19.「当然でしょ」
「ほら、こっちこっち!」
「はいはい」
スキップでもしそうな勢いで先を往くジャスパーの後を、バーミリカは呆れ気味に着いていく。下った階段は意外に長い道のりで、この一軒家は改造してあることを悟った。横に面積が無い分、上下が大きいようだ。段々と地表の陽気が影を潜め、ひんやりとした微風がバーミリカの頬を撫でつける。ぞくりと鳥肌を立たせ、ジャスパーの鼻歌を右から左に聞き流した。
やがて例の場所に辿り着いたらしい。ジャスパーが立ち止まったと同時に、バーミリカは彼の横から覗き込んだ。なんだか重々しい、銀行などで使われていそうな厳重な扉が目の前にある。
青年は扉に付属されたロックモニターの前に立つと、慣れた手つきで暗証番号を打ち込む。自動で開いたその先は、闇に包まれている。ジャスパーはその闇に踏み込むと、バーミリカの方に笑いかけて手招きをする。
「おいでよ! 大丈夫、死体は動かないからね!」
「当然でしょ」
やれやれと悪態をついて、バーミリカは一歩踏み出した。
しばらく立ち往生してる間に、パチリとスイッチの音がした。どうやらジャスパーが証明をつけたらしい。何回か光が瞬いた後、蛍光灯に明かりが灯った。部屋の内部がはっきり見える。
ガラスケースが並んでいた。人骨を丁寧に体の形に並べたものから、まだ新しいであろう、腐敗の少ない無傷の体もある。ただ、皮膚に浮かび上がっているものからして、おそらく服毒死か。目を細めた少女の手を、ジャスパーは遠慮なく唐突にひっ掴む。考えが止まり動揺に瞬きするバーミリカを、こっちこっちと引きずっていった。奥の一際高い位置に置かれたそれを、胸を張って自慢する。
「あれが、僕の妹さ」
「なるほど……ボロボロですね、服もそのままだ。ガラスケースの蓋を開けたらとんでもない死臭がしそうですよね」
「家族の臓器は売りたくなかったからね僕。自称シスコンだし!」
己の妹の屍を前に、こんなにうきうきとする奴は今まで居ただろうか。ふと気になることをいくつか尋ねる。
「妹さん、随分と小さいですね。いくつだったんです?」
「確か享年11歳かなあ。僕の5つ下だから、当時僕は16歳だった。ちょうど今の君くらいだね」
「……死因は?」
「イノセントが殺しちゃった」
え、とバーミリカは目を見開いて青年を見る。糸目の彼は表情が乏しいようで、あまり感情が汲み取れない。どこまでも変わらないテンションで、頬をかいて笑う。
「へへ、僕とイノセント……あと、君が話してくれた警官のリオ。僕ら同じ学校に通っていてね。ハイスクールで知り合ったんだけどさ、凸凹な癖に妙に気が合っちゃって、すごい仲良くなったんだ」
でも、とジャスパーの声が弱まる。心做しか、苦々しいことを思い出しているように見えた。妹だったそれを愛おしそうに見つめてから、そっと続ける。
「ちょっと色々あってね。イノセントは沢山人を殺して、リオはそれを知らずに犯人探し、果てには警官にまでなっちゃったわけなんだけど。それで、僕は殺された妹を見て思っちゃったんだよ。思えばそれが始まりだったんだ、だって____」
ジャスパーの頬が感激の紅に染まり、目を開いて唾を飛び散らしながら天に叫ぶ。
「僕の妹はあんなにも美しかったンだからッッッッッ!!!」
バーミリカはただ口を噤む。狂った奴だ、と思った。
(。・_・。)<クルッタヤツダ




