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週末ゆるふわスプラッタ。  作者: 早瀬 小鳩
12/20

12.「まさかね」

「ただいま」

「お帰りなさいお兄さん!」

「おいてめぇ、人に勝手にガキ預けやがって。どういうつもりだ」

「ああ助かったよ。どーもね」

「それだけかよ!……ったく」



頬杖をついて俺を睨みあげるリオ。だけど、なんてことは無い。所詮は雰囲気がちょっと怖いだけの男である。


そういえばリオは、学生来の付き合いが唯一続いている貴重な奴だ。お互い態度は今も変わらないけれど、距離はどうなんだろう。色んなことがあって、青春が過ぎて、大人になってしまったから。……俺が人殺しになって、あいつが警察になった以上、深く関われることなんて無い。



「お兄さん!まだ何か用事あるんですかー?」

「ん。ああ、いや?帰ろうか」

「はい!」



俺の顔に影が差すと、いち早く反応したのはバーミリカだった。つくづくこの子は鋭いと思う。正直ちょっと恐怖だよコレ。


ガスマスクからでも見えて来そうな彼女の瞳から目を背け、リオに笑いかける。業務上など関係なし、ただ単に酒に弱いリオはいつも通りちびちびと水を口に含んだ。ここが酒場であることを感じさせない冷静な素面で小さく頷く。



「んじゃまた。悪いことしたらぶっ殺すからよ、気ィつけな」

「そっちこそ、警察のくせにやらかしたら俺がぶん殴ってあげるさ」

「へえへえ、よく言う」



人の悪い笑みを口の端にちらつかせ、リオは首をもたげた。すると何かを思い出したようで、「お」と声を上げる。バーミリカを時折見ながら、俺に忠告した。



「そういや、最近また物騒な輩が徘徊し始めやがった」

「通り魔とか?裏路地とかで襲ってくるみたいな」

「んなの聞いたことねえよ。奴は人を殺さねえ」



どうやら俺とはまた違う奴らしい。ほっと一安心すると、隣でバーミリカが笑ったような気がした。気がしただけかもしれないけど。


リオは人差し指を立てる。二色が混じった双眸が、俺を捉える。



「女を攫っては売り捌くって話だ。そこのお嬢ちゃん、守ってやれよ」

「そうですよお兄さん!全力で!全開で!守ってくださ」

「情報どうも。さて帰ろうか」

「遮らないでくださいよ」



ぺちぺちと叩いてくる少女には目もくれず、軽くリオに挨拶しては、店先へと歩を進めた。ポスコさんは追加注文だかなんだかで忙しいみたいだから、お代は今度まとめて払おう。いつものことだ。


ちょうど同じ頃合い、リオに怒られた2人も席を立ったみたいだった。情報とバーミリカを交換しようとした男はそのまま、両手をポケットに突っ込んで去っていく。一方、もう片方のメガネは駐車場へ。トラックでも取りに行くのだろう。中身は何だか知れないが。


トラックでの配送業を営むアイツには、いつも死体を回収してもらっている。性癖は人のことを言える程では無いが、変わったヤツだ。


視線を少しだけやってから、真っ直ぐ前を向いた。バーミリカの行く宛は見つかっていない。もう少し居てもいいだろうなんて、少し甘いだろうか。


ガスマスクを外して深呼吸をする、彼女を見下ろした。すぐ手にかけてしまうには惜しいと思い始めた。そんな自分がいる。



「……そういや、クレイシー家の長女も失踪か……同じ奴にでも攫われたクチだな」



酒場でリオが独り言を零しているのはつゆ知らず。明日は金曜日だなんて考えながら、2人で帰路についた。



°˖✧◇✧˖°



「いらっしゃいませー」


昼も間近になった時間帯、段々と客数は増えてくる。タンジーもいつも通りせっせと働いてくれて、うまく回っている次第だ。


今日は朝が1番大変だったのかもしれない。バーミリカが「今日こそ働きます」と意気込んで来るものだから、必死に引き止めたのだ。結局、バーミリカは泣き真似をしながら部屋へと引きこもったのだが。


男性客がタンジーと会話しているのを見て、ふと昨日リオに言われたことが頭によぎった。



「女を攫っては売り捌く、ね……」



卵を白身と黄身に分けて、前者はメレンゲ用のボウルへ、後者は丼物の上へ載せる。盆に味噌汁とセットで置いてタンジーに運ばせ、白身を泡立てる。



「まさかね」



砂糖を加えたところでもう一度確認すれば、彼らの座っていたところには新規客の姿。なんてことは無い、一般人だったみたいだ。妙に慎重になる自分自身に、思わず苦笑してしまう。力みすぎ。


今日のメレンゲは、少しだけ失敗かもしれない。



「何あれ。可愛い〜」

「なんかのイベント的なアレかな?インステ上げとこ」



(窓の外に何か居るのか)


イベントなんてあっただろうか。たまたま通りかかったとか?とりあえず、メレンゲに集中する。一定のリズムでシャカシャカかき混ぜるのは、これ結構根気いるんだ。ほんとほんと。


次に耳を傾けると、タンジーが小声で自分を呼んだことに気づいた。



「て、店長!あのっ、あの子って新しく雇ったんですか……」

「あの子?」



目線は向けないまま応じる。なんだか店内がやけに騒がしい。シャッター音も鳴り止まない上、タンジーも慌て気味だ。彼女は泣きそうに細められた声で続く。



「わ、私の仕事が良くなかったとか……く、クビでしょうか。もう要りませんか?」

「は?なんのこ__」

「店長さーんっ。何作ってるんです?真っ白だあ」

「ああ、メレン……は?」



ぴょこん、と視界の端に揺れる黒耳。長さ的に、うさぎ。俺の手元をのぞき込む紅い双眸は若干透けていて、居候人の丸っこい瞳がちらりと見えた。


ダボッとした黒うさぎの着ぐるみを着た少女に、危うくメレンゲを落としかける。



「いや、は!?」

「倉庫に行ったらあったんですよー。店長さんが着たんですよねコレ」

「確かにメインストリートのイベントで1回……じゃない!勝手に倉庫に入っちゃダメだし着るのもダメ!」

「ダメダメ攻撃ですか」



黒うさぎは首をガクンと下げた。哀愁漂う着ぐるみなんて、ちょっとおかしい雰囲気だけど。そんな、余程暇なのか……。正直全然テレビなんて見なくて、バーミリカが現れるまでは完全に置物になっていたから。そんなに、つまんないの……?



「えーと、タンジー!しばらく店頼んだ!」

「えっ、あっ、はい!」



なんだか段々と申し訳なくなってきたけど、それとこれとは別。ぴょこぴょこ動くバーミリカのうさ耳を握って、店の奥通路へと引っ張りこんだ。


店の賑わいが扉で遮られ、少しだけ静かになる通路。俺が腕を組むと、うさぎ姿のバーミリカも真似をしてくる。どんな顔をしているのかは分からないが、きっと楽しんでいるのだろう。



「はい。じゃあ帰って」

「嫌です!」



バーミリカは両手を上げて抗議する。話とは裏腹に、ほのぼのしてしまうのは良くない。俺は全力で眉間にシワを寄せる。やはりというか、全く臆することなく言葉は続く。



「着ぐるみ着てれば年齢なんてわかんないじゃないですか」

「なんかの拍子に脱げたりしたら良くないでしょ」

「私、接客は得意ですよ!」

「どうだか」

「それに……それに……」



ついに言うことが尽きたか。俺は油断して彼女を見下ろす。しかし、そんなことは無かったらしい。仕組まれたようだ。



「お世話になってる、恩返しをしたくて……だめ、です?」



可愛いのは卑怯だと思うんだけどなあ。柄にも無くときめいちゃった自分が恥ずかしいんだけど。やだもう誰か殺して。

バーミリカもタンジーも敬語キャラで被ってることに気づいた今日この頃。許してください(((( ’ω’ ))))

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