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1.プロローグ 〜物語はこうして始まる!? ☆


挿絵(By みてみん)


【あらすじ、ご覧になられている(二重敬語)→ご覧になっている】「ねえ、大成功だったわよね? うちのクラス」


 その時、おきょうは鏡に向かって話しけるように、そう言った。


「そうね……確かに。あんな盛り上がるなんて、全然思ってなかったわ」


 脱ぎ捨てた制服をたたみながら、私はそう言葉を返していた。


「ほんとに大変だったわねえ、今度の文化祭。一時はどうなることかと冷や冷やしたわよ」

「それを言うなら私の方よ。野村のむら君なんてとうとう最後まで、何にもしてくれなかったしさ。まったく」

「そうよねえ! 彼もクラスの代表委員長なのに、面倒なこと全部、じゅんに押しつけちゃって。これだから、男子なんてものは。……純。ねえ、どうかしたの?」

「え、あ……何?」

「何じゃないわよ。さっきから心ここにあらず、て感じね」


 鏡の中から私の方へと視線の向きを変えたお杏は、「具合でも悪いの?」と、私に問いかけた。

 私は慌ててかぶりを振る。

 しかし、一つ溜息のような息を吐くと、ゆっくり口を開いた。


「なんか……なんかね。妙に感動だったなあ、なんて」

「感動?」

「そう。だって、最初あんなに無関心でバラバラだったみんなが、最終三日間なんて必死で準備してたでしょ。前日なんて夜9時まで残ってさ。で、本番の文化祭当日になってみれば、これまた予想以上の大盛況で。……なんか。何か、すごい、燃えたな。なんて、思ったりして」

「で、燃え尽きちゃったわけね。純は」


 そう言って、お杏は半ば呆れた目をしている。

 そんなお杏を前に、私は再び言葉を続けた。


「何だかこうして終わってみると。無事、成功してほんとによかった、て気持ちは勿論なんだけど。でももう、あんな一つのことにクラス一丸になって打ち込んで盛り上がるなんてことないだろうなあ、て思うと。淋しくって、ね」


 そう言うと私は、心持ち目を伏せた。


 今日、十月十四日(日)。

 今日この日は、我がせいりょう高、秋の文化祭「済陵祭」の最終日だった。

 クラス委員だったばっかりにクラス参加の出し物の件で大いに苦労した私だが、それも終わってみれば、やったな!という達成感で一杯だ。

 出し物は、無料のゲーム店「よろずや・くぼじい」。店名は、クラス担任の久保田くぼた先生から頂戴した。

 お客さんに輪投げやダーツ、射的などで遊んでもらい、手作りのしおりやフェルトのリボンなどの景品を渡すという質素な出し物だったが、予想外に盛況で、文化祭が終了する前に全ての景品がなくなった。

 その成果を、クラス全員で分かち合い、心から喜んだ。

 しかしだからこそ、今日で全てが終わるのかと思うと、妙に切ないような、味気ない想いを今、私は味わっている。


「ちょっと、虚脱感。て、わけ」

 そう呟いた私に、お杏は、

「純の気持ちはわかるけど。でも、燃え尽きるのはまだ早いわよ」

 と、その言葉を投じてきたのだ。


「むしろ今からが本番よ。これが終わらなきゃ済陵祭が終わったなんて、誰も思いやしないんだから」

「何よ? これって」

「打ち上げよ、打ち上げ! 決まってるじゃない。その為に今、こうして用意してるんでしょ!」

「そうか。そうよね。打ち上げ、かあ」

 お杏の言葉に思わず相槌を打つ。


 何かと言うとすぐ悪乗りし、羽目をはずしてしまう済陵高生は、二年生ともなれば体育祭や文化祭の度に決まって「打ち上げパーティー」を企画して、酒だ煙草だと大騒ぎするのがもはや常となっている。

 御多分に漏れず我が二年一組も、男子は徳郎とくろう、女子はけいがクラスを仕切って、今夜の打ち上げを決定している。

 それに参加する為に、済陵祭が終わった後、お杏のマンションに寄って私服に着替え、準備している最中なのだ。


「でも、私。全然飲めないからなあ」

 しかし、昼間以上に意気揚々としているお杏とは裏腹に私は今一つノリが悪い。

「なんて顔してんのよ、純。飲めないなら飲めないなりに雰囲気を楽しんだらいいじゃない。今日のクラスのムードなら、きっと盛り上がるわよ」


 そう言うとお杏は立ち上がって、全身を姿見に映して総点検を始めた。

 そんなお杏の姿を私は見るともなしに見つめている。


 黒のレザーのミニスカを完璧に、且つ上品に着こなしている。

 薄くメイクを施したお杏は、いつも以上に更に何倍も大人びて見える。

「済陵のお杏」こと「野瀬のせ杏香きょうか」と言えば、済陵生は無論のこと、近隣の他校生にもまで知れ渡っている存在だ。

 その類稀な美貌。

 ただのコーコーセイをやらせておくには惜しい素材だと、誰もが思っているに違いない。


 そういう言わば「綺羅の存在」であるお杏とこの私の組み合わせが、傍には一体どう映っているんだろうと思ったことがないわけではない。

 しかし、だからといって、妬みやコンプレックスという類の負の感情は不思議と持ったことがない。

 羨ましくないと言えばそれは嘘になるが、私にとってお杏はかけがえのない一番の親友だから。


「そろそろ行きましょうか。もうあんまり時間ないわ」

 小ぶりのシルバーラメのクラッチバッグを持ってお杏は、私の方を振り返りながら言った。

「うん。あ、ちょっとだけ待って」

 大きな鏡の前に今度は私が立つ。


 アイボリーの長袖タートルネックの上に、胸元がレース網のフューシャピンク色のAラインチュニックワンピを重ね着して、グレーのレギパン姿の自分がそこに映る。

 さりげなく意識しているとわかる恰好かもしれないが、そこは女の子だから仕方がない。

 男子はどうかしらないが、女子は皆きっとキメてくるだろう。恥はかきたくはない。


 鏡の中の自分を見つめながら、髪を手で梳き、「CANMAKEキヤンメイク」のごく淡いローズピンクのルージュをひいた。


本作は、2016〜2017年に投稿した「十七歳は御多忙申し上げます」に「番外編」をプラスした【完全版】です。


表紙絵は、「汐の音」さまに描いて頂きました。


汐の音さま、素敵なイラストを本当にどうもありがとうございました!

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