番外編「おいなりさんと三本勝負?」
藤原有さん作「それは私のおいなりさん〜嫁いで来たのは最強に可愛い神様でした〜
」とコラボさせていただきました!GW特別編、お楽しみください。
これは、とあるパラレルワールドのお話。
°˖✧◇✧˖°
「うーん、やっぱり外国は空気から違いますね!」
「確かに。日本は初めて来た」
メインストリートの抽選くじで、見事に一等ペア旅行券を手に入れたイノセント。本当は四等の食器用洗剤が欲しかったのだが、まあ嬉しくないといえば嘘になる。誘う相手も居ない中、仕方なくバーミリカを同行させた次第だ。居ない間に何が起きるかも知れたものではないし。
空港からしばらく。交通機関を利用して辿り着いたのは、趣のある神社だった。東京スカイツリーだとか、富士山とかに行きたかったイノセントに対し、クークルマップで行き先を適当に決めたバーミリカは断固として譲らなかった。せっかく当てた旅行も見事に振り回されている。
弾む足取りで石段を登るバーミリカと、それを追うイノセント。その先から、段々と男女の話し声が聞こえてきた。
『尋、どうじゃ見てみよ! 我ながら綺麗に出来たと思うんじゃが』
『おお、確かに。凄い凄い』
『えっへん! ……照れるのう』
(凄い甘い雰囲気がして来た)
これがジャパニーズリア充、と横に反れた考えでイノセントが顔を曇らせる。こんな森厳な空気でも見せつけてくる奴らは居るのか。縁結びの神社とは聞いていたがいや縁の結ばれようが凄くないかと。
一方で、先に男女を目視したバーミリカは一気に顔を明るくさせたようだ。大袈裟な素振りで口元を覆っては、小さな歓声を上げた。
「狐の耳に、巫女服なんて……これがまさしくクールジャパン、サムライ!ニンジャ!わあ、すっごーい!」
「バーミリカ落ち着いて。サムライとニンジャは絶滅してる」
箒を片手に、嬉しそうに微笑む女性。年齢としてはイノセントより若く、バーミリカよりは上だと思われる。重要なのは彼女の装いだ。紅白の巫女服は神社ならではだと納得できるが、金髪ロングと煌びやかな碧眼、極めつけの狐耳。間違いない。イノセントは一人、喉をゴクリと鳴らす。
(クールジャパン、これがコスプレってやつか)
流石と言うべきか、クオリティが高すぎる。まるで本物だ。生憎ここらにはイノセント一行と男女しか居ない為、思い切って話しかけてみることにした。
「あの、すいません」
『えっ、何この人達。外人さん?』
『そうみたいじゃな。何を言っているのかは分からないがの』
外国語で返されて、イノセントは一瞬戸惑う。ハッとしてスマホを取り出せば、翻訳サイトを頼りに言い直した。
『コンニチハ、スイマセン』
『あっ、こんにちはー』
『にしても珍しい参拝者じゃ。そなたらの縁でも結びに来たのかえ?』
通じたようで一安心。イノセントが話を続けようとすると、隣に居たバーミリカの影が動く。彼女は狐耳コスプレイヤーに近づくと、遠慮なく耳を揉みしだき始めた。
『ひゃああっ!?』
「うわあ、もふもふですね!凄い、本物みたいっていうか……えー?」
『なっ、何をする無礼者っ、んんっ!』
『いっ、いなりっ!?』
頬を赤らめては小さく喘ぐ女性__どうやら名前はいなりというらしい__に、男達二人は思考を停止させる。イノセントは思わず目を逸らし、尋と呼ばれていた日本人は手で目を覆いながらも隙間からバッチリ見ていた。
バーミリカはしばらく狐耳で遊んだ後、いなりの胸に視線を漂わせる。メロンのような双丘を確認した途端、輝いていた瞳は急速に死んでいった。そのテンションの急な上下にビクリとしたいなりをさておき、くるりと尋の方へ振り返る。おもちゃを替えたばかりの子供のように、にっこりと笑顔を貼り付けた。
「こちらの方も何かのコスプレなんですかね。モブEとか?」
『えっ、ちょっ、何何何』
「バーミリカ。相手をあまり困らせちゃ、」
『もー!なんなのじゃおのれえええ!尋は妾のものなの!』
バーミリカが尋に触れようとした矢先、彼の腕をぐいっと引っ張ったいなり。そのまま腕にギュッと抱きつき、頬をぷっくりと膨らませた。尋はといえば、解放されている方の手で悩ましげに額を抑えている。
『あの、いなりいなり。胸が腕に当たってるんだけど』
『……わざとじゃ』
『小悪魔な一面とかくそ可愛い……』
(いや心の声だだ漏れすぎやしないか)
ちょっと羨ましく思うイノセント。バーミリカはそんな彼といなりの胸を交互に見て、面白くなさそうに眉を寄せた。神社の砂利を踏みしめて、びしりといなりを人差し指で示す。
「……ふ、ちょうどいいです。暇なので勝負でもしませんか!」
「いやバーミリカ、日本語で言わないと通じないから」
対するいなりは何かを察知したのだろう。ハッと目を瞬かせると、神妙な面持ちで思考を一巡させる。
(この童、もしかして……尋を狙っているのか!?)
『ええい!尋は絶対渡さん!なんでも受けてたってやるのじゃー!』
「言葉の壁が奇跡的に崩壊したね」
『ちょっと待って……え何これどうなってんの、え?』
困惑する尋はさておき、いなりとバーミリカはそれぞれ一歩前に進み出る。その間にはイノセント、おそらく通訳係にでもなるのだろう。少し諦観したように、闘志に燃える2人の女を見下ろした。
いなりがくいっと口角を上げる。
『三本勝負じゃ。内容を先に決めるが良い!』
「……って言ってるけど、どうする?」
「望むところです!」
°˖✧◇✧˖°
『腕相撲じゃと?』
なんともまあ平和的だなと、イノセントは腕を組んで見守る。なお、尋は話題に着いていくのがワンテンポ遅れているらしい。少しばかり所在なさげな顔で、イノセントと並んで立っている。
バーミリカは1つ頷くと、説明し始めた。
「お互いのパートナーに腕相撲をしてもらいましょう」
「おいバーミリカ。何俺たち巻き込んでんの」
日本人二人は外国語で話すイノセントたちに不思議そうな顔を向ける。カタコトで説明し終えれば、驚いたように目を瞬かせた。
『俺がやるの!? 二人でやる流れじゃなくて!?』
『尋……出来ないかえ?』
潤む瞳の上目遣い。まんまと頷いた尋に、心做しか同情を覚えたイノセント。それはさておき、二人は向かい合う。
急遽持ってきた古い机に肘を乗せ、男達は手を握りあった。イノセントはこの状況を楽しむかのように口角を上げているが、尋は口元を引きしめている。
いなりとバーミリカが、一斉に叫んだ。
『「よーい、始め!」』
『ふんっ……あっ』
「楽勝」
あっさりと倒れてしまった尋は、そのまま机に突っ伏す。いなりは急いで夫の元に駆け寄り、バーミリカはその場でイノセントを見つめていた。
『尋〜!無事か!』
『無事だけど……無事だけどむしろ俺手加減されてました……?』
『ホドホドダヨ』
『くっそー!』
「お兄さん」
「何」
「悪役みたいでなんか……」
いや喜ばないのかよ。イノセントが声もなくバーミリカをデコピンしたところで、第1回戦はケリが着いたようだ。最初の勝者は、バーミリカである。やったのはイノセントだけど。
いなりは引き続いて、第2回戦の種目を言い放つ。
『次は____!』
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「なるほど、だから台所をお借りしてるわけですか」
『調理器具はどれを使っても良い。どちらがより優れた愛妻弁当を作れるか勝負じゃ!』
『あ、愛妻かー』
幸せそうに笑う尋を、内心羨むイノセント。当てつけかこれはジャパニーズリア充ならではの悪癖かそうかそうなのか。無性に殺りたくなった想いは最奥に忍ばせて、笑顔で二人の女性を見守る。
『尋のお嫁さんは妾以外有り得んからの!妾が勝つに決まっておる!』
『イイ奥さんダネ』
『あー、ありがとうございます……?』
いなりはふんわり卵焼きを焼いて、切り抜いた人参やらかまぼこやらを添えているようだ。実にしっかりとしており、また作っている様子も見ていて微笑ましい。
「愛妻弁当、作り終わったらお兄さんが食べるんですよね」
「ああ、まあ?」
「じゃあ遊べるなあ」
「は」
不穏な言葉を残し、作業に集中するバーミリカ。イノセントはひしひしと不安を感じるも、手出し無用のこの場ではどうすることも出来なかった。変な汗も拭かずに、静かに待機する。
やがて出てきた2つの弁当箱。重箱は尋のもとへ、ピンクの小さな弁当箱はイノセントのもとへ届けられる。
『すっご!めちゃくちゃ豪華!』
『愛する尋の為に頑張ったのじゃ!お口に合うといいんじゃが……』
髪の毛の端っこを弄びつつ、チラチラと夫の食事姿を見やるいなり。尋はしばらくハート型の人参を咀嚼していたが、やがてこれでもかという程に笑って顔を上げる。
『めっちゃ美味い。流石俺の嫁!』
『ま、まあの! ……えへへ』
何気ないやり取りも新婚さながらで、イノセントは目を細める。
(微笑ましいけど羨ましい)
「お兄さん、開けてみてください!」
「うん。で、何これ」
「ジャパニーズライスボールです、味付けはエクストリームバーミリカ」
「エクストリームバーミリカってなんなの」
端っこから梅干しの一部や鮭、海苔におかかなどが覗く一つの大きなおにぎり。お米が白いわけでなく、どす黒い茶色だ。あとなんか持った感じジャリジャリしている。
「食べたくねー……」
「いいから、はいあーん!」
バーミリカによって口の中におにぎりが突っ込まれ、むせ返ったイノセント。口の中が虹色になる気分だ。おにぎりの具、醤油を始め調味料オールキャスト。ジャリジャリしていたのは固まっていた砂糖やら塩だったのか。勢いで飲み込んだ後、彼は一目散にトイレへ駆け込んでいく。それを見つけたいなりは、ハッとしたように顔を青ざめた。
『あーんし忘れたのじゃ!』
『そういえばそう……つか、これはいなりの勝ちじゃない?』
「あっ、勝負だって忘れてた」
第2回戦の勝者はいなり。愛の力かも?
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『さて。最後の対決はどうしたものかのう』
「くすぐりあいっことかどうです?」
『って言ってますケド』
『いやそれその子有利じゃん!』
上から、いなり、バーミリカ、イノセント、尋の順。今まであまり活躍のなかった尋だが、ここで一石を投じた。
『てか、なんで勝負してんですっけ?ちょっとよくわかんないんだけど』
『尋!そなたがあの童に取られちゃいそうだったから妾はー!』
いなりの泣きそうな声に、尋は心底驚いて目を瞬かせた。それから困ったように眉を下げ、いなりの頭を撫でる。
『そもそも俺は取られない。大丈夫だからいなり』
『ひ、ひろぉ……っ!』
涙目になったいなりは、そのまま尋に抱きついた。突然現れた尻尾をぶんぶんと振って、袴の中がもそもそと動く。それを見たイノセントは、ギョッとした。
「何あれ。最近のコスプレは手が込んでる」
「違いますよお兄さん。彼女は本物です」
「え」
気づかなかったんです?としたり顔で隣の彼を見上げたバーミリカ。そのまま歩き出すと、仲良く床に倒れ込む夫婦に笑いかける。
「それじゃ、止めにしましょうか。また今度ということで!」
『……ト、言ってマス』
『え、あー、了解です』
『尋が居るならそれでいいのじゃ!』
むふん、と尋の胸元に頬を擦り寄せるいなり。周りの目を気にしない姿勢に、バーミリカは密かに好感度を上げた。一瞬口元を引き締めるも、また少しだけ口角を上げる。
『今度は、私たちの国で会いましょう』
『そうじゃな!待っておれ』
°˖✧◇✧˖°
「バーミリカ」
「なんです?」
ホテルへの道中、沈みゆく太陽を背にイノセントは不服そうに言い放った。
「日本語話せるんじゃん」
「幼い頃にちょっぴり習ったんです!でもほとんど話せないんですよ?」
嘘つけ、と白々しい視線を向けてから、彼はそっと息を吐いた。滲む夕焼けに顔を背け、眩しさに目を細める。
「日本はサムライとニンジャが絶滅してるって聞いたのに」
「カミサマは居るんですね!ニッポン万歳!」
イノセントの言葉を引き継いだバーミリカは、楽しげに笑いながら先へ進んでいく。青年は少女の後を追いつつ、ふとスマホの画面を確認した。
今日は月曜日か、と。




