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週末ゆるふわスプラッタ。  作者: 早瀬 小鳩
15/20

15.「バーミリカ?」

「おはようございます……」

「ああ。おはようバーミリカ」



俺がコーンスープの味見をする中、のそのそと起き上がって来たバーミリカ。眠そうに瞼を擦る彼女は、年相応の幼さが残る。……年相応かな? と疑問が生じた俺は、ガスコンロの火を止めてバーミリカを見下ろした。



「バーミリカ」

「なんですー?」

「君、歳いくつ?」



女の子に歳を聞くのはやはりマズかっただろうか。でも、俺は彼女のことを何も知らないのが現状だ。少しでも分かりたいと思う。


バーミリカは目をパチクリすると、照れたようにはにかむ。とろんとした瞼も相俟って、なんだかいじらしい雰囲気だ。全然そんなことはないハズなんだけど。



「私は15歳です。ギリギリロリですよお兄さん!」

「諸説あります、ってね。なるほど、ありがとう」

「えー、反応が悪いなあお兄さんてば」



再びガスコンロの火を点ける。そろそろ良いだろうか。隣で小言の止まらない彼女の前に、そっとコーンスープを掬ったスプーンを持っていく。案の定、嬉しそうにそれを咥えた。うーん、とまるで評論家のように気取っては、人差し指をピッと立てる。



「ちょっと甘くないです?塩入れましょ塩!」

「いやいい、若干甘いのが俺流」

「血圧心配なんです?」

「バーミリカこそ、女の子って甘いもの好きじゃないの?」



偏見ですよ! なんて頬を膨らませた少女に微笑めば、スープ皿によそい始めた。おかずのハンバーグは昨日の内に下ごしらえをしておいたから、後の支度は簡単だ。



「明日の朝ごはん、私に作らせてくれません?」

「えっ。いいけど……作れるの?」

「作れますから!任せて下さい!」



どーんと無い胸を張ったバーミリカ。しかし、すぐに表情を改める。何かを思い出したようだ。



「お兄さん、1つルールを決めませんか?」

「なんの?食事の?」

「いえ、殺人の」



なんの前触れもなく出された、物騒な話題。器を持つ手を止め、視線を彼女に集中させる。遠くの方で、雀たちが鳴いた。一呼吸置いてから尋ねる。



「内容次第だけど。どんな?」

「殺人を犯すのは週末にしましょう」

「どうして」



だって、とバーミリカは続けざまに応じる。



「お兄さん、いつ大量虐殺しちゃうかわからないし」

「いつって……まあ否定はしないけどさ」

「ある程度、決めていた方がいいと思うんですよね。そうは思いませんか?」



確かに今まで俺の殺人は不定期だ。殺しすぎて狂わないよう、たまに、自分へのご褒美程度に。身元の割れにくい死んだとわかりにくい人を相手にして、少しずつ。もちろん、現場の後処理も手馴れたものである。



「頻度が上がらないように、予防線を張っとくってわけね……」

「我ながらナイスアイデアだと思うんですが。どうします?」

「まあ、考えてみるよ。ほらほら朝ごはん運んで」



お盆を持たせて背中を押す。物騒な話題でも簡単に取り上げる少女の背は、あまりにも小さくて柔らかかった。


今日は確か土曜日。カフェはいつも通り10時から開店するけど、タンジーはお休み。また黒うさぎの出番かな、なんて思っては、コーンスープをよそった。






°˖✧◇✧˖°






「____メインストリートで、通り魔事件が頻発しています。警察の話によると____」

「……今日のお兄さんの運勢、最高ですね」

「えっ、ほんと?」

「嘘です」

「ねえ」



冗談を挟みつつ、朝のニュースに釘付けになっている。最近はやけに物騒だから、警察の巡回も強化されているみたいだ。夜間なんて特にそうなんだろうなあ。


昨晩も居たし。


私はコーンスープを飲み干すと、そっとスプーンを置いた。焼きたてのフランスパンを一欠片ちぎっては口に含む。カリカリした焦げ部分と溶けたバターも相俟って、美味しい出来だ。


お兄さんが深夜に起き上がったものだから、つい気になって着いて行ってしまった。今思えば、浅はかだったんだと思う。扉を閉め戻る矢先、脇道から見えたお巡りさんの顔。あれは間違いなくリオさんだった。あの表情、タバコさえ落として立ち尽くしたあの反応からして、お巡りさんに情報は行っている。


なら何故ニュースにならないのか。おそらくはお父様が報道規制でもしているのだろう。各メディアに圧力をかけているのか。こんなに接していない現状でもひしひしとあの人の権力を感じざるをえず、不快感が背筋を凍らせる。パリ、とフランスパンの焦げを噛み砕く。吹き出しそうな冷や汗を抑える気持ちで、ゆっくりと飲み込んだ。



「うーん、美味しい!やっぱり朝はパンですねえ」

「まあね。そうだ、そこの砂糖取って」

「ええ……血糖値大丈夫ですか」

「いいから」



む、と眉根を寄せて手を差し出してくるお兄さん。無理矢理作った笑みのハズなのに、頬が勝手に緩んでいく。


もう少しだけ、浸らせて。


と思ったのも束の間、聞こえてきてしまった。本当に、小さくだけれど。複数の足音が、真っ直ぐここの家へ向かってくる。それらは歩調が合わさり、軍靴のような堅い足取り。



「バーミリカ? どうしたの」

「いえ!ごちそうさまです、もうお腹いっぱいです」



私は立ち上がると、眉を下げて微笑みかける。お兄さんは不思議そうに笑い返してくれた。十分だ。



「ありがとうございました、イノセントさん」






°˖✧◇✧˖°






(珍しいな、バーミリカがご飯のお礼をわざわざ言うなんて)



彼女なりに精神が成長した証なのかもしれない。


こちらこそと頷いて見せれば、彼女は弱く笑った。まだ眠いのかもしれない。俺も食事を済ませると、二人分の食器を重ねて運んだ。それらを軽く水に浸けてから、スポンジに洗剤を微量垂らして、優しく汚れを拭う。


リビングの方から、バーミリカの鼻歌が聞こえてきた。テレビは消したらしい、今はあの音程がぐちゃぐちゃな歌しか聞こえない。いつかもっとマシなものになると良いんだけど。そう考えた後、彼女と未来を生きる姿を自然に想像している自分に気づいて驚いた。それほどまでに、彼女は俺の生活に溶け込み始めている。



「……あれ?」



食器を拭き終わったところで、あの鼻歌が聞こえなくなっていることに気づいた。手をエプロンの端で拭いつつ、そっとリビングを覗く。



「バーミリカ?」



返事が無い。まるで部屋に俺しか居ないように、俺の声しかしない。いきなり元の生活に戻ったような奇妙な感覚に、顔がさっと青ざめる。



「隠れてるとか? 今どきそんな遊び流行らないから」



分かっている。人を殺す俺には分かってしまう。気配が無いから、もうバーミリカは居ない。ここにはもう彼女は居ない。


しばらくして、とあることに気づいた。彼女の私物がまるで無くなっている。靴も、服も、何もかも。金品は盗られていないことに安心するより、どうしてそれらと一緒に彼女が消えたのかが気にかかってしまう。


冷静になれない落ち着けない。ダメだ混乱してる。どうすればいい、どうすれば良かった。なんでだ、いつ居なくなった、分からない。いや分かっている、分かっていることと分からないことで滅茶苦茶になっている。落ち着けいや落ち着けない。



「バーミリカ……!」



その時、ピンポーンという無機質な音が鳴り響いた。視線を玄関へと飛ばし、早足で近づく。バーミリカかもしれないと思ったが、その予想は外れたみたいだ。



「リオ」

「開けろ」



巡回中なのか、リオは警察服のままだ。妙に緊迫した面持ちだから、緊張してしまう。俺の殺人はバレていないハズだ。とりあえず、怪しまれないように自然を装って扉を開けた。



「……俺は、複雑だ」

「悩み事? 警察も大変だね」

「黙れ」



リオは顔を下げると、深く息を吸って吐いた。一気に顔を上げ、令状を突きつける。



「リオ・ベイリー、警察だ。イノセント・ミラーをメインストリート連続女性誘拐犯として逮捕しに来た」

「……はい?」

「今日の俺は旧友として来たんじゃねえぞ。警察としてだ。警察として、お前を正す!」



一気に腕をねじ伏せられ、抵抗させる隙も見せずに手錠を取り出す。一瞬呆然としてしまったが、その後は何をしてももう遅い。相手はリオだ、勝てる見込みはまずゼロに等しい。悲鳴をあげる腕にグッと歯を食いしばり、黙りこまざるを得なかった。土足のまま、他の警官が部屋にあがり込んでくる。



「ベイリーさん、アッシュグレーの毛髪を発見。解析班に送ります」

「急げ」

「なんっ……で」



やっと出せた問いに、リオの顔は冷淡そのものだった。



「お前のところに居たお嬢ちゃん、三ヶ月間失踪してたクレイシー家の長女だろ。前は顔が見えなかったがようやく分かった。バーミリカ・クレイシー……はっ、バムってのは愛称だったわけか、笑わせやがる」

「バーミリカが……?」

「俺は夜に目撃しちまったんだよ。お前がお嬢ちゃんを部屋へ押し込むところをな。洗脳か脅迫か、随分従順にさせたもんだ」

「違う……!」

「犯人は揃ってそう言うもんだぜ。他の女は誘拐して何処へやった。地下室でもあるのか? あ?」



マジで違う本当に止めてほしい、どうせ捕まるなら殺人罪でしょどうして誤認逮捕! バーミリカはあっちから来たわけだし俺の科を責めるのは間違いなハズだ。どうしてこうなった、何がダメだったんだ。


いくつもの疑念や後悔が俺の中を飛び交う中、ふと1つの疑問が浮上してきた。



『ありがとうございました、イノセントさん』



俺は名乗っていない。タンジーもポスコさんも、リオだって警察の仕事でもない限り。俺のことは名前でなんか呼ばないハズだ。表札だってウチは店に届けさせればいいから付けていない。


なんで俺の名前を知っていたんだ?



「それと、目撃証言にあったんだよ。昨日の夕方くらいか」

「目撃証言って……ゔあっ!」



腕にかける圧を強くして、リオは静かに問いかけてくる。



「お前、確か黒いうさぎの着ぐるみ持ってたよな?」

「ああ……まあ」

「あれで攫った姿が目撃されたとよ。奇妙な手を使うこった」



嘘だろとしか言い様がない。闇には溶け込むだろうが夕方に使うには目立ち過ぎやしないか。俺だったらもっと上手く……そんなことを考えている場合じゃなかった。



「……倉庫に」

「あ?」

「あれは倉庫に仕舞ったままのハズ。バーミリカが店で使ったくらい」

「そういや、昼間のインステに写真が残ってたな……よし、確認しに行くぞ」



引きずられる形で、階段を下る。まだ朝は早く、人こそ少ないけれど。流石に道を往く人の目はこちらに行くだろう。


なんて運の悪い日なんだ。

˙˚ ᕱ⑅ᕱ ˚˙

(๑´×`๑)<マジカ-

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