあい方】」なんて授業、やったらいいのにな。もっとも、さしもの神崎委員長も、こればっかりは赤点という気もするけど」


 そう言うと、呆気に取られている私を残して、彼はさっさと教室を出て行った。



 ***



「ジューンちゃん! 何話してたのかなあ」


 振り向くと、意味ありげな顔をして舞が立っている。


「何って、お金返そうとしただけよ」

 殊更事務的に答えたものの、もし舞が声をかけなかったら、私は馬鹿みたいにずっとその場に突っ立っていたのかもしれない。

「それだけえ?」

 まだ他に何かあるでしょ、とでも言いたげな舞。

「何が何でも私と守屋君をくっつけて、話の肴にしたいようね、舞」

「いやあ、そんな冷たい言い方しないで! 純ちゃん」


 ちょっと嫌味っぽく言ったら、舞がシナを作るようにすり寄ってくる。

 舞の場合、それが「冗談」とも「マジ」ともつかないところが考えようによってはブキミでもあるけれど、不思議と「作っている」というような悪印象は与えない。


 結局。可愛い、んだよね。舞は。


 実際、我が済陵高の男子の人気をお杏と舞が二分していると言っても過言じゃない。お杏は、とにかく文句なく「美人で大人っぽい」雰囲気が大いに男子の気をそそっているわけだけど、舞の場合、それはとにかく「可愛い、守ってあげたい」の世界が非常にウケている。


 要するに、「大人の女」対「妹みたいな女の子」。


 どちらを支持するかで、その男子の好みがわかってしまうという。付け加えるならば、お杏派にはシスコンが多く、舞派にはロリコンが多いというまことしやかな噂も、至極もっともなハナシだと思う。


「ベツにね。私達、純ちゃんをからかってあそぼーと思っているわけじゃないのよ」

「それはそれは、有難きお言葉痛み入ります」

「あ、信じてないわね!ほんとよ。ただ……」

「ただ、なんなの?」


 舞独特の大仰な喋り方から急に口ごもってしまった舞を見て、私もついマジに聞き返した。


「ん……。みんなと話してたんだけど。守屋君のこと」

「守屋君が何?」

「ちょっと意外だったってこと。だって、一昨日はなんかやけにカッコよくみえたのよね、彼。美結妃なんてもう、おーさわぎよ。彼があんなにカッコイイってことに、今まで何で気付かなかったのかしらって。美結妃、妬いてるわよ。純ちゃんのこと」

「妬いてるぅ?何で」

「なんでって、そりゃあ……。こんな風に言うと純ちゃん、また怒りそうだけど、でも。あの時、「HEVEN」で守屋君とふたりしていた時なんて、なかなか絵になってたんだから。あの時は、そーか、実はそういうカンケーだったのか、ていう話で持ち切りでしかも誰も疑わなかったもの。ねえ、やっぱり、そうなんでしょ?」


「……っとにもう。勝手にしてよ」


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