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マサキカズラのクリスマス  作者: 大野ヨシオ
9/12

9、一緒にお風呂入ろう、お兄ちゃん!?

 朝までオートバイ走らせて、2人は目的地へたどり着いた。

 今度の隠れ家は、海岸沿いの別荘だ。シーズンオフなので、辺りに人の気配は無い。

 カーテンを閉じ切った部屋で、美咲へ連絡を取る。時刻は午前7時過ぎだ。


「おはよう葛君。何かあった?」


「米軍が山荘に現れた。バチカンの手配だと思う」


「アメリカが?こちらは、何も聞いていないわ。敵はICPOだけではなさそうね」


 バチカンが、警察組織はあてにならないと、米軍を動かした可能性が高い。


「俺たちがいたという証拠は、何も残していない」


 葛は電話をしながら、震えるラティファのために、風呂を沸かす。


「あの山荘が、警察の施設だという事は、調べれば直ぐにわかるわ。拘束される前に、私もそっちに合流する」


 葛1人でラティファを守るより、美咲がいてくれた方が、確かに頼もしい。

 ただ、捕まれば、美咲までバチカンに拘束され、闇へ葬られる事になる。


「美咲さんまで、警察や米軍に追われますよ」


「バチカンが調べれば、昔、暗殺した刑事の娘だと気づく。遅かれ早かれ、私も拘束される。葛君、私とラティファちゃんを守ってね。それじゃあ、後でまた」


 守ってねと女性に言われると、嫌ですとも言えない。かと言って、任せろと言えるほど状況は甘くない。


「わかりました、気をつけて」


 電話を切り、震える魔界少女の様子を見る。防寒着で、かなり寒さは防げたはずだが、部屋に入ってもラティファの震えは止まらない。


「ラティファ、お風呂に入って温まりな。大丈夫かラティファ?」


 葛が声をかけても、魔界少女は濡れた装備で座り込んでいる。精神的に参っている様子だ。


「しょうがないな。ラティファ、俺が脱がせてやるからな。後で怒るなよ」


 防弾チョッキを外して、濡れた洋服を脱がせていく。下着だけになった、少女を抱き上げる。


 ラティファは、けして幼児体型と言うわけではなく、美咲には負けるがスタイルは良い。

 お湯の張った浴槽へ、ラティファの身体をゆっくりと入れる。葛はストロベリーブロンドの髪に、暖かいシャワーをかけた。

 緊急時だけあって、欲情している場合ではない。


「葛も、一緒に入る」


 我に返ったように、突然ラティファが言う。湯船の中で、自分で下着を外した。


「いや、流石にまずいだろう」


「いいから、一緒にお風呂入る。何かしたら、魂もらう」


 無茶苦茶な話だが、ラティファは頑固でわがままだ。

 色んなものを抑えながら、葛も洋服を脱ぎ、湯船に浸かった。冷え切った身体を暖めると、少し落ち着いてきた。


 湯船から出ると、頭を洗えと言うので、ラティファの長い髪を丁寧に泡立てる。

 欲情しないように、魔界少女を年の離れた妹だと、自分に言い聞かせる。


「ラティファ、試しにお兄ちゃんって呼んでくれないか?」


「葛は、そういうシチュエーションが好きなのね。いいよ。私のお兄さんにしてあげる」


 てっきり、罵声浴びせられると思ったが、思いのほかラティファは素直だった。


「お兄ちゃん。身体も洗って!」


 下僕になった気分で、ラティファの華奢な背中を流す。真っ白な、きれいな肌に葛は欲情しかける。

 兄弟ごっこは、逆効果だったようだ。


 隠れ家に、新品の生活用品まで用意してくれた美咲達に、申し訳ない気分になる。


「ほら、お兄ちゃん!私と一緒の時は、美咲さんの事を考えない!」


 読心術で葛の心を読み、ラティファが言った。別の事を考えていないと、我慢が限界に達しそうだ。


「いい、お兄ちゃん。いっときの感情で、自分の欲望を満たすのは、愚者の行為なの。その後の、失うものの大きさを、よく考えてね!」


 ここでラティファに手を出せば、美咲に軽蔑され、下手をすると保護してくれなくなるかも知れない。そう考えた葛は、これも魔界少女の修行だと思う事にした。


「わかったよラティファ。欲をコントロール出来ない人間は、彼女を得る資格がないって事だよな」


「そうよ。葛の魔法契約は、将来に伴侶ともなり得る彼女を作る事。目的を見失わない事ね」


 そう言いながらも、ラティファは自分の身体の前も洗えと言ってきた。

 断固として拒否し、こいつ絶対童貞男を(もてあそ)んでやがる、と葛は思った。


 深夜になったが、美咲から何の連絡もない。携帯から居処をキャッチされない様に、連絡は控える事にしていた。


「レトルトと缶詰も飽きたなラティファ」


 贅沢も言えないが、葛はファーストフードや自宅の味噌汁を、懐かしく思った。


「ラティファは、葛の手料理美味しいよ」


 魔界少女が気を使う。

 新鮮な食材が手に入れば、もう少し、ましな夕食になる。


「指名手配されてる訳じゃないからな。近所のスーパーでも、明日は買い出しに行くか」


 全ての監視カメラを、追跡者も抑えているわけではない。目立たなければ、買い物くらい問題ないだろう。葛は、気疲れしているラティファに、せめて美味しい食事を食べさせたかった。


(相手を思う気持ちって、こういう事かな?)


 葛は親心が少し理解できた気がした。

 心が一人前じゃないから、今まで女性が振り向いてくれなかったのかと反省する。


 ラティファが時計を見る。


「美咲さん、大丈夫かな?」


 13係のメンツが口を割れば、すぐに追跡者がやってくるはずだ。

 シーズンオフの別荘で、葛達は美咲の安否を気遣う。


 ラティファを先に寝かせると、葛は美咲の到着を待つ事にした。

 寝不足と疲労で、今にも寝落ちしそうになっていた。


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