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週末ゆるふわスプラッタ。  作者: 早瀬 小鳩
10/20

10.「おいてめぇら、っくそ……!」

「おお、凄い!ガスマスク置いてあるんですね!」

「顔全体を覆えるのさ。カッコイイから飾ってみたんだが……着けてみるかい?」

「ぜひ!」



“奥”に入った途端、さっきとは打って変わって、キャッキャウフフと声を弾ませる2人の女性。バーミリカと女店主ポスコだ。


ポスコの年齢はイノセントよりもやや上くらい。暗い緑のベリーショートに、冬にしては焼けている黒肌、等身は8つ。胸もタンジーに劣らずたゆたっている。しかし化粧はバッチリ済ませており、厚い唇は血を吸い込んだかのような赤が光沢を放つ。ラフな肩出し黒Tシャツにジーパンと履き潰した紺のサンダルを身に着けて、明るめの藍色をしたエプロンを纏っていた。


イノセントは話を切り出すタイミングを伺って口を開く。と言っても、シュコーとガスマスクの呼吸音を繰り返すバーミリカに1度閉口してしまうのだが。



「バーミリカ、こっち。結構人多いからはぐれちゃダメだよ」

「お兄さんはなんでここに来たんですか?」

「……情報交換。一見非合法臭が半端ない奴らだけど、そこまで悪いわけじゃないし」

「おいそこの旦那!」



イノセントの話に割り込むように、1人の男がひょこりと姿を現した。中肉中背、髪の毛は元々黒髪だったのだろう。金髪に染め上げられ暫く経ったのか、見事なプリン髪と化していた。ツーブロックの頭はイノセントの鼻くらいの位置にあり、身長はさほど無い。瞳は焦げ茶色で割と大きく、彼を童顔たらしめる元となっていた。実際年齢的には成人を迎えたばかりといったところだろう。チンピラ然とした赤い豹柄のジャケットがやけに目につく。正直あまり関わりたくはない、イノセントの嫌いなタイプだ。



「何」

「そう硬くなんねぇでくだせぇよ!いやあ、旦那の役に立ちそうな情報仕入れたんですがねぇ。どうです?対価はそのガスマスク着けたお嬢ちゃんで結構ですぜ!」

「無理」

「そんなあ」



目線だけでしっしと男を追いやってから、バーミリカがこちらを見ていることに気づく。少し気まずいながらも、その視線に応じた。



「どうしたの」

「本当に、悪いわけじゃないんですよね?」

「……」

「あっ黙った」



華麗に(とは言い難いが)スルーしたイノセントはぐるりと店内を見回して、あることに気づく。傍でやり取りを見ていたポスコに話しかけた。



「随分と見知らぬ顔が多いようだけど、新入り増やしたの?」

「まあね。……詳しく聞きたいってんなら、お駄賃弾んでもらうよ」



いやいい、と断ったはいいが、イノセントはその場で思考を巡らせる。新参者はまだ信用出来ない。見知った人物で、バーミリカ保護のツテを検討してくれるような……そんな人を探さなければ。



「お」






°˖✧◇✧˖°






「よ、久々」

「……お前か。最近はちっとも見かけねえと思ったが」

「生憎、商売が忙しくてね。こっちのセリフでもあるんだけど」



お巡りさんだ。


私は目をぱちぱちさせて、ガスマスクをしゅこー、と鳴らす。お兄さんはいきなり歩き出すと、カウンターで煙草を吸っていたお巡りさん姿の男の人の隣に座ったのだ。なんの躊躇いもなく。


なんだかダンディな雰囲気が凄い。大人、って感じの空気を身にまとっている。もちろんお兄さんも大人だけれど……お巡りさんの方がなんというか、重い。


帽子はカウンターの上、お巡りさんのお酒……いや、水の横。ワイシャツのボタンが上の一二個外してあり、ネクタイも緩められている。窮屈だったのだろう。空色に近いシルバーの短髪はさらさらと酒場の電灯に照らされていて、綺麗だ。右の横髪だけちょっと伸ばしてあるのはこだわりなのだろうか。淡い琥珀に鮮やかな海色が混ざったような色味の双眸は渋く細められていて、お兄さんとはまたちがうイケメンである。


2人は知り合いなのだろうか。とりあえずぽてぽてと着いて行って、お兄さんの隣の椅子にストンと腰を据えた。私に気づいたお巡りさんは、眉根を寄せてお兄さんを見つめる。



「おいおいお前、ついに子持ちか?さては犯罪か……お前の情事に振り回されるのはごめんだが」

「冗談キツいよまったく」

「おじさま、煙草臭いです。私煙草嫌い」



私の説明は面倒だろう。そう思ってはぐらかすと、盛大に成功した。おじさま、と私が呼んだお巡りさんは片眉を上げて反発する。



「俺はまだおじさまって歳じゃねえ!コイツと同い歳だ!」

「ははは。やっぱり老けて見えるんじゃない?心労?」

「んだと?!」



短気っぽいお巡りさんはお兄さんの首根っこを掴んでやるせなさげに睨む。お兄さんは少しこの状況を楽しんでいるようで、若干口角が上がっていた。タチが悪いなあ、面白いけど。



「大体、ここは禁煙場所じゃねえんだよ。嫌なら他所に行け」

「あら、嬢ちゃんが嫌がるなら禁煙にしようかね」

「はあ!?」



いいかーい、とポスコさんが酒場の客たちに尋ねると、呑んだくれで気分の良い人々は全員揃って快諾した。お酒さえあればそれでいいのだろう。



「嬢ちゃんが嫌がるってんならしょうがねぇなー」

「女主人が言ってんだ、異論はねぇよ」

「おいてめぇら、っくそ……!」



半ばやけくそ気味に煙草の火を消して舌打ちをしたお巡りさん。私は、けらけらと嘲笑うお兄さんに向けて口を開く。



「それで、この人は?」

「俺はリオ。リオ・ベイリーだお嬢ちゃん。これでも立派な警察だからな」



勢いよく私の顔のギリギリに警察手帳を突きつけてきたお巡り、リオさん。私はお兄さんに聞いていたのに、ちょっと不服だと眉をひそめる。


確かに手帳は本物で、リオさんは当初の見立て通り警察のようだ。星の数からして、下っ端ではないけれどそこまで偉くもない中間管理職みたいな立ち位置。結構苦労してそう。


そこで少し考える。お兄さんが今日ここに訪れた理由は十中八九、私が関係しているのだろう。しかし彼の性格、そして趣味の観点からして、身元のしれない私の話を警察に持ち掛ければ高い確率で面倒な手順が発生する。もっと手っ取り早く追い払いたいはずだ。だから。



「にしても、ちょうど良かった。リオ、この子預かってて」

「なっ、俺は迷子の犬担当でも保育所でも無い!おい!」

「行っちゃいましたねー」



シュコー、とガスマスクの呼吸音が耳朶を打つ。片手を振って他の誰かの元へ行ってしまったお兄さんの後ろ姿を思いつつ、私はリオさんに向き直った。結構負のオーラみたいなのがプンプンしているけど、やっぱりイケメン。イケる。


私のガスマスクに視線を落としたリオさんは頭を掻いて、困ったと言わんばかりに盛大なため息を吐いた。「どうしろと……」なんて呟かれても、私だって自分から預かられた訳じゃないのにと心象を悪くした。


せめて話題を提供してあげよう。ちょっとだけ上から目線になってそう思い、ガスマスクで見えないけれども笑顔を作る。笑顔になるだけで声音が大分変わるから。



「リオさんは、ここを取り締まらないんですか?」

「あ?」

「だって、あからさまに何人か非合法な人居ますし。犯罪臭ぷんぷんしません?」

「あー。……ふ、鋭いなあお嬢ちゃん」



ころりと表情を一変させ和らげる。口角がくいっと持ち上がり、お巡りさんのクセに悪い人みたいな笑みだ。よしよしと頭をガスマスクごしにわしわしされて、子供扱いされてるー、とつい気持ちが冷める。歳はリオさんより下だけど、撫で撫でくらいで喜ぶ程でもない。ちゃんと撫でてもらう人くらいは選ぶ、お兄さんとか。


リオさんはざらつく撫で心地に気分を害したみたいだ。机に頬杖をついては、呆れたようにガスマスクの端っこをつまんでぴらぴらと弄ぶ。



「なあ、そろそろ外しても大丈夫じゃねぇか」

「いえ!まだ煙草臭いです嫌です!」

「即答だな、おい」



私が両手でガスマスクをぎゅっと握り抑えると、苦笑混じりに弄ぶ手を引っ込ませてくれた。話せばわかるタイプのようだ。


顔を見られたくない。できれば髪色も。


……乙女の恥じらい、的な?

面食いです。(「・ω・)「ガオー!

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