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マサキカズラのクリスマス  作者: 大野ヨシオ
7/12

7、思いがけない再会

 県外へ出て、車は南へと向かう。追われる2人は、景色を眺めるでもなく、後部座席で小さくなっていた。

 葛は実家の様子が気になり、運転席の美咲に聞いた。


「両親達は無事でしょうか?」


「ご家族は無事よ、ご実家を狙ったのはバチカンね。私たちより先に、スマホの通信記録から貴方達を見つけた」


 それを聞いて、葛は胸をなでおろす。


「実家の祖母と両親を、どうするつもりだったのでしょう?」


「抵抗すれば、殺されていたでしょうね。正木さんとラティファさんは、バチカンに連れ去られる」


 ラティファは、魔女裁判。自分は、海外に連れ去られて幽閉される。そこまでする理由が葛には理解できない。

 美咲はバックミラー越しに、葛へ言った。


「正木さんのご家族には、ラティファさんと葛さんは、ある事件の証言者として、警察が公判まで保護する事になったと伝えてあるわ」


 車の中で葛は、この二日間の経緯(いきさつ)を美咲に話した。もちろん、魅惑の魔法契約は内緒にしておいた。


 数時間走り山道を登ると、舗装のされていない砂利道へ進む。かなりのデコボコ道だ。やがて山荘にたどり着いた。


「ここよ。警視庁の秘密の隠れ家。ってわけじゃないけど、訓練施設の1つよ」


「あの、トイレどこですか?」


 山荘の扉が開かれると、ラティファは一直線にトイレに向かう。移動中に、深刻な顔で言葉を発しなかったのは、理由があった様だ。


「あらあら、トイレ休憩もさせないで、ごめんなさいね」


 美咲が微笑む顔を見て、天堂と言う刑事は、信用していいかもと葛は思った。


「ここには、レトルトだけど食料もあるわ。それと、窓の外から道路も見えるでしょう?接近してくる車両があれば、直ぐにわかる」


 美咲はカーテンを開けて、後方に見える舗装道路あたりを指差す。街灯もないので、葛には暗闇しか見えない。


「正木さん。一通り、山荘の中を案内するわ。着いてきて」


 美咲に連れられて、葛は4LDKの山荘内を歩き回る。装備の暗視ゴーグルや警棒、防弾チョッキ、外にはオフロードバイクもあった。

 リビングに戻ると、ラティファが血色の戻った顔で座っていた。窓の外から下の道路を見下ろして、美咲は言う。


「ここに居られるのも、長くて数週間よ。バチカンの情報網なら、私たち13係の動きも直ぐに捕捉される」


「天堂さん。お仲間は、加藤さんの他に何人いらっしゃるんですか?」


 ラティファが口を開いた。銃を向けられた割には、敵意はこもってない。魔界少女も、天堂という刑事を信用している様だ。


「残念だけど13係は、私と加藤警部補の2人だけ。上司の波多野警部も味方だけど、バチカン相手には分が悪いわね」


「そうまでして知りたい事とは、何ですか?」


 今度は、葛が美咲に尋ねる。


「波多野警部が到着したら話すわ。明け方になるかも知れないから、貴方達は休んでいいわよ。見張りは刑事の私に任せてね」


 そう言いながら、ウインクして見せる美咲。化粧っ気のない顔だが、中々の美人だ。葛が、美咲の顔をまじまじと見つめていると、ラティファが胸に肘鉄を食らわせて来る。


「ウッ!なんだよラティファ」


「別に・・・。お腹減った、葛なんか作って!」


「何だよ?まぁ腹減ったな、メシにしようか。天堂さん、食材とキッチン使わせてもらいますよ」


「ご自由にどうぞ。それと、私の事は美咲と呼んでちょうだい。私もファーストネームで、呼ばせてもらうから」


 美咲は、窓から目を離さず手を振る。

 葛は台所へ立ち、レトルトと缶詰で調理を始める。調味料も一通り揃っていた。


「美咲さんもどうぞ」


 食事をテーブルに運ぶ。葛は美咲と交代交代に、食事を済ませる。


「カズラ君、これ美味しい。レトルトと缶詰とは、思えないわね」


「ありがとうございます。手抜き料理は母から習いました」


 窓の外を監視しながら、葛は得意げに言う。なぜか、美咲と葛が親しげに話していると、ラティファは機嫌が悪い。黙々と箸を進めている。


「あの、車のヘッドライトが、下の道路から見えました。美咲さんのお仲間ですか?」


 外を監視していた葛が言う。

 追手なら、直ぐの出発出来る様に、手早くラティファは、荷物をまとめた。

 すると、美咲のスマホが鳴る。


「ハイ。問題ありません。了解です」


 通話を切ると、美咲は葛達の方を向く。


「さっき話した、波多野警部よ。葛君とラティファちゃんは、念のため隠れて」


 万が一、波多野の車から、仲間以外の人物が降りてきたら、逃げるようにと美咲は言った。用心に越した事はない。


 山荘に、波多野の車が止まる。車から降りて来たのは1人だ。山荘の外に出て、林の中に身を潜め、葛とラティファが息を殺して様子を伺う。


「あの人!」


「知ってるのかラティファ?どうやら1人のようだ。出て行っても大丈夫そうかな?」


 波多野を出迎えた美咲が、こちらに合図を送ってきた。問題はなさそうだ。

 ラティファが顔を見せると、波多野は驚いた顔をする。


「ラティファ!魔界の使者とは、君だったのか。また会えるとは思っても見なかったよ」


「元気そうだね淳士。奥さんと仲良くやってる?」


「お陰様でね。素敵な出会いをありがとうラティファ」


 警視庁警部を、ラティファが淳士と名前で呼んだ。美咲が波多野に聞く。


「ラティファちゃんと、お知り合いだったのですか警部?」


「かみさんとの出会いは、ラティファのお陰なんだ。私にとっては、魔族じゃなくて、ラティファは天使なんだよ」


 30年以上前に、魔界女子が地上に降りた時の任務は、波多野の縁結びだったようだ。4人は山荘へ入る。


「なぜバチカンが、魔族の存在に気づいたのかわからないが、ラティファも含めて魔族は危険な存在ではない。魔法は理解の超えた存在ではあるがね」


 波多野はそう言うと資料を開き、タブレットをラティファに手渡す。


「なるほど。地上での魔族狩りの状況はわかったわ」


 一通り資料に目を通して、ラティファは言う。日本で起きた魔族狩りの捜査資料。それは、美咲の父が残したものだとも聞かされた。そして、その死の真相を、刑事達は追っている。


「バチカンやICPO相手に、どうやって立ち向かうの淳士?」


「今は、ネットの時代だからな。世界中に、魔族や今起きてる事をばら撒く。ラティファも協力してくれ。バチカンの治外法権など許してはならん」


「格好いいおじさんになったね淳士。頼りにしてるよ!」


 ラティファは仲間が増えて、だいぶ安心した様子だ。山荘の大きめな風呂に美咲と一緒に入り、女子会さながらに、はしゃいでいた。

 着替えを持参していない美咲は、風呂から上がると、ブラウス1枚羽織った格好で、リビングを歩く。

 下着こそ見えないが、見張りをしながらも、窓際の葛には姿が見えてしまう。


(綺麗な足だなぁ)


 引き締まったプロポーションに、葛はドギマギしている。


「葛は、見た目の良い女の子なら、なんでもいいのね!」


 ラティファに心を読まれ、葛は言い訳も出来ない。


 美咲が、葛に質問する。


「まぁまぁ、2人とも仲良くね。葛君、ラティファちゃんとの、契約内容について聞かせて」


 自分よりも年下。警視庁の若手美人刑事に、ファーストネームで呼ばれた葛は、悪い気はしない。


「契約と言っても、縁結びのための魅惑魔法を、ラティファがかけてくれたんだ。効果はわからないけどね」


「なるほどね。相手の意識をコントロールするんじゃなくて、自分のアピール度を高める魔法か。魔法とも言えない気がするけど」


「と言うと?」


「ううん、なんでも無い。波多野さんの計画通りなら、ラティファちゃんを無事に魔界に帰して、葛君も元の生活に戻れる」


「そう願ってるよ」


 足を組み直した美咲に、思わず葛の視線は釘付けになった。ラティファが、葛にテレパシーで罵声を浴びせた。


(カズラぁ!このエロ男が!)


 人間は、瞬時に「期待」という名の、あらゆる選択肢や、可能性を頭に浮かべる事が出来る。

 その瞬間の思考を、読心術で読まれた32歳童貞男。変態呼ばわりされるのは、止むを得ない事ではある。


「何、怒ってんだよラティファ?」


「いい!もう寝る。ほら葛!」


 それでも就寝は、葛とラティファで同じベットで眠る。今夜の寝ずの番は、波多野が引き受けてくれた。

 ツインベットルームで、いつもの様に睡眠魔法をかけてもらい、葛は魔界女子を腕枕する。


「葛君とラティファちゃん、一緒に寝るの?公序良俗に反するわね。私も同じ部屋で寝ます!」


 今度は美咲が、別の意味でご立腹のようだ。3人はツインルームで、一緒に休む事になった。


(女心は、難しいなぁ)


 正木葛の、受難と女難の逃走劇は続く。


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