9、一緒にお風呂入ろう、お兄ちゃん!?
朝までオートバイ走らせて、2人は目的地へたどり着いた。
今度の隠れ家は、海岸沿いの別荘だ。シーズンオフなので、辺りに人の気配は無い。
カーテンを閉じ切った部屋で、美咲へ連絡を取る。時刻は午前7時過ぎだ。
「おはよう葛君。何かあった?」
「米軍が山荘に現れた。バチカンの手配だと思う」
「アメリカが?こちらは、何も聞いていないわ。敵はICPOだけではなさそうね」
バチカンが、警察組織はあてにならないと、米軍を動かした可能性が高い。
「俺たちがいたという証拠は、何も残していない」
葛は電話をしながら、震えるラティファのために、風呂を沸かす。
「あの山荘が、警察の施設だという事は、調べれば直ぐにわかるわ。拘束される前に、私もそっちに合流する」
葛1人でラティファを守るより、美咲がいてくれた方が、確かに頼もしい。
ただ、捕まれば、美咲までバチカンに拘束され、闇へ葬られる事になる。
「美咲さんまで、警察や米軍に追われますよ」
「バチカンが調べれば、昔、暗殺した刑事の娘だと気づく。遅かれ早かれ、私も拘束される。葛君、私とラティファちゃんを守ってね。それじゃあ、後でまた」
守ってねと女性に言われると、嫌ですとも言えない。かと言って、任せろと言えるほど状況は甘くない。
「わかりました、気をつけて」
電話を切り、震える魔界少女の様子を見る。防寒着で、かなり寒さは防げたはずだが、部屋に入ってもラティファの震えは止まらない。
「ラティファ、お風呂に入って温まりな。大丈夫かラティファ?」
葛が声をかけても、魔界少女は濡れた装備で座り込んでいる。精神的に参っている様子だ。
「しょうがないな。ラティファ、俺が脱がせてやるからな。後で怒るなよ」
防弾チョッキを外して、濡れた洋服を脱がせていく。下着だけになった、少女を抱き上げる。
ラティファは、けして幼児体型と言うわけではなく、美咲には負けるがスタイルは良い。
お湯の張った浴槽へ、ラティファの身体をゆっくりと入れる。葛はストロベリーブロンドの髪に、暖かいシャワーをかけた。
緊急時だけあって、欲情している場合ではない。
「葛も、一緒に入る」
我に返ったように、突然ラティファが言う。湯船の中で、自分で下着を外した。
「いや、流石にまずいだろう」
「いいから、一緒にお風呂入る。何かしたら、魂もらう」
無茶苦茶な話だが、ラティファは頑固でわがままだ。
色んなものを抑えながら、葛も洋服を脱ぎ、湯船に浸かった。冷え切った身体を暖めると、少し落ち着いてきた。
湯船から出ると、頭を洗えと言うので、ラティファの長い髪を丁寧に泡立てる。
欲情しないように、魔界少女を年の離れた妹だと、自分に言い聞かせる。
「ラティファ、試しにお兄ちゃんって呼んでくれないか?」
「葛は、そういうシチュエーションが好きなのね。いいよ。私のお兄さんにしてあげる」
てっきり、罵声浴びせられると思ったが、思いのほかラティファは素直だった。
「お兄ちゃん。身体も洗って!」
下僕になった気分で、ラティファの華奢な背中を流す。真っ白な、きれいな肌に葛は欲情しかける。
兄弟ごっこは、逆効果だったようだ。
隠れ家に、新品の生活用品まで用意してくれた美咲達に、申し訳ない気分になる。
「ほら、お兄ちゃん!私と一緒の時は、美咲さんの事を考えない!」
読心術で葛の心を読み、ラティファが言った。別の事を考えていないと、我慢が限界に達しそうだ。
「いい、お兄ちゃん。いっときの感情で、自分の欲望を満たすのは、愚者の行為なの。その後の、失うものの大きさを、よく考えてね!」
ここでラティファに手を出せば、美咲に軽蔑され、下手をすると保護してくれなくなるかも知れない。そう考えた葛は、これも魔界少女の修行だと思う事にした。
「わかったよラティファ。欲をコントロール出来ない人間は、彼女を得る資格がないって事だよな」
「そうよ。葛の魔法契約は、将来に伴侶ともなり得る彼女を作る事。目的を見失わない事ね」
そう言いながらも、ラティファは自分の身体の前も洗えと言ってきた。
断固として拒否し、こいつ絶対童貞男を弄んでやがる、と葛は思った。
深夜になったが、美咲から何の連絡もない。携帯から居処をキャッチされない様に、連絡は控える事にしていた。
「レトルトと缶詰も飽きたなラティファ」
贅沢も言えないが、葛はファーストフードや自宅の味噌汁を、懐かしく思った。
「ラティファは、葛の手料理美味しいよ」
魔界少女が気を使う。
新鮮な食材が手に入れば、もう少し、ましな夕食になる。
「指名手配されてる訳じゃないからな。近所のスーパーでも、明日は買い出しに行くか」
全ての監視カメラを、追跡者も抑えているわけではない。目立たなければ、買い物くらい問題ないだろう。葛は、気疲れしているラティファに、せめて美味しい食事を食べさせたかった。
(相手を思う気持ちって、こういう事かな?)
葛は親心が少し理解できた気がした。
心が一人前じゃないから、今まで女性が振り向いてくれなかったのかと反省する。
ラティファが時計を見る。
「美咲さん、大丈夫かな?」
13係のメンツが口を割れば、すぐに追跡者がやってくるはずだ。
シーズンオフの別荘で、葛達は美咲の安否を気遣う。
ラティファを先に寝かせると、葛は美咲の到着を待つ事にした。
寝不足と疲労で、今にも寝落ちしそうになっていた。




